11 異常な私に悲鳴大
寝ても覚めても回復回復ぅ~となるかと思いきや、出来上がったのは同じ言葉を繰り返し呟き続ける、眠らない危ない人間でした。
そうです。何だか眠くならないのです。私の回復魔法はカフェイン入りか!? なんて思いつつ、魔法が使える楽しさとステータスで分かる魔法の熟練度が上がっていくのを見るのが楽しくて、延々とやっていました。
今の理由もありますが、一番は明るい子だくさん計画を考えないようにするという逃避が九割りでした。
これが魔力無限大が発覚してから二日ほど続きました。
ニットレッカーさんが見ればきっと驚きと驚愕の熟練度となった三日目の朝。
流石に呟き続けるのは不味いと思い、新たに動作を加えるという試みを始めました。
思い立ち、私は早速、お世話役のメイド様にお願いして姿見を用意してもらいました。
文句無しに両手を広げても鏡に当たらず、全体が確認出来る良いサイズを用意してもらい、上機嫌で動作の確認です。
まあ、ここで私は一つの問題を見ぬ振りをしました。
実は、姿見と一緒に運ばれてきたのは、元の世界では一生縁の無いキラキラ派手派手なバリバリの蛍光色ドレスがセットおまけで付いてきたのです。
ちらりとドレスカバーから見えただけでも引く色でした。
ドレスカバーから取り出すだけでも目を傷める危険性があるために、その中身の存在に気付いた時点で、メイド様に頼んでお引き取りしていただきました。
あんなドレスを着て、シャンデリアの明かりの下で煌びやかなパーティー会場に居る場面を想像すると、お眼目が塩素入りのプールから上がった後のように真っ赤っかになってしまうでしょう。
そんな想像を膨らませていると、この世界のお貴族様はお眼目が大変強いのかもしれないと、ふと思いました。
戸惑いのドレスの件はこれくらいにしておいて、魔法の練習に戻りましょう。
お転婆、ちゃめっけ、おどけにクール。コメディ、ホラーとやって、魔法少女に、戦隊風。少年、老年、狸に孔雀など、とにかく色んな設定で回復魔法の動作を考えて使い続けました。
人間、ちょっとハマると時間を忘れてしまいますね。
気付けば朝になっていました。
朝日に気付いた時、私は思ったのです。
(徹夜で何をやってるんだろう?)
今までのノリノリで熱々だった感情が、液体窒素の中に放り込まれたように急速に冷えていくのが分かりました。するとどうなるか。答えは火を見るよりも明らかです。
正面にある姿見に映る自分の姿に視線が止まりました。
(駄目、逸らさないと……)
この後、どでかい羞恥が来ると分かっていましたが、脳内を駆け巡る物質は、筋肉への指示よりも速く頭の中で映像を再生させました。
そうです。私が徹夜で一日中やっていた動作がエンドレスリフレイン。
特に熱が入っていた魔法少女っぽい動作のリピートに私は身悶えました。
必死で押し殺すうめき声。ベッドのシーツが無ければ、城内に私の悲鳴が響き渡っていたに違いありません。恥と言う名の劇物は、一瞬を許さず、強い効果のままで長い時間私を苦しめました。おかげで私の心は、消えない傷とやり過ぎた痛みという代償が残りました。
この辛さは回復の魔法では癒されません。
聖女と言えば癒し。癒しと言えば聖女。そんな風に思っていましたが、違ったようです。
適性に特別なものが無かったせいでしょうか。聖女の魔法は万能ではありません。
私が一頻りもだえ苦しんだ後、見計らったようにメイド様が入ってきました。
この国の聖女という存在の大きさを考えれば、もっと早くにやって来てもおかしくありません。それでも今まで誰も入って来なかったというのは、この世界の人の優しさだったのでしょう。
ですが、そんな優しさに心を癒される段階など当に越えていました。
私は、部屋の中で心をボロボロにして倒れ、床と同化していたからです。
「きゃあぁぁぁぁぁぁ」
どんな事にも動じなかったメイド様も、流石にこれには叫び声を上げました。
集まってくる人々。
私の耳に入っては通り抜けていく会話の内容は、何があったのかという問いかけばかり。
ありのまま、見たままを言えば良いと思うのですが、メイド様は優しかった。
名目上聖女とされている私が、床でボロ布のように這いつくばっていただなんて、メイド様は身分的にも立場的にも上である方々に詰め寄られ続けていても言わなかったのです。
立場的に当然なのかもしれません。ですが、それでも、どんな時も私に優しくしてくれるメイド様には、感謝しかありません。
このままではメイド様が何らかの罰を与えられるかもしれません。それは不本意です。
なので、私は立ち上がり、集まってきた人達に言いました。
「部屋に虫が入ってきまして、突然の事に驚いてしまったのです!!」
私は堂々と、そして大きな声ではっきりと言いました。
その内容と私の力強い発言に、彼らは戸惑いの色を隠しきれていません。
誰もが、そんな訳が無いだろうという表情でした。
ですが、それでも聖女が言った事。
ええ。聖女が言うのですから、集まってきた人々が追求出来る訳が無かったのです。
私は、この国の聖女に対する想いを利用し、当たり障りの無い嘘で場を乗り切ったのです。




