表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メルトダウンな恋と彼ら  作者: ニシロ ハチ
11/32

第一章 10


 ベルさんの予定が空いていた。

 なので、ケーキを持ってベルさんの部屋に訪ねた。コーヒーを二人分淹れて、テーブルに運んだ。ベルさんは、いつもの場所に座り、私はその対面に座った。ケーキの種類は、チョコレートだ。

「ハイジさんが眠っていた建物に訪れたそうですね」私はベルさんにきいた。コーヒーカップを持って、何気ないように装ったが、表情だけは見逃さないようにジッと見た。

 ベルさんは天井を見て、ゆっくりと大きく息を吐いた。ケーキを一口食べて、カップを口に運んだ。だが、唇で温度を確かめただけみたいで、液体が喉を通過してはいない。

「どうなんだろう。僕もよくわからない」ベルさんは、困った顔をした。

「なにがですか?」

「いや、それらしい建物を訪れたことはあるけど、それがハイジのいた建物かどうかは知らないんだ。あれは、ハイジが眠っていた建物なの?」

 ベルさんに質問されてしまった。

「そうみたいです」私は答える。

「どうやって、それを知ったの?」

「それは言えません」正確には知らない。ジンノさんからの情報だ。

「僕がダイヴしていたのは?」

「それも……。私が調べたわけではないので、ホントに知らないんです」

「ふーん。そう」ベルさんは、カップに視線が向いた。

「建物の中を見ましたよね?」私はきいた。

「そうだね」

「どんな様子でしたか?」

「どんな?……さぁ、僕が見たのは、一部屋だけだったし、ハイジがいたらしい部屋は、見ていない。その部屋は、コンクリートむき出しの広い部屋だった。部屋というか、立体駐車場みたいな雰囲気だったかな」

「なんで、ベルさんが呼ばれたんですか?」

「そういう人間関係のしがらみがあるからだね」

「イエローサブマリンが関係していたからですか?」

「いや、エンプティ関係の捜査協力だったよ」

「ああ。そっちですか」プロのエンプティパイロットは、捜査協力もすることがあるらしい。

「ハイジさんについてですけど、このまま居場所がわからないと、どうなると考えていますか?」

「ハイジ?」ベルさんは眉を寄せた。瞳が右方向を向いた。部屋の中央側だ。「さぁ、よく知らないし」

「恐らく、殺されます」私は直ぐに言った。「誘拐されたのは、ハイジさんの持つ情報が目当てですし、それを広く伝えたくないと思っているからです」

 ベルさんは頷いた。ベルさんの頷きは、納得した時ではなく、話を理解した時に使われる。だから、