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聖女の乱進 ~無限の魔力で目覚めました~  作者: 鰤金団
聖女様目覚める
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9 助けて、聖女様!!

 ただ「聖属性は攻撃魔法が無いので邪には通じませんよ」という感じで一言で済みそうな内容でしたが、ニットレッカーさんはかなり噛み砕いて説明してくれました。

 その姿は、こちらに説明しつつ、自身の頭の中の情報を整理しているだけのように私は思いました。

(全属性を扱えるのなら、邪という存在と戦えると思うのだけど……。属性を越えた何かが聖女の力には含まれているというよくあるオチとか?)

 聖女認定されている自分が、やがて姿形も分からない相手の根城に乗り込んで戦わされる理由を渋々理解しました。

「でも残念です。聖なる光で敵を燃やし尽くすとか出来れば良かったのですが」

 私がやった事のあるゲームなんかでは割とよく見たと、思い出しながらため息を吐いた。

「敵を燃やすとなると、それは火属性の力ですよ」

 おかしな事を言うと、ニットレッカーさんがクスリと笑う。

「光をぶつけて、相手を燃やすのは火属性なのですか?」

「はい。聖女様のお話を聴く限りですと、火属性ですね」

 光は聖では無く、熱のカテゴリーに入るという事のようです。

「で、では、光の球をぶつけたら?」

 光球なら攻撃になるのでは? と思い、尋ねてみました。

「それはただ眩しいだけでは? 球の形というのは面白いとは思いますが、聖属性の場合ですと、相手に近付くだけですし。距離の分だけただ眩しさが増すだけでしょう。やはり、目くらまし、いえ、視界を奪う効果止まりでしょう」

 何ということでしょう。ゲームだと光線だったり、光球をぶつけるのは聖属性扱いでしたが、ここでは回復と目くらまし以外の役割は持たないようです。

(指先からビームとか、目からビームとか、口からビームとかやりたかったなぁ。カッと目を見開いてのビームとかも。皆がやりたいワンシーンだと思うんだけどなぁ……)

 期待と夢と希望とやる気が一気にガタ落ちしてしまいました。

 想像とは違う事に肩を落とす私に、ニットレッカーさんは取り繕うように言いました。

「ま、まあ、聖女様。聖女様がどのような属性に適性をお持ちなのか、まだ分かりません。鑑定結果次第では、聖女様が望んでいる事が可能な属性の適性をお持ちかもしれませんし」

