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メルトダウンな恋と彼ら  作者: ニシロ ハチ
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第三章 4



 ステーションのエンプティにダイヴした。

 日本のエンプティで、ショートヘアに大きなオレンジ色のリボンを付けている。オレンジ色のワンピースは膝上までの丈で、夏らしく肩が露出している。オレンジ色のヒールを履いていたが、動きにくいので、白色のスニーカに履き替えた。

 ベルさんのエンプティは、ドイツ製だった。金髪に白い肌。黒のパンツを履いて、ヒョウ柄のシャツ。その上に黒と白のジャンパを羽織っていた。靴は黒のスニーカだ。恐らく、ベルさんも靴だけ履き替えたのだろう。

 目的地から最寄りのステーションだが、二十キロ以上は離れている。私たちは、走って向かった。その方が車よりは速い。道中は、なにも話さなかった。というより、ベルさんは、車ならスピード違反になる速度を出していたので、それについて行くのに必死だった。レプリカタウンと違い、生身の人が飛び出してくるかもしれないので、注意しなければならないからだ。

 そして、目的地にたどり着いた。

 画像では見たことがある。ただ、外から見るのは、初めてだった。間取りは見ていたので、大体予想通りだ。壁に蔦が生い茂っている。

 ベルさんは、玄関で挨拶をした。この時、ホワイト・ベルと名乗っていた。その名前を知らない人の方が少ないだろう。エンプティパイロットは、憧れの職業なのだから。ベルさんは、その中でも世界ランク第七位だ。もう、引退したらしいけど。

 玄関が自動で開いて、私たちは中に入った。マナさんが、階段を下りてきた。お互いに挨拶を済ませて、玄関を入ってすぐ右のドアに入った。恐らくここが応接間なのだろう。私たちがエンプティだと知っているので、飲み物は出なかった。地球環境的にも好ましい。

 マナさんは、私たちを疑うような目で見ていた。どこから見ても怪しい二人だろう。

 マナさんは部屋を出て行ったので、ベルさんと二人だけになった。特に話すことはない。少しすると、マナさんが部屋に入ってきた。

「ダイキ様の準備が出来ました。ご案内致します」マサさんは深くお辞儀をした。行き先は、やはり隣の部屋だ。そこがダイキさんの部屋だ。マナさんが扉を開けて、ベルさんが部屋の中に入った。それに私も続いた。二人が部屋に入ると、マナさんがお辞儀をして扉を閉めた。中には入らないようだ。

 前回と同じ部屋だ。私たちは、ダイキさんに挨拶をした。

 ダイキさんも同じ所にいた。服装は、ジーンズに白シャツという、これ以上ないくらいありきたりな恰好だ。ただ、生地からして安物ではないだろう。ダイキさんの向かい側のソファに座る。ベルさんがダイキさんの正面で私はベルさんの左隣だ。

