88 集団ケチルナ
「それで、どんな遺言を残そうとしたんですか?」
「か、勝手に殺そうとするんじゃないわよ。一つ、思いついたのよ」
「思いついたとは?」
この状況で人に話したくなるほどに良い案とは何でしょう?
「ケチルナって、自分以外の相手には効果はあるの?」
エリンナの疑問で、私は彼女の閃きに気付きました。
「試した事が無いのでやってみましょうか。アワーフレッタさん、全力でお願いしますね」
「は、はい」
確認に負荷魔法は必要無いという声も私の頭の片隅と周囲から聞こえてきましたが、ケチルナの効果を確かめるにはこれが一番確実でしょう。
身体能力の違う両者に、同じ熟練度の魔法を使う。そうする事で呪文の効果を平時よりも確認しやすいと思ったのです。
もちろんお願いしたのは最大負荷のヘビウェイ。
私が使うのは全力全開のケチルナ。
何故なら、フルパワーのケチルナでは、私の動きが少し鈍くなるだけだからです。
私でそんな状態になるのなら、他の人、エリンナならどうなるのでしょう?
潰れるよりも更に酷い事にはならないとは思いますが……。
「ケチルナ」
エリンナに向けて使ってみると、彼女の体が夜なら助かる発光を始めました。
これはどういう事でしょう? 自身にかけると一時発光でしたが、今は常時発光です。
人に使うと一目で分かる親切設定になるのでしょうか?
思えば、回復魔法以外を使った事はありませんし、他者を対象とする負荷魔法以外に相手に向けて使う魔法を見た事がありません。
「え、これ、成功? 効果が出てるの?」
発光に驚き、エリンナはそれ以外の変化は二の次になっていました。
そこへアワーフレッタさん。
「それではいきますよ。……ヘビウェイ!!」
かなり感情と気合が籠った魔法発動でした。
「ふぬうぅっ」
普段人からはまず聞けない声と共にエリンナが倒れました。
これは強化の効果が無いという事でしょうか?
「エリンナ、どうですか? 動けますか? 動けませんか? どちらですか?」
「う……」
「う?」
「うごけ……」
「うごけ?」
「たっ!!」
四つん這いになったと思ったら、彼女は疲労困憊のボクサーのように俯いた状態で立ち上がりました。
「真っすぐは? 真っすぐはいけますか?」
このまま普通に動けるのではと、期待が膨らみます。
「む、むりぃ……」
どうやら立ち上がる事は出来ましたが、それ以上はまだ出来ないようです。
ですが、これは発見です。私は人を強くする事が出来るのです。ゲームにおけるサポーターのような役割も出来たのです。
回復良し、補助良しとくれば、これは聖女……ではなく僧侶的ポジションです。
「ねえ、エレナ。同時に何人までケチルナを使えるかやってみない?」
満身創痍なエリンナの視線が部隊の皆さんに向けられていました。
「良いですね。やりましょう」
なんて良い提案をしてくれるんだと、喜びで顔が緩んでしまいました。
人数は揃っているので、今居る人数分くらいに効果があれば熟練度上げにも丁度良さそうです。
「見ていましたね、皆さん。さあ、怖くありませんよ。大丈夫です。負荷魔法に耐えられるようになりますからね」
初めての……かどうかは分かりませんが、不安や恐怖が無いようにと満面の笑みで語りかけました。
その時の部隊の皆さんの表情はというと、これから始まる未知の体験に表情が強張っていました。
回復と補助に秀でた事が実証されたばかりの私が居るので、何も怖がる事はありません。恐れる必要も無いというのに。
「さあ、新しい訓練の時間です」
ケチルナの効率的な熟練度上げが出来ると思ったら、ワクワクが止まりません。




