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90 別れ 王族編

 新たなる高みへ到達したと実感してから二日後。

 遂にその時がやって来ました。

 先を考え、動きやすさ重視でズボンで失礼しています。

「聖女エレナよ。ついにこの時がやって来たな」

 真に自分を取り戻して浮かれていた王様。流石に冷静さを取り戻し、私が知る威厳ある姿で出発前に訊ねた謁見の間に居ました。

「はい、王様」

 流石にこんなにも風格を感じる振る舞いをされては、パパン呼びは出来ません。

「……再会を願っても?」

 今回は今生の別れにもなりかねません。私としては早く帰りたい思いはありますが、目的が目的なので、頷くべきかも悩みます。

「では、戻って来た時にこれまでのお礼をしよう」

「それはどのような?」

「渡せる範囲であれば何でも良い」

「つまりは、何でもくれると?」

「渡せる範囲でならば」

 残念ですし、流石は一国の王です。簡単に何でもあげようとは言ってくれません。

 まあ、この国全てを貰い受けるなんて強欲な要求はしませんので、粘る必要もありませんね。

「では王様。私にベッドを丸ごとください」

「それだけで良いのか? あの部屋の家具全てを渡す事も可能だが?」

 拍子抜けした表情の王様。

「いえ、ベッドだけで良いです。他は要りません」

 この世界で私がもっとも優れていると感じた物。何時か抱いた通り、私はあれを持ち帰りたいのです。

「そ、そうか。実に慎ましい望みで驚いたぞ」

「王様からしたらそうかもしれませんが、私からするとこのお城よりも価値のある物ですよ。それに、あのベッドも最高級ですよね?」

 頷く王様。

「聖女様のための品が最高級以外であるはずが無い。王族が使っている物よりも良い物である事は間違いない」

 それを聞くと、かなり大きな要求をしてしまったのではと不安になりました。

「何も臆する事は無い。あなたは歴代の聖女様が成し遂げられなかった偉業を果たした。この大陸で長年保留にされてきた問題を解決させたのだから」

 とても凄い事をしたのだから問題無いと王様。そこまで言ってもらえるのなら、私も遠慮をするのは止めましょう。

「分かりました。では、全てが終った時にベッドを貰いますね」

「何時でも手渡せるようにしておこう。だから必ず戻って来るのだぞ」

「はい、王様」

 挨拶を終わらせ、私は謁見の間を出ようと向きを変えました。

 すると、扉がゆっくりと開きました。

(あの扉、本来はこんなに勿体ぶった開き方をするのですね)

 まるで国の最高権力者の威厳を示さんばかりの重々しい動きに、この国の歴史と立場の重さを重ねて見ていました。

「あ、居た居た。聖女ちゃん、会えて良かったよ~」

 軽い振舞いで駆け寄って来たのは、ダイブロス王子でした。

「……まだ、あなたのその軽さに慣れません」

 言葉を交わした数は少なくとも、その時の印象は人の話を聞かないながらも懸命に目的を果そうとしているというものでした。ですが、今はその目的も果され、引き締めていた紐が緩みに緩んでいます。なんなら引っこ抜かれている状態です。

「この姿を見せるのは君だけだ・ZE♡」

 ウインクついでにラブハートが飛び出している幻が見えました。

 さぶいぼが出てきました。もうお城の屋根を吹っ飛ばし、ここから自称神の元へ向かおうかと思うほどです。

「あなた、以前からそんなに気持ちの悪い性格だったんですか?」

「気持ち悪いだなんて心外だね。君を召喚した時の私は、思ったさ。好みの容姿じゃないなってね」

「あの時、そのような失礼な事を考えていたんですか。こっちは邪教徒に誘拐されたと恐怖していたというのに」

「出会いの時に最初に認識するのは姿だ。君がこちらを邪教と外見で判断したように、私も君を見た瞬間にそう思っただけの事」

 それを言われると、どちらが酷いというやり取りは不毛でしかありません。

「まあ、その後も君は私を拒絶していたからね。使命に必死で当時は考えが及ばなかったのだけれど、今なら分かるよ。それを抜いて、面倒臭い娘だと思ったけれどね」

 一つになったら随分ぶっちゃけるじゃないですか、この王子は……。

「しかし、オワンネで出会った君はとても魅力的だった。何せ、王子として私を見ていなかったからね」

「王子様とは思っていませんでしたからね」

「グフッ。今もそうだ。その変わらない態度が私の心に大砲を撃った時を思わせる衝撃を与える。重ねて言わせてもらおう。君に撃ちぬかれたと」

 何所を重ねたたのか分かりませんが、要するに今までの人生で出会う事の無かったタイプの相手なので、強い関心を抱いているというだけですね。

 所謂少女漫画である“おもしれー女”という事象です。

(私はひとっつも面白くないけどね!!)

 心の中で全力でツッコミつつ、手に取るように分析が出来た状況で、私が王子様にこの状況で心ときめくでしょうか? 答えは簡単です。

「そのまま倒れていれば良かったのに……」

 これが答えです。私のこれまでの目的を、心情を読み取れていたのなら、このようなやり取りも無かったでしょう。

 なので、求婚をしてきた時点で私を理解していないという事になります。

「ぐっ。なら、友達から。私達なら立場なんて超えた友情を結べるのではないか?」

「あなたとお友達ですか?」

「そうさ。二人で語らい、夜通し楽しもう。二人で語明かした朝に見る朝焼けは美しいだろうさ。まあ、君には負けるだろうけどね」

 彼は友人とのやりとりの一例として言っているのだとは思いますが、私にはどうにも内容が友人のそれとは違うように思えてなりません。

 価値観の相違が出会った頃からありましたが、それは彼の内面に変化が起こった今でも変わらないようです。いえ、もしかすると前よりも酷いかもしれません。

 なので、やはり相容れないようです。

「女友達を作ろうと頑張る暇があるのでしたら、婚約者をお決めになった方が王様の、パパンの喜びに繋がりますよ」

 私と出会う前。大陸を救う使命に燃える前の彼の事は分かりませんが、今の彼なら親しみも持てて友人なんてすぐに出来るでしょう。

 その繋がりでお相手もすぐ見つかるはずです。私よりも王子の事を思い、国を思うような相手が。

 これ以上話す事も無いので、会話を打ち切り、私は外へ向かいました。

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