「あなたが、本物のホワイト・ベルですか?」ダイキさんは、ベルさんを見ながら言った。

「はい」ベルさんは頷く。

「なにか技を見せてくれませんか?」

「別に構いませんが、この部屋で出来ることは限られます」

「そうですね」ダイキさんは、部屋を見渡した。「ダーツなんてどうですか?」ダイキさんは、壁にあるダーツの的を指さした。

「いいですけど、足の指で投げればいいですか?」

「えっ?」ダイキさんは驚いた表情をした。

「この部屋の広さでは、どこから投げても、任意の場所に投げられます。それでいいのなら、構いません。本物の証明になるかはわかりませんが」

 ダイキさんは笑った。

 ベルさんの言ったことは、虚勢でもなんでもなく、ただの事実だ。それに、ベルさんは本心から言っている。

「では、足でお願いします。壁に穴をあけても問題ありません」ダイキさんは片手でダーツの的の方を示した。

 ベルさんは頷いて、歩いて行った。ダーツの矢を一本手に取り、反対側の壁まで歩いた。

「靴下を脱ぐ時間が惜しいので、これで」ベルさんはそういうと、ダーツの矢を落とした。そして、矢が地面に落ちる前に、右足で矢を蹴った。綺麗な音が鳴った。

 矢は的の中心に刺さっていた。

「お見事。素晴らしいです」ダイキさんは、目を見開き拍手をした。ベルさんは会釈で応えた。こっちに戻ってくる。

「ああいう練習もするのですか?」ダイキさんがきいた。

「いえ。初めてです。ただ、最寄りのステーションからここまで走ってきたので、このエンプティの性能は把握してました。それが一番大きいでしょう」ベルさんは淡々と話し、元の席に座った。

「はは。素晴らしいです。私は、エンプティパイロットのファンなんです。いいものが見られました。それで話したいこととはなんでしょうか?」ダイキさんはにこやかに言った。

「ハイジさんのことです」ベルさんは、間を置かずに答える。ダイキさんの表情から笑顔が消えた。

「それでなにをききたいのですか?」ダイキさんは言った。

 その時、ドアがノックされて、マナさんが入ってきた。飲み物を持ってきたようだ。ダイキさんの前にカップを置いて、部屋から出て行った。

 最近、私は、メイドや家政婦や使用人と呼ばれるような人たちを、何度も目にする機会があったのだが、マナさんの所作は、その中では普通の人寄りだ。他の人たちは洗練されていたが、マナさんにはそれがない。恐らく、礼儀作法よりも効率を優先させているのだろう。広い屋敷を一人で管理しているのだから、ゆっくりと動くわけにはいかないはずだ。

「初めに言っておかなければならないことがあります」ベルさんは言った。「昨日、ここでダイキさんと話した警察のエンプティがいましたよね。あれは、僕と隣にいるネオンです。どうして、警察と一緒にいたのかというと、ハイジさんやハコブネに興味があったからです。事件の真相には、興味がありません。だから、これから、僕が話すことやきいたことを、警察を含めた誰にも話さないことを約束します。人の自由を邪魔する趣味はありません。ここにも、最寄りのステーションから走ってきました。余程注意深く探さないと、見つからないはずです。もし、警察に尋ねられれば、僕の名前を出せばいいです。世間話をしていたと口裏を合わせておきましょう」ベルさんは滑らかに、淡々と話した。ただ、言っている意味がよくわからない。犯人は知っているけど、逮捕には協力しないということだろうか?

 ダイキさんは、ベルさんの顔をジッと見ている。

「どういうことでしょうか?」ダイキさんは言った。

「もし、ハコブネについてなにか知っているなら、教えてくれませんか?」ベルさんは直ぐに答える。

「私がですか?」ダイキさんは、両掌を空に向けた。頭と合わせてwの文字を表現しているのだろう。whyの頭文字だろうか?

「私はなにも知りませんよ。ええ。当時は十四でしたから」彼はにこやかに答えた。

「僕の考えと八も違いますね」ベルさんは、ダイキさんを見たまま言った。

「ハチ…ですか?」

「……そうですね。わかりました」ベルさんは小さな溜息をついた。「折角謎を作ったのですから、それを解いて欲しいという気持ちはわからなくはありません。模型飛行機を作れば飛ばしたくなります。それと似ているのかもしれませんね。僕もわからない所がありますし、ついでにききましょう。時間はありますか?」

「それほど暇でもありませんね」

「では、早速本題に入ります」ベルさんは、周りを見渡した。「この部屋に録音機器はありますか?」

「ありません」ダイキさんは首を左右に振る。ベルさんは頷いた。

「今回のハイジさんに関する事件はこうです。まず、十年前に自殺したハイジさんが六日前に蘇生されたとニュースになる。そして、その三日後に誘拐されたニュースがあり、今日、殺された」

 弟を前にして、不謹慎ではないか、と心配になった。

 ダイキさんは頷いた。

「なんの為にそうなったのでしょうか?簡単です。そうなれば、得をする人物がいたからです。では、誰が得をしたか?ハイジさんを誘拐した犯人でしょうか?誘拐犯は、ハイジさんから情報をききだせたと、考えられるかもしれません。そして、殺したと。おかしくありませんか?」ベルさんは僅かに首を傾げた。

