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聖女の乱進 ~無限の魔力で目覚めました~  作者: 鰤金団
幕切れ  エレナの忘れもの
110/112

あちらとこちらの玄関口 出迎えはあの人!?

「実は、ちょっと異世界に行ってたんだよね」

「やっぱり! 今のお姉ちゃんは中身はにせも……。はい?」

 自身の中の答えありきな発言が聞こえました。

「ちょっと恵理那。そうはならないでしょ」

「いやいや、お姉ちゃんこそ。体と心は別物とは言うけどさ、頭の中も別物になっちゃったの? お姉ちゃんは毒されないからお姉ちゃんなのに」

 色々と読み漁っているので、少なからず血となり肉となっているのですが、妹はそうとは思っていなかったようでうです。

「あのね、これ、本当の話でね。実は私、異世界で皆とは違う時間を過ごしてきたんだよ」

 嘘じゃないよ、ほんとだよ、っと恵理那に言いました。

「そんなの、誰だって言ってるよっ! 常套句だよっ!!」

「常套句っ!?」

 世間の人はそんなにもしょっちゅう、そこかしこで異世界帰りだと吹聴しているのでしょうか?

 私とは違い、交友関係が広い妹の事です。一概に嘘だと決めつけられません。

「あの日、頭とか打っちゃったの? 今からでも病院行かない? 心でも頭でも、体でもさ」

 妹の目は真剣で、総合病院で一纏めに見てもらった方が早そうなのに、それぞれに特化した場所をはしごするような圧を放っていました。

(……これは証拠を見せた方が良さそうですね)

 元より、準備が出来たから打ち明ける気になったのです。

 魔法を唱え、証拠を見せましょう。

「ケチルナ」

「いきなりどうしたの!? 出し惜しみしないでもっと全力で心配しろって事? もうフルスロットルだよ? なんならブーストしてるよ?」

 困惑全開で私に詰め寄る妹。必死さとは時に、目に入れても痛くないと思っている妹でも恐怖を抱くのだと知りました。

「とりあえず離れて。今、空に穴を開けるから」

「その発想が穴だらけだよ。生身でそんな事出来る訳無いでしょ。ああもうっ。これ、何科に行けばいいの!?」

「ふふ、出来るんだよ。私ならこれでね」

 自慢の体で既にやっておりますと、得意げな表情で妹に言いました。

「どれさ。今のお姉ちゃんからは、頭のおかしさしか感じなよ」

 この感じ、エリンナを思い出しますね。彼女の筆は進んでいるのでしょうか? それとももう完成して、上演していたりするのでしょうか?

 まあ、行ってみれば分かる事です。

 私は拳を握りしめ、あの日と同じように空を見上げました。

 雲がふよふよ浮いていて、八割の青空で良い天気でした。

「それじゃあ始めるね」

 最大威力で放てるように姿勢を取り、上空へと拳を突き上げました。

 その瞬間、私の周囲の空気は空へと上昇し、真上に在った雲が霧散しました。

 そして、空に亀裂が出来ていました。

「やった。成功した。ね、あそこから異世界に行くんだよ」

 どうだ、凄いでしょと、恵理那の方を見ました。

 あらはしたない。髪は大爆発。口は顎が外れたように大きく開き、空に視線が固定されていました。

「い、今の、お姉ちゃんがしたの?」

「この状況で私以外に出来る?」

「わ、わかんない……」

 現代の技術力で再現は可能でしょうか? その辺りは分かりませんので、妹の反応も間違いではないでしょう。

「それじゃあ、ちょっと行ってくるね」

「はえ? 行くって何? あそこに?」

 亀裂を指差し、恵理那が尋ねました。

「悪戯に空を割く訳ないでしょ」

「いや、普通の人は空を割く事自体が出来ない訳で……。って、それもあるけど違くて。あんな高さまでどうやって行くつもりなの?」

 なるほど、確かに。生身の人では絶対に届かない高さだものね~っと、妹の当然の疑問に納得しました。

「大丈夫。これがあるから」

 ペシッと私の足を叩きました。

「二週間前より逞しくなったかもしれないけど、その足で?」

「そう、この足で」

 疑っていると、もろに分かる表情をする恵理那。

「まあ、見ててもらえれば分かるから。じゃ」

 何時まで亀裂が維持されているのか分かりませんので、そろそろ行かなければいけません。

 跳ぶ姿勢に入る私。

「待って。私も行くっ」

 ギュッと抱きついてくる恵理那。こんなに強く抱きしめられたのは、妹が一人でトイレにいけないからと同行を頼んできた幼稚園の頃以来でしょうか?

「もう、恵理那は甘えん坊ね」

「いや、これは……。ああ、いいや。そういう事で」

 放してはくれないようなので、このまま行くとしましょう。

「あ、舌を噛まないように気を付けてね」

 恵理那はえっ? という表情をしました。必要な事は伝えたので、私はそのまま跳びました。

「うえぇぇぇぇぇぇっ」

 これまでに聞いた事の無い妹の叫び声と共に亀裂の中へと飛び込みました。

 中に入ると、私の記憶では一か月にも満たないのですが、懐かしい場所に出ました。

「恵理那、大丈夫? それと、神様ー。改心してますか?」

 妹はぐったりした様子で、私に全体重を預けています。

「いや、驚きだ。本当に驚きだ。まさか、あの世界から自力でここまでやってくるとは……」

 真人間という表現が正しいのかは分かりませんが、変態に振り切っていない状態の神様が出て来てくれました。

「あれ? もしかして、神様ってどの世界も共通?」

「そうでは無い。聖女の求めに応じ、私が対応したのだ」

 難しい理屈には興味はありませんが、本人が必要とした相手の所に繋がるという事で理解しておきましょう。

「ああ、それで良い」

 神様も何時も通りに心を読んでOKしてくれました。

「何はともあれ、ここに来られて良かったです。それで、お願いがあります」

「なるほど、分かった。やり残しを済ませてくると良い」

 とても話が早くて助かりますが、この神、心読み過ぎではないでしょうか。それにしても以前とは全く違う、とても冷静で理性を感じる振る舞いに驚きです。

「聖女とエリンナが渇望を癒してくれたのだ。立場上、直接的に接触する訳にはいかない。ついでで良いので、彼女に大変満足していると伝えて欲しい」

 それくらいなら、私の苦にもなりません。

 それに、すんなり通してくれる神様へのお礼がそのくらいなら助かります。

 場合によっては、久々に全力を出す可能性がありましたが、そうならなくて何よりです。

「……聖女。しばらく見ない間に好戦的になってはいないか?」

「私の世界で全力を出すと人が滅ぶまでのタイトルホルダーになりそうなので、鬱憤が溜まっているのでしょうか? 私としては、少し活動的になった程度で、そのような自覚は無いのですが……」

「そうか。では、あちらの世界でガス抜きをすると良い」

 慈悲深いですね。これが本来の神様なのでしょうか。

「ありがとうございます。それで、この後はどうすればあちらの世界に行けますか?」

「亀裂をあちらに繋げた。帰る時もまたこの場を経由する事になる。関所のような意味合いもあるのだ。通る度に何かを取るという訳ではないが」

 誰もかれもホイホイ異世界交流出来るようになっても大変ですし、空港のようなその場所の玄関口となる場所が世界同士を繋ぐ場所に無いのは変ですよね。

「分かりました。では、行ってきます。神様」

「何も心配は無いだろうが、気を付けて」

 何だか、両親に心配されているような感覚になる見送られ方をされてしまいました。

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