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メルトダウンな恋と彼ら  作者: ニシロ ハチ
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エピローグ 3


「国王。敵襲です」

 ドアを勢いよく開けて、左大臣のディアブロが言った。

「敵襲?」国王は玉座に座ったまま、片膝を付いて跪くディアブロに言った。「この国に?」

「はい。氷の女王が現れました。それも、一人で」

「一人?」

「そのようです」

「要求は?」

「目的は不明です」

「まだ、国には入れるな。要求をきけ」

「はっ」ディアブロは、頭を垂れたまま言った。そして、勢いよくドアから出て行った。

 彼もよくやるな、と国王は思った。彼には、ここでも、リアルでも何度もお世話になった。ここで知り合った友人だが、左大臣としてなりきっているユニークな男だ。

 否。

 ディアブロの性別を、国王は知らない。ここでは、姿も口調も、男性で振る舞っているから、そう接しているだけだ。

 まだ、ドアが勢いよく開けられた。

「国王」ディアブロが緊迫した顔で言った。「先ほどの命令には、従えそうにありません」

「どうした?」国王は玉座に座ったまま言った。

「それが、私のすぐ隣に」ディアブロは、両手を挙げた。ドアが九十度以上開かれた時に、彼の隣に人がいるのが見えた。

 鋭利な刃物をディアブロに突き立てている。

 水色の髪に水色の瞳、白いドレスに白い肌。

 氷の女王だ。

 鋭利な刃物は、氷で出来ていた。                                                                      

「ごきげんよう。国王様。争うつもりはないの。お茶でもどうかなって」氷の女王はにこやかに言った。

「どうやってここまで侵入した?」国王は驚いた。

「ええ。見事なセキュリティでした。お化け屋敷より、驚きましたから。でも、私が話したいのは、ここの警備についてではありません。国王様の身の回りについてです」氷柱のような氷をディアブロの喉元に突き立てたまま、氷の女王は言った。

「そうは見えないが?」

「そうなんです。お手紙を送ろうかと思いましたが、私、せっかちみたいです」

「わかった。応接間に案内しよう」

「いえ。ここで結構です。椅子も……こうすれば、ほらっ」国王が座っている玉座と同じ形のものが、向かい合うように現れた。氷で出来ているようだ。

「見事なものだ。アミダ」国王は言った。

「早くお話をしましょう。椅子が溶けて無くなってしまいます」氷の女王アミダは、微笑んだ。

「なんの騒ぎ?」妃が王室にテレポートで現れた。そして、目の前の状況を見て瞬時に理解したようだ。

「追い出しますか?」妃の右手に宝石をあしらったナイフが握られた。

「待て。マナ。その必要はないみたいだ」国王は言った。

「ですが」妃は国王とアミダを交互に見ている。

「この部屋には、椅子が何脚ありますか?出て行って下さる?」アミダは言った。

「彼女の指示に従うように」国王も促した。

 アミダは、この世界での戦闘力なら頭が一つ飛び抜けている。殆どの人が家や畑の整備をする中、アミダは戦闘能力のみ上げていたからだ。そして、その力に憧れた人が、彼女に従って国が出来た。

「彼に手を出せば、許さないから」妃がマナを睨みつけた。

 アミダは微笑むだけだった。

 妃と左大臣が部屋から出て行って、国王と向き合うように、氷の女王が座った。氷柱はいつの間にか、消えていた。

「最近、忙しかったそうですね」アミダは言った。

「建国中だったからな」

「こちらではなく、あちらのことです」アミダは微笑む。

「リアルのことか?」国王は、少しだけ身構えた。リアルの自分を知っているものは、この世界にはマナ以外にいないはずだからだ。

「もちろん」

「まぁ。そうだな」

「私がなにをどこまで知っているのかわからない。だから、言葉を慎重に選んでいますね。でも、それは無意味です。私は全て、知っているのですから」

「全て?」

「全て」アミダは微笑んだ。

「リアルで会いに来てくれたら、お茶でも出したんだが」

「それでは、あなたと会話が出来ません」

 国王は、心底驚いた。

 何者だ?

 目の前の少女を、ジッと眺めるが、それはアバタでしかない。

「それで、なんの話がしたいんだ?」国王はゆっくりと話した。相手の出方を伺うしかない。

「氷漬けの死体を解凍した理由です」アミダは直ぐに答えた。

「本当に、私が誰だか知っているようだ」

「全て、と言ったはずです」アミダの冷たい笑み。

「生きたいと思うのは、不思議なことかな?」

「全て、知っています。腹の探り合いも、茶番も止めませんか?」アミダの眼つきが鋭くなった。

 アミダの椅子の周りの地面に、氷の結晶が幾つも現れた。その範囲がどんどん広がっている。地面が氷に侵食されているようだ。

「……わかった。なら、あなたの疑問はどこにありますか?」ハイジは深呼吸した後に、言った。

 氷の侵食が止まった。

「蘇生の理由です」アミダが答える。

「どうして、そこに疑問を持つのですか?」

「人が根源的に恐れているものは、いくつかあります。自分より上位の存在。自分を死に至らしめるもの。そして、自分と同じ存在です。神や幻獣や超人に至るまで、世界中で逸話はありますが、自分と全く同じ姿をした人間も、同じように恐れられています。自分より力が強い人や、暴力的な人が周りに存在しているのに、どうして、同じ力量の人間を恐れるのでしょうか?」

「あなたの答えは?」

「私は恐れていません。私以外の人が恐れているのです。でも、あなたは例外のようでした。だから、興味を持ったのです」

「そうか。……あなたが、望む答えを私は持っていない。それが残念だ」ハイジは微笑んだ。

 アミダは、無言のまま首を傾げた。

「最初はただの保険だった」ハイジは言った。「セーブポイントみたいなものだ。ただ、それが不要になった。私には、蘇生の必要性がなかった。ただ……」ハイジはそこで、言い淀んだ。

「どうしたのですか?」アミダは明らかに興味を持っている。

「…いや、もったいぶっているわけじゃない」ハイジは自分の頭を右手で掻いた。これでは、国王ではない。もう、ただのハイジに戻っていた。

 目の前の少女は、好奇心に溢れた綺麗な瞳を向けている。

「うん。そう。私には不要なんだが、彼女の為だ。ここでの妃だが、彼女とはリアルでも交友関係がある。……それで、私に触れていたいそうだ」ハイジは恥ずかしそうに言った。

「んっ?」少女はあっけにとられている。

「そう。冷凍されたままでは、体温がわからない。だから、蘇生させた。全部、彼女の為だ」

「あなたは、それでいいのですか?」

「ああ」

「なぜですか?」

「死んだのは、私の自由だ。蘇生させたのは、彼女の自由だ」

「我儘の間違いでは?」

「我儘も自由に含まれる」

「そうですか」アミダは、明らかに落胆の表情を浮かべていた。自分が望む答えじゃなかたのだろう。彼女の椅子の周りの氷も、綺麗さっぱり消えた。

 ハイジは、アミダの左腕の薬指にある指輪を見つけた。

「あれっ?あなたは結婚していたっけ?」ハイジはきいた。

「一ヵ月前にしました」アミダは答えた。

「そうか。その子とリアルで会ってみたいと思うかな?」

「毎日会っています。実は、今も腕を組んでいるの。私には、体温がわからないけれど」少女は、どこか寂しそうに微笑んだ。


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