とある一座の演目
「みなさ~ん、もうすぐ始まりますよ~」
その少女の呼びかけは、野外に設営された舞台端からされていた。
大きなカーテンで仕切られた向こうでは、始まりの場面のために準備が進められている。
ここはトルナール大陸にある首都エルルートの広場。
これから行われる演劇を披露するトロン一座は、首都の中でも一番大きい広場を借りられるほどに人気があった。
数年前のとある出会いをきっかけに、この一座は大舞台へと歩み始める。
一座が披露する演目は、唯一無二であり、人々が最も期待する内容だった。
これを見るため、大陸の端からだって人が集まる。
これを見る人々にあらゆる境は無い。
誰もが皆、舞台上で展開される物語に目と意識が向けられるためだ。
先程の呼びかけの後、観客達はそれぞれに場所を見つけて舞台を見つめていた。
お客の期待は最高潮。その熱は、演者達にも伝わっていく。
両者の状態が整った時、舞台端に、先ほど呼びかけをしていた少女が再び姿を現した。
少女は席全体を見回すと、観客達に一礼した。
それを合図にざわつきは消え、場が静まる。観客達の視線は彼女に集まっていた。
「えー、皆々様。本日はトロン一座を観劇するために集まっていただき、ありがとうございます。これから始まるは、語り手エリンナによる稀代の聖女の物語。今代の聖女から伝えられし物語をお楽しみください」
再び一礼するエリンナ。観客達は拍手で彼女に応えた。
静かな音楽が鳴り始め、エリンナが語り始める。
「トルナール大陸に伝わる聖女様の物語。邪が大陸に広まり、民達の祈りが届く時。邪を払う力を備えし聖女がこの地に舞い降りる。遥か昔から続く聖女の伝説。これより語りますは、歴代聖女において、最も稀有な聖女様の物語。今を遡ること五年前。今代の聖女は、エルルート城の儀式の間において降臨されました」
エリンナの語りが終ると、曲が壮大なものへと切り替わり、舞台のカーテンは開かれた。
これは、型破りで、人知を越えた聖女様の物語。