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聖女の乱進 ~無限の魔力で目覚めました~  作者: 鰤金団
エピローグ3 後編
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とある一座の演目3 後編

「こうして聖女様は、我々のために神と対話し、歴代の聖女様達が望まれた願いを叶えたのです。それは我々が忘れてしまった神から伝えられた、空での全てでした。そして、我々の為に力を尽くした今代の聖女様は、元の世界へと戻られたのです」

 寂しげな音楽から、今代の聖女エレナが無事に元の世界へと帰った事を告げた後、明るく希望の溢れる音楽へと切り替わり、エリンナは深々と観客に頭を下げた。

 それは、各地を回って演じ続けていた聖女の物語が終わりを迎えた事を意味していた。



 長旅と大作を演じ切ったエリンナは、楽屋裏で一息ついていた。

 ふと脳裏によみがえって来たのは、エレナが亀裂の中へ消えた後の事。

 エレナが作った亀裂が大きくなり、彼女が神様と戦っている様子が見えた。

 この映像は大陸中で見られ、その間、人々は空を見上げ続けた。

 空が元に戻ったのは、エレナが元の世界に帰った後。

 大陸の人々が混乱している中、エリンナの頭の中にだけ声が届いた。

 それは神からの言葉。そして、亀裂内での二人のやり取りが、自分がその場で見ていたかのような映像となって届けられた。

(でも、びっくりしちゃうよね。事の顛末を教えてもらったと思ったら、神様直々の劇を期待しているとか言われちゃうし。おかげで、物凄い重圧のせいで何度潰れかけたか分からない。だって、あの誘拐組織の中に居た変態が神の依り代だったとか、いたぶられる事を神が喜んでいたとか、絶対にそのまま表現しちゃ駄目な場面ばかりだったし。色々と試行錯誤した結果、私は劇中の神を人の望みを神が人知れず叶えた存在にした。それを知らぬ王国が自身の影と知らず、邪悪なるものと名づけ、戦いを始めた事にした。次第に追い詰められ、窮地に陥った時の国王様は救いの存在を求めた。それを神様が聞き入れ、聖女という存在を大陸にもたらした。そういう設定にした。王様は、先祖の過ちを正しく伝えて良いと言ってくれたけれど、それはそれで王国内に混乱が起こってしまう。せっかく正しく邪悪なるものの存在が広まり、理解されて平和になったというのに、エレナがした事を台無しにしてしまうと思った。だから聖女が誤解とすれ違いの解消を果したとする終わりにした。神様的にも自分の立場を良くする内容が嬉しかったらしく、喜んでもらえた。一世一代の大仕事は多方面で受け入れられ、大盛況の今に繋がってくれている)