「なにがですか?」ダイキさんは、にこやかな表情のまま言った。

「情報が欲しいなら、ハイジさんの意識が戻ってからでもいいはずです。蘇生されて、意識がないまま誘拐するメリットはなんでしょうか?」

 沈黙。

 ダイキさんは黙ったままだ。

「情報を独占したかったんじゃないですか?」私は堪えきれずに言った。ベルさんは、私をチラッと横目で見た。

「なんの為に?」

「ハイジさんを直ぐに殺さずに誘拐したのは、情報をききだす為です。そして、ハイジさんの持つ情報が、世間に漏れるのを阻止する為でもあります。情報をききだしたので…その、殺したんです」最後の部分が言いにくかった。

「その場合、ハイジさんが重要な情報を持っていることを、誘拐犯は知っていたことになります」ベルさんは、ダイキさんを向いて言った。「そして、ハイジさんの居場所も知っていた。なら、どうして、蘇生されてから誘拐したのでしょうか?予定よりも早く、ハイジさんの意識が戻るリスクは、十分にありました。意識が戻れば、誘拐犯にとっては非常に良くない事態のはずです。ハイジさんを知っているなら、蘇生される前に誘拐して、任意の場所で蘇生させればいいだけです。十年間という時間があったのですから、いつだって出来ます」

「もしかして…ハイジさんの蘇生に立ち会った、医師や専門家たちが犯人ということですか?」私はきいた。

 それなら、蘇生されてから、誘拐された事実と辻褄が合う。

「それまでは、ハイジさんの居場所がわからなかった。医師たちは、蘇生した本人なのですから、場所も意識が戻る予測も把握していたはずです」私は思いついたことを言った。

「立ち合いの三人を選んだのは誰ですか?」ベルさんは、ダイキさんに言った。

「マナです。私は関わっていませんね。彼女がその辺も事前に調べていたのでしょう」ダイキさんがハキハキと答える。

「専門家たちに、ハイジさんをどのように説明しましたか?どの位、冷凍保存されていたか、くらいは教えたでしょうが、ハイジさん個人の詳細は伏せていたはずです」

「ええ。まぁ、そうですね」ダイキさんは答える。

「彼らにとっては、患者の一人です。その個人の過去を細かく調べ上げることは考えにくい。どうして、ハイジさんがなんらかの重要な情報を持っていると、知っているのですか?」

「でも、蘇生されてニュースになった時に、十年間眠っていた人物が蘇生されたと記事になってます。十年前と自殺とわかれば、誰だってハコブネを連想します。彼らがハコブネに興味を持っていれば、考えられなくもないはずです」私は疑問をぶつけた。

「ハコブネに興味があっても、その情報を独占したいとは考えないよ。ただ、真実は伏せられるかもしれない。それ位は考えられるけど、わざわざ、誘拐したいとは思わないはずだ。それに真相を知るだけなら、殺す必要もない。罪を重くする理由が彼らにはないはずだ」ベルさんは淡々と答える。

「ハコブネ関係者だったのかもしれません。それで情報を外に出したくなかったのかも」

「それなら、誘拐する理由がない。殺すだけでいいはずだよ。それに、ハイジさんの居場所を知る方法が、マナさんからの蘇生の依頼を受けるのみ、というのは、可能性が低すぎる。別の人に依頼が回る確率の方が高いのに、そこで待つだけの作戦なんて取らないだろう。依頼を受けた時、偶然知ったのなら、誘拐犯が現在も警察から姿を晦ましていることに疑問が残る。入念に準備をしないと、何日も痕跡を消したままにするのは、難しいだろうから」