 ニットレッカーさんは、事情が分からないなりに頑張って私を盛り立てようとしてくれています。

 彼に非はありませんし、今後の身の振り方を左右する大事な検査です。

 何より、まだ属性の認識にズレがあっただけの事です。落ち込むのは次のステップに移ってからです。

 気を取り直し、適性を調べてもらいましょう。

「すみません、ニットレッカーさん。それで、適性とはどのように調べるのですか?」

「とても簡単です。鑑定魔法を使います。その際、身構える事無く、魔法を受け入れてください」

「抵抗があると鑑定は失敗するのですか?」

「はい。ただ拒むというのもそうですが、力量差のある者が相手ですと、弾かれてしまいます」

 魔王が赤ん坊に全てを見られるなんて絵を想像したら、当然の話だと思いました。

 どっちにしろ、私は陰キャで、この世界では歳弱の部類でしょうから、そのような心配は無用だと思いますけど。

「個人情報ですし、それだけ相手も重要視しますよね。でもお話を聞く限りだと、鑑定魔法というのは中々に使い勝手が悪いのでは?」

「戦いの場でとなるとそうですね。ですが、相手の体力、意志力を削る事が出来たのならば、強者相手でも鑑定は出来るようになりますよ」

 最初の一回だけで諦めてはいけないという事のようです。

「それは例えば拷問の類とかで、ですか?」

 私が物騒な単語を口にすると、ニットレッカーさんは驚いていました。

「失礼しました。聖女様からそのような単語が出るとは思っていなかったもので」

 ご容赦くださいと頭を下げるニットレッカーさん。私としては、そこまでの対応をされるような覚えは無いので、唯々恐縮してしまう。

「私は、皆さんが思う聖女のような育て方をされてはいません。なので気にしないでください」

 私はトイレにも行くし、飲んだり食べたりをしたら溜まっているものを放出も排出もする。寝転がってお菓子を食べるし、ツボに入ったなら大声で笑いもする。

 元の世界では理由が無ければ外に出ないし、人付き合いはほぼ身内限定のどこにでも居る女子でしかないんだ。

「ありがとうございます、聖女様。では、先程の質問にお答えしましょう。拷問という手段もあります。簡潔に言いますと、相手の精神や体力を疲弊させる行為が重要なのです」

 普段元気な人でも疲れている時には病気になる。そのような理屈みたいです。

「分かりました。では、もしも鑑定魔法が駄目だった時には外を走り回れば良いんですね」

「せ、聖女様が城の周りを!?」

 前代未聞な発言だったのでしょう。驚き過ぎて、そのまま後ろに倒れそうになるのを、ニットレッカーさんは踏ん張って耐えました。

「注意点ともしもの場合についてのお話も聞かせてもらいましたし、心の準備も大丈夫です。さあ、ニットレッカーさん。お願いします」

 全てを受け入れると、瞼を閉じ、全てを任せました。

「わ、分かりました。では、始めさせていただきます」

 暗闇の中でも分かります。私の前に、人の、ニットレッカーさんの気配があるのを。

 それから、頭の辺りから何かが入り込み、体の中に流れていくのを感じました。

(鑑定魔法って、全身に魔力? を巡らせて調べるんだ)

 不快とは思わなかった。人の体には血が巡っています。普段感じていないその感覚を感じ取れるようになった思えば、なれないのでむず痒い感じはしましたが、抵抗は無かったです。

「終わりましたよ」

 ニットレッカーさんの声に、私は閉じていた瞼をゆっくりと開けました。

 彼は前に立ったまま、巻物を私に近づけて広げていました。

 懐に忍ばせていたのでしょう。気になり、尋ねました。

「その巻物は何ですか?」

「これは鑑定魔法の結果を表示するための表示紙です。先ほど、聖女様の体を巡っていた鑑定魔法をこの紙に通す事で、内容を術者以外が目視出来るようになるのです」

 口頭だけでは術者が嘘を言う可能性があります。この巻物はそれを防止するための物のようです。

「そうでしたか。それで、私にはどのような適性がありますか?」

 ニットレッカーさんのように全属性持ちだというのなら、それはそれで嬉しいと思いつつ、彼の言葉を待ちました。

「そちらですが……」

 言い淀むニットレッカーさん。鑑定前に話していた内容とは違う結果だったと、すぐに分かりました。

「大丈夫です。仰ってください」

「は、はい。では……。聖女様の適性は聖属性のみでした」

「な、何ですと!?」

 外面用に声を作る事を忘れ、素の声が出てしまいました。まさかまさか、回復と目くらまし以外の役割を持たない聖属性のみだったとは……。

 チートは、チートはどこですか? 今すぐ私にチートコードをください。打ち込ませてください。

 この世界の神様なんて全く知りませんが、私はこの世界の神に願いました。

 ですが、聖女の祈りは届かなかった!!

「うう……。助けて、聖女様……」

 ショックで叫びが声になって漏れ出ていました。

「しっかりしてください。聖女様はあなた様です」

 私の両肩を持ち、正気になれとニットレッカーさん。

「無理です。この世界に神は居ません……」

 過るのは、あの私の感情を逆撫で、意欲をごっそり奪う才能に恵まれた王子との政略結婚の未来。

 子どもは何人でしょう。都道府県くらい生まされるのかな? 回復魔法で出産後も体は問題なさそうだし、産後疲労? 何それ? 状態なんだろうな。未来聖女量産計画なんていうのが進行されちゃうかも……。

 全ての気がごっそり奪われ、私は遠い目で虚空を見つめていました。

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