91 別れ 同士編
私が旅立つ予定の場所は、あの日に着地した平原。
そこに着くと、既に二人。先客が居ました。
「お、来た来た。随分話し込んでたじゃない」
待ちくたびれたと私の姿を見つけるなり、茶化しを入れてくるエリンナ。
「王様に挨拶をした後、王子がやって来てね」
「あの性格がガラッと変わった王子様に?」
まだ馴染めていないと、引き気味な反応を見せるエリンナ。
「でも、オワンネの時よりも落ち着いてるよ」
「あれで!? いや、話は聞いているけれどさ」
「それほどまでに抑圧させていたという事ですね」
「反動が無くなるのにはもう少しかかると思いますよ、アワーフレッタさん。もしもおかしな行動に出た時のためにヘビウェイの備えは忘れないでくださいね」
「そうですね。注意しておきます」
私との再度行った訓練により、アワーフレッタさんの負荷魔法は大陸一と言っても過言ではなくなっていました。
なので、もしもの時の抑止力としては申し分ありません。
「で、因縁の王子様とはどのようなお話をされたのですか、聖女様?」
わざとらしく恭しく尋ねてくるエリンナ。
「愛を囁かれましたわ。お断りしましたけど」
さらっと言うと、エリンナは引いた表情に、アワーフレッタさんはよくある恋だ愛だというものに高い関心を示す乙女の表情をしていました。
「エリンナは何でそのような表情を? 歴代の聖女様は王子様などの王族と結婚したと聞いてますよ」
「いや、まあ、その通りなんだけどさ。王子が結婚を申し込むのも何もおかしくは無いんだけどさ。エレナを知っているせいか、正気を疑っちゃってね」
「まあ、確かに正気ではないですからね」
自身の負と感じてた部分が戻って来たせいで、王子は未だに振る舞いがおかしいのです。
それでも、私が出会った頃よりは接しやすいとは感じますが……。
「で、ですけど。王子様が熱烈にエレナ様を求めたという事ですよね。どのような風にですか? 王子様の囁きに興味があります!!」
鼻息荒く、顔が近いですよ、アワーフレッタさん。どうやら彼女の前では恋だ愛だと口にしてはいけないようです。
私がその手の話とは無縁の住人だったので、空想か読み物でのやりとりくらいのストックがありません。
「そういえば、エレナの国の恋愛系の物語については聞いていなかったわね。どんなのがあるの?」
創作に結び付きそうだと鼻が利いたようで、エリンナの好奇心と探求心も刺激されてしまいました。
「恐らくはこの大陸、世界にあるお話と変わりませんよ。貴族が通う学園に一般市民が入学してきた事で、次代を担う王子が真実の愛に目覚めて、婚約者を追放するお話とか」
「え? それは――」
「待って、アワーフレッタさん。とかの続きを聞こうじゃない」
「他には、蛙に変えられた王子様ですが、ナメクジ女のおかげでなんとか元の姿戻れたのですが、ヘビだった魔女の視線が忘れられなくて動けませんなんてお話もありましたね」
「その蛙とかの生き物っぽいのが何かは分からないけれど、ドロドロな感じね」
「いえ、ギャグ……笑えるお話でしたよ」
「それの何所が笑える話になるの? そもそも、恋愛が軸になっているの?」
「ある意味で幸せな終わり方をしてましたね」
「その概要から幸せな終わり方になるのですか? エレナ様のお国のお話はよく分かりませんね」
「暮らしている人全員が空想妄想を常にしているような国ですからね。それはもう、多種多様なお話が生まれていますよ」
私は、お国自慢という訳では無いのですが、ちょっと自慢が含まれる言い方をしていました。
「前にも色んな物語について聞かせてもらったけれどさ、皆が現実には起こりえない事を考え続けてるの? それ、国として大丈夫なの? まともな国になってるの?」
「確かにそうですね。その日の暮らしや家族の事よりもありもしない事を考えなければならない人の心が心配ですね。邪悪なるものがよく生まれませんね」
おっと、価値観が違うからでしょうか。思ってもみなかった意見が飛んできましたよ。
「大丈夫ですよ。何だかんだで成り立っていますから。さて、お話はこれくらいにしましょうか」
これ以上は触れてはいけないアンタッチャブルな領域のお話になりそうですし、対応するのも面倒なので、強引に打ち切りました。
「もう、これからじゃない」
まだ話を聞きたいと渋るエリンナ。
「以前、里でそれをやった時、正座で長のネチネチとした小言を聞いた事を忘れましたか?」
「嫌な事思い出させるね……。仕方ない。じゃ、頑張ってね」
諦めたエリンナは、それはそれはあっさりとした別れの言葉をかけてくれました。
「流石にもっと涙を誘うような感じのやり取りにしましょうよ。劇作家なんですから」
「え、私は聖女様をかっこよく見送るカッコイイ頼れるお姉さんキャラで登場させるつもりだし。それに売りはあなたの奇々怪々さだしね。さあ、存分におかしな行動をして来てよ。それで、ちゃんと顛末を聞かせに戻って来てよね」
何だかんだで彼女らしい事を言っていますね。
「では、涙涙のお別れはアワーフレッタさんに期待しましょう。ではお願いします」
「えぇ!? そんな無茶な事を……。ですが、あちらでは何があるか分かりませんので、十分に注意してくださいね」
う~ん、お母さんです。
(そういえば、こちらに来てから随分と経ちましたが、家族はどうしているのでしょうか?)
突然娘が行方不明になったのです。それはもう心配しているに違いありません。
そういった事も含め、こんな世界にした相手にはきっちりと文句を言わないといけませんね。
「それで、どうやってあの時みたいに空の亀裂を作るの?」
「そうですね。ずっと気になっていました。何か、特別な魔法を習得していたのですか?」
身体能力を高め、あの時届かなかった場所へ行く。それを念頭にひたすらに負荷の中で強化魔法を鍛え続けてきました。
二人もその認識までは持っていたようです。
「残念ながら、そのような便利な魔法は覚えていません。なので、私はこの身一つで飛び込むと決めていました」
「決めていたというのは……? え、本気ですか!?」
「そこまでとは、極まってるわね……」
二人は呆れ顔。
「さあ、今こそ見せましょう。強化された私の力をっ!!」