「おえっ」

 過去を思い返していたエリンナを、当時の苦労が襲う。過ぎてしまい、成功となった良い思い出と、彼女自身は捉えている。

 だが、その苦労を思い返すと、当時の心労が蘇り、体が反応してしまうという難儀な状態になっていた。

 そこに来訪を知らせるノックの音が。

「はい、どうぞ」

 声をかけると、ドアが開いた。

「やあやあ、久しぶり」

 訪れたのはダイブロス王子。

 あの頃よりも落ち着きを取り戻した彼。しかし、当時以前よりも親しみやすく、接しやすい王子と評判になっていた。

「これは王子様」

 席を立ち、頭を下げるエリンナ。

「頭が低い。私達は友じゃないか」

 普通で良いと王子。

「そうであっても礼儀は必要ですから」

「良い心がけではあるが、王様寂しい」

 言動おかしく王子の背後から現れたのは、その声が呼称した通り、オットデキンダー王その人。

「ええっ!! どうして王様まで!?」

「来ちゃった」

 可愛い彼女のお出ましだとばかりの茶目っ気。老齢がすると軽く眩暈を覚える破壊力。

 それをもろに受けてしまったエリンナは、舞台後の疲れもあり、ふらついた。

「おっと、大丈夫かい? 大舞台の後だ。疲れているのだろう。さあ、座って」

 王子が受け止め、彼女を椅子へと運ぶ。

「恋の季節が来たか……」

 部屋越しに空を見上げ、呟く王。

「玉の輿……。それもまた悪くない……」

 様子がおかしいと言えばまだおかしい王子。しかし、王族入りしての生活は左うちわだろうと、エリンナは良からぬ夢を夢想し、口から洩れていた。

「ええっ、ちがっ。待つんだ、二人ともっ」

 慌てる王子。その姿に、噴き出す二人。

「冗談ですよ、王子」

「酷いぞ、エリンナ」

 弄ぶような事柄ではないと訴える王子。

 三人は、エレナが去った後、彼女の思い出話をしていく間に立場を超えて関係を深めていた。

 また、事情を知る仲であるため、そう言った部分を考慮せずに話せる間柄となっていた。

「初心と言えば良いのか、脈無しと見るか……」

 ただ一人、冗談度が違っていたのは、王様。

 歴史が記した通り、全てが解決した後、息子とエレナが結ばれる事を想定していたため、突然の彼女の帰還で当てが外れていたのだ。

 現在、王子のお相手を探し中だが、見合う相手が見つからない状況だった。

 それもこれも、聖女召喚の情報により、家柄等で吊り合う家の娘は皆、他所との婚約をしてしまっていたからだ。

「あの、それで、本日はどのようなご用事でしょうか? もしかして、緊急の事態に?」

 神が起こした事に対しては解決していたが、悪さをする者は神など関係無く行う。

 秘密部隊としての役割は今後も続くため、エリンナもその役目が来たのかと、表情を引き締めた。

「いや、舞台の成功の祝いと労いをするため、食事会をと誘いに来たのだ」

「王族直々にですか、王様!?」

「だって、若い娘に懸想していると思われたら恥ずかしいし……」

 モジモジして恥ずかしがる王様。

「いえ、直接やって来る方がどうかと思いますが……」

 直接出向くほどに入れ込んでいるという見方をする者の方が多いでしょうと、エリンナは頭を抱えた。

「それに、王族二人とか余計に……」

 国の頂点に位置する二人がやって来た。それは、貴族達が動くには十分な情報だった。

「うう、助けて、アワーフレッタさん……」

「それは無理だぞ。今、彼女は育成部隊の団長だからな」

 王子が無慈悲にエリンナに告げる。

 アワーフレッタは、聖女が残した訓練法を基に、能力は低いが見どころのある者達を鍛える役目を担っていた。

 今、彼女は基礎訓練を終え、選ばれた者達を指導している最中なのだ。

 本来ならば、基礎訓練後は配属先が決まる。だがそうでは無く、態々新設された部隊でまた別の訓練をやらされる。

 まだ存在が浸透していないため、再度訓練が必要なほどの無能の集まりだと見る者が多い。

 それが間違いだと知っているのは、既に訓練を終えた者と国の上層部。

 部隊名からも下に見られがちだが、その時が来れば、数百の集団が五十にも満たない人数に大敗する未来が待っている。

 そこで皆が知る。育成部隊とは、次期幹部候補となるエリート集団なのだと。

 そんな事実を突き付けられる育成部隊の初の合同訓練は、後数か月先の話だった。

 何時か、エレナに次ぐ、或いはそれ以上の存在を育てる事。

 アワーフレッタはそれを目標に、日々部隊員達に負荷をかけ続けていた。

 そのような事をしなくても、実力、魔力総量的に十分歴史に名を残せる力を持っているのだが、目指す高みが果てしないため、アワーフレッタが歩みを止める事は無い。

「どうせなら、彼女も一緒にと思ったんですが……」

 嬉々として部隊員に負荷をかけている様が目に浮かぶと、エリンナは諦めた。

「ただの思い出話をするための食事会だ。気にする必要は無いぞ」

 王様は、何度も行っているのだし、緊張も無いだろうと、エリンナに言う。

「何をどう言われても王族なんだけどなぁ……」

 生まれながらに染みついた立場の違いを払拭するのは中々に難しいと、エリンナはぼやいた。

「ならば、外で開放感たっぷりな空の下で食事にしようじゃないか。今日は特に天気が良いのだから」

 王子までそういうものだから、エリンナも折れる事にした。

「分かりました。では、外での食事会に参加させていただきます」

 席を立ち、頭を下げて答えるエリンナ。

「では、我々は外で待っていようか。息子よ」

「そうだね、パパン。じゃあ、下で待っているよ」

 と、王族二人は部屋を出て行った。

 待たせる訳にはいかないと、急いで着替え、楽屋を出るエリンナ。

 外へ出た彼女は、ふと空の異変に気付いた。

「王様、王子様。空がっ。空に亀裂がっ!!」

 叫び、彼女が指差した向こうには、何時かのように割れた空があった。

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