「まぁ、そうですけど」

「確かに、専門家ら三人を完全に否定する証拠はありません。三人のネットの履歴を辿ればそれらしいものが見つかるかもしれませんが、現時点ではなにもない。もし必要と判断すれば、警察が調べ上げるでしょう。だから、もし、その三人が犯人でないと仮定するなら、誰が得をしているのか」ベルさんは、大きく息を吐いた。わざと一呼吸置いたのだろう。

「ハイジさんが蘇生され、誘拐され、殺される。これらが意味するのはなにか?まず、蘇生から考えましょう。蘇生されたことにより、ニュースとなりました。世界中が注目していたと言ってもいいでしょう。そして、三日後に誘拐された。これにより、警察がこの屋敷を調べました。そして、ハイジさんがいつ、どうやって誘拐されたのか、という真相はわからないまま、今日、殺されました。犯人は、ハイジさんを殺した動画をネットにアップしています。つまり、目的が達成されたのでしょう。全てが犯人の思惑通りに動いているとします。蘇生の報道と誘拐と殺害。この中で一番違和感があるのが、蘇生の報道です。どうして、蘇生されたことがニュースとなったのか?これがわかりませんでした。恐らく、誰一人として、情報が漏れることを、望んでいないからです。ここだけが、ずっと引っ掛かっていました。誘拐犯は、ハイジさんの居場所を特定出来ているなら、犯行に及べばいいだけです。騒がれることを望んでいるはずがありません。もしかしたら、マナさんが、新たに警備を付ける可能性だって考えられるんですから。この疑問の答えを、幸運にも、ついさっき知ることが出来ました。ハイジさんの蘇生は、十年前から、知られていたのです。それを待っている人物がいた。勿論、犯罪者ではありませんが、ハイジさんの意識が戻れば、事情聴取くらいしたでしょう。ハイジさんは、話せないか、知らないか、どちらかはわかりませんが、ハッキリとは答えないはずです。そうなると、その後の生活も、監視まではいかなくても、様子を伺う程度には干渉される可能性もありますし、その情報が外部に漏れて、今回のような誘拐事件に発展する可能性だってあります。それは、ハイジさん本人だけではなく、屋敷に住む人、全員に同じリスクが付き纏うはずです」

 私は無言で相槌を打ちながら聴いていた。特に新しい情報がなかった気がするが、なにが言いたいのだろうか?

「そして、誘拐です。これの目的は簡単です。この屋敷からハイジさんを消し去りたかった。当然、警察により、屋敷は隅々まで調べられ、いないことが確認される。そして、どうやってハイジさんを運び出したのか、ここに捜査の目が向きます。疑わしい人も現れますが、決定的な証拠が見つかりません。そして、そのまま、ハイジさんは殺されます。動画にはハイジさんの顔がしっかりと映っています。それを、ハイジさんの顔を知る人が見れば信じるでしょう。偽物を用意するにも、誘拐から三日では短すぎます。そうですね。大人数が関わるチームが存在して、連携が上手くいけば、綺麗な整形に化粧で誤魔化すことも、不可能ではないかもしれませんが、大人数だと捕まるリスクが大きいですし、得られるものが少ないです。だから、あれはハイジさんが殺されたと考えられます。そのことに意味がある。この屋敷で殺されたのではありません。どこかわからない場所で、殺されたのです。今回の事件の一番の要は、なんといってもそこです。ハイジさんの死です。これにより、ハイジさんから得られる情報は、今後一切ありません。どんな情報を持っていようが、死んでしまっては、つまり、蘇生が叶わないのなら、無価値です。その状態を、犯人は望んでいたのです」ベルさんは、ダイキさんを見つめたまま話した。

 ダイキさんの顔から笑顔が消えている。真剣な表情だ。

 ベルさんの言った通り、もし、ハイジさんが誘拐されなかったら、そして、殺されなかったら、ハイジさん本人も、この屋敷に住む人も迷惑しただろう。

 特に、この屋敷に住んでいた、ダイキさんやマナさんやコイトさんには、その状況は好ましくないだろう。

 今は、この屋敷にいるのは、ダイキさんとマナさんの二人だ。コイトさんは、昨日から失踪している。ベルさんの言った通り、現在の状況が、犯人の思惑通りなら、誰が得をしているだろう?

