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メルトダウンな恋と彼ら  作者: ニシロ ハチ
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第二章 3



「マナさんが言っていたことに、矛盾点はありませんか?」私は、タンブリンマンに確認した。勿論、声には出していない。ベルさんにも聴こえるように、三人での会話だ。先ほどまで、マナさんと話していた部屋を出て、大きな吹き抜けの中央にいる。どのドアも見渡せる。天井がアーチ状で吸い込まれそうなほど高い。手を伸ばしても、絶対に届かない安心感がある。底なし沼のような、残酷な心地良さだ。

「ああ。以前と同じことを答えている」タンブリンマンは答えた。

「ゲームはどうですか?本当にプレイしていましたか?」

「それも確認済みだ。同じ時間にオンラインでプレイしていた人の中に、動画をアップしている人がいた。ゲーム内の会話で彼女の声も確認している。以前の彼女のプレイと比べても、本人に違いないと思われる」

 そこまで調べているのは、やはり、警察もマナさんを疑っていたからだろう。ゲームが嘘なら、マナさんが犯人や共犯である可能性は高くなるからだ。ただ、現在も、マナさんの疑いが晴れたわけではないだろう。声は事前に録音したものを、適切なタイミングで発音すれば、その時に喋っているように装える。それに、プレイは、小型のコントローラで遠隔操作すればいい。なにか作業をしながら、ゲームを続けることは不可能ではない。没入感を損なうだけだ。

「ハイジさんが蘇生された時に立ち会った医師や専門家から、話はきいたのですか?」私はきいた。

「ああ。誰が立ち会ったのかは、確認が取れている。医師が一人、看護師が一人、冷凍保存の専門家が一人の、計三名がこの屋敷にエンプティドールで訪れた。専用の器具も彼らが運び入れた。三人とも、蘇生は成功したと言っていたし、不審な点もなかったそうだ。つまり、外傷などは一切見当たらなかった。職業上、詳細を話せない関係で、この程度の情報しか得られなかったが、確かにあの地下室で、ハイジは蘇生された、と答えた」彼は私の目を見たまま声に出さずに言った。

「ハイジさんの昔の写真はありますか?」

「日常的なものは、残っていないそうだ。映像に残す趣味がなかったのだろう。ただ、十年前のハイジさんが街に出た時に防犯カメラに映り込んだ映像ならある」

「蘇生に立ち会ったのは、誰がいますか?」

「マナさんと、さっき言った三人の計四人だ。マナさんがハイジ本人だと認めている。だから、先ほど、あなたが言った、ガラスに映像を投影するという方法では矛盾がある」

「いえ。それはホントに思いついただけです。ハイジさんが蘇生する為には、直ぐに冷凍保存させる必要があります。時間が限られるので、確認も疎かになります。別人が保存されていた可能性もあるのでは、と思っただけです」私は笑顔をつくってあげた。「それで、蘇生された後は、普通のカプセルに入って、意識が戻るのを待っていたんですよね?」

「そのようだ」

「医師たちは、なにか不審なことに気づきませんでしたか?」

「不審なこと?」

「なんでもいいんですけど、普段とは違ったなにかです」

「エンプティ専用端末を付けていたこと以外に、不審な点はないそうだ。…ただ、その医師たちが、なにか不審というか」タンブリンマンは、舌打ちをした。

「どういうことですか?」

「いや、ただの勘だが、あまり話したがらない。なにかを隠しているやつが、ボロを出さないと意識している時の反応に類似している。が、ただ単に、職業上の都合で話さないだけかもしれない。確かなことではない」彼は言った。「その三人の動向については、現在も調べているから、おかしな行動をしていれば、わかるだろう。三人とも、資格もあるし、十年以上はその仕事に就いている」

「蘇生に使った器具などは、彼らが帰る時に持ち帰ったのですよね?」

「そうだ。圧力センサにも矛盾はない。つまり、ハイジさんが眠っている部屋に入った時と、外に出た時で、総重量に差は無かった。このことからも、ハイジさんは、蘇生後も地下室の部屋にいることがわかる。機器の重さにも不審なところはなかった。」

「医師などが帰った後に、地下室に入ったのは、マナさんだけですか?」

「データではそうなっている。彼女が言った通り、午前と午後七時に彼女の体重を、センサが捉えている。日や時間によっては、服装などによる僅かな質量差はあるが、行きと帰りでは違いはない。つまり、なにかを地下室に運んだり、また、地下室からなにかを持ち出した形跡はない。ただ、顔を眺めているのかは知らないが、ハイジさんが眠っている部屋に五分程度は留まっている。十年間、一度も顔を見ることが叶わなかったのだから、不自然な反応でもない」

「十年間にわたり、地下室への出入りは、本当になかったのですか?」

「毎秒ごとの記録が残っているわけではない。ただ、反応があった場合は、全ての記録が残る設定になっている。つまり、十年以上前の記録なら、全てを把握出来ないほどある。地下室を日常的に使っていたのだろう。この十年間は、一度も記録はない。蘇生の為に立ち会った、五日前まで、誰一人立ち入ってはない。勿論、データが消去されたり、改ざんされた形跡はない」

「そうですか」

 それじゃ、やっぱりハイジさんは、五日前に蘇生されて、地下室に眠っていた。マナさんが様子を見に来る以外に接触した履歴もない。この屋敷にエンプティが存在しないので、ハイジさんを連れ出せない。最後にハイジさんを確認したのが、マナさんだ。マナさんが外まで連れ出した本人なら、三日前の午後七時にハイジさんがカプセルの中にいる、という証言も嘘の可能性がある。ただ、どうやって圧力センサを潜り抜けたのかは、わからない。眠っているハイジさんを連れ出すのは、無理だろう。

 それに、カプセルの外に出すのは、危険が伴う。

 でも、センサだけを信じるなら、まだ、地下室にいることになる。

 なのに、いない。

 密室で意識の無い人が消えた。

「この屋敷内にカプセルは、幾つありますか?」私はきいた。

「地下の二つと、ダイキさんがもう一つを持っている」タンブリンマンは答えた。「そのカプセルは、ゲームに使われているそうだ」

「どこにありますか?」

「ダイキさんの部屋だ」

 それなら、マナさんが誰にもバレずに、一時的にそこにハイジさんを入れるのは難しいだろう。

 この屋敷の人たちを疑うのは、着眼点が間違っているのだろうか?ここの住人なら、ハイジさんから情報が得られるのだ。誘拐する理由がない。

 外部の人間の犯行だとするなら、三日前の午前七時以降に、ハイジさんが誘拐されたことになる。そして、ハイジさんの失踪がわかるまでの間に、外に出入り出来るのは、マナさんが開けた十五秒間だけだ。その僅かな時間の内に、玄関から中に入り、そして、玄関からハイジさんを連れ出したのか?やはり、無理があるだろう。少なくとも、マナさんは気づくはずだ。なら、十五秒で、連れ出したのを、マナさんが見逃したのか。

 例えば、ハイジさんが知る、マナさんについての、なんらかの秘密が漏れることを恐れて、彼女が誘拐犯に協力した可能性はある。ただ、それなら、ハイジさんを蘇生させなければよかったのに。

「連絡が取れた。ダイキさんと話が出来る」タンブリンマンは、口に出して言った。


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