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メルトダウンな恋と彼ら  作者: ニシロ ハチ
20/32

第二章 9


 高い天井。

 日光を偽装した光が、窓を模倣した壁から差している。

 広い部屋。

 静かな部屋。

 ガラスの壁は、ブラインドが降りて中が見えない。

 モダンな階段は魚の骨を思わせる。

 幸せな空間。

 偽物だったのだろうか?

 お友達がいた。

 人形のお友達が。

 いつも寝坊ばかりするから、私が起こしてあげた。

 朝ごはんを作って、一緒に食べた。

 お話をした。

 一緒に笑った。

 本当は一人だったから。

 両親は、階段を上った先にある、ガラスの部屋に閉じ込められている。

 そこから出てこない。

 だから、広い部屋に一人だった。

 お友達の人形には、名前があった。

 それだけで、十分だった。

 ガラスの部屋は二つある。

 その二つの部屋に、両親がそれぞれいる。

 二人がそこで仕事をしていることは知っていた。

 何度も何度もきいたから。

 寂しかった?

 ……。

 誇らしかった。

 研究者の両親が誇らしかった。

 寝る間も惜しんで仕事をしていた。

 ブラインドの隙間から、二階の部屋の照明が漏れている。

 私が起きている間は、ずっと研究をしていた。

 私には、お友達がいた。

 それだけで、十分だった。

 研究とはなにかと、きいたことがある。

 誰も考えたことのない、新しいことを、見つけることだ、そう答えた。

 それがなんなのかは、わからない。

 こっそり、部屋の中を覗いたことがあった。

 魚の骨のような階段を上って、ガラスの部屋のドアを開けた。

 寂しかったのだろうか?

 甘えていたのだろうか?

 お父様は、こっちを振り返らなかった。

 気づいてもいなかった。

 机に向かったままだった。

 その背中を覚えている。

 今も。

 誇らしかった。

 お友達がいる場所を見降ろしながら、反対側に回った。

 そこはお母様の部屋だ。

 ドアを開けた。

 お母様も机に向かっていた。

 ただ、私がずっと見ていたから、お母様は気が付いた。

「いつからそこにいたの?」お母様は言った。

 わからない。

 ずっと、いたから。

「どうしたの?」お母様は言った。

 わからない。

 私にはわからない。

 お母様は、優しく微笑んで、ゆっくりと歩いてきた。

 そして、私を抱きしめてくれた。

 あの温もりを覚えている。

 今も。

 柔らかかった。

 あの匂いを覚えている。

 優しかった。

 そして、あの日。

 あの日、食事の時間になっても、両親は下りてこなかった。

 不思議だった。

 お腹が空いた。

 でも、研究をしているのだろう。

 ブラインドは降りたまま。

 広い部屋。

 静かな部屋。

 お寝坊のお友達も、もう起きていた。

 お友達の分の朝食を作ったのに、私の分はまだだった。

 魚の骨を上った。

 あの日、扉から覗いた日から、部屋の中を見るのは止めようと決めていた。

 でも、お腹が空いたから。

 お父様もお母様も、きっと同じだろう、と思った。

 お父様の部屋の前まできた。

 扉を開ける。

 静かな部屋だった。

 物に溢れて、整理されていない。

 あの時の、背中を覚えている。

 それと同じ背中があると思っていた。

 異変には直ぐに気が付いた。

 お母様の部屋に走った。

 扉を開ける。

 同じだった。

 お父様もお母様も同じだった。

 怖かった。

 それが、最初にあった。

 頭に変な機械を付けている。

 眠っているわけではないと、直ぐにわかった。

 不思議だ。

 どうして、死んでいるってわかったんだろう?

 あんなにも綺麗なままなのに。

 魚の骨の階段を下りた。

 どうやって歩いたのか、記憶がない。

 もう、あの背中を見ることは出来ないのだろう。

 もう、抱きしめて貰うことは出来ないのだろう。

 広い部屋。

 静かな部屋。

 私にはお友達がいる。

 お寝坊のお友達が。

 それだけは、足りなかった。


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