 失踪したコイトさんは、どうなのだろうか?よくわからない。捕まるのを恐れて逃げた、と考えるのが妥当だけど、それ以外になにかあるだろうか?

 ダイキさんとマナさんはどうだろうか?

 マナさんは、ハイジさんの蘇生に関わった人だ。彼女がハイジさんを蘇生させたと言っても過言ではない。ハイジさんの指示を、十年間にわたって従った人だ。ハイジさんが殺されることを望むなら、蘇生させなければいい。情報が欲しければ、誘拐する必要はないのだ。地下室で蘇生して、監禁すれば、誰にも知られることはない。

 では、ダイキさんは、どうだろう?ダイキさんは、ハイジさんが自殺した時は、十四歳だった。まだ、子どもだ。そして、この屋敷の主となり、マナさんに支えられて成長した。ダイキさんにとって、ハイジさんの蘇生は、十年ぶりになる兄との対面だ。喜ばしいことだろう。

 ……。

 でも、ハイジさんが監視対象となれば、間接的に、ダイキさんにも被害が及ぶだろう。それに、ダイキさんは、この屋敷で十年間も、マナさんと暮らしていたのだ。ハイジさんの蘇生は、その生活を狂わす原因となるはずだ。親から引き継いだ遺産は、ハイジさんとダイキさんで分配されて、ハイジさんの死後、ダイキさんに渡った。それが、また、分配されるのだろうか?二人は、仲が悪いようには思わなかったが、それは、ダイキさんが言っていただけだ。現に、歳が離れている為、あまり話さないと言っていた。

 ダイキさんには、動機がある。

 ハイジさんを殺害する動機が。

 もしかして、ベルさんは、ダイキさんを追いつめているのか?だから、ダイキさんに言い聞かせているのか?

 もしかして…。

 自首を促す為に、犯行を暴いているのか。

 少し、怖くなった。

 ダイキさんを見る。

 爽やかな笑顔は消えている。ベルさんと睨み合っているようにも見える。

 ダイキさんが犯人。

 この十年間、ハイジさんを殺さなかったのは、自分への疑いを避ける為。ハイジさんが蘇生された後に、その情報を世間に流せば、警察は外部の犯行と考えるだろう。そして、ハイジさんを誘拐して、殺した。

 全て、自分への疑いを向けない為の対処だ。

 もしかしたら、ダイキさんは、ハイジさんの蘇生に初めから反対だったのかもしれない。ただ、マナさんは、それに従う使命があるから、順守した。

 それは、仕事の使命だけだろうか?

 もしかしたら、マナさんは、ハイジさんに好意を寄せていたのではないか?

 だから、十年間も待ち続けた。

 ダイキさんは、それを止められなかった。だから、ハイジさんを誘拐して殺した。

 コイトさんは、ダイキさんのその様子に、気づいていたのではないか?

 ダイキさんとは、恋人同士なのだから、それ位の異変には勘づくだろう。

 そして、怖くなって、ダイキさんの元から逃げ出した。

 失踪の原因は、警察から逃げる為ではなく、ダイキさんから逃げる為なのか?

 全ての辻褄が合うような気がする。

 パズルは解けた時と同じような達成感と、恐怖をブレンドした感情が湧いた。

「わかりました」私はゆっくりと発音した。

「ダイキさんが犯人なのですね?」私は、ダイキさんとベルさんを交互に見た。

「まぁ、そうなるかな」ベルさんは同意した。

 息をのんだ。

 私はダイキさんを見る。

 怒る様子も、慌てる様子もない。

 落ち着いている。

 それが怖い。

 人を殺しておいて。

 兄を殺しておいて。

 嫌いだったのか?

 それとも、迷惑だから、殺したのか?

 唯一の家族ではないのか?

 彼にとって家族とは、その程度のものなのか?

「彼がハイジだ」ベルさんは淡々と言った。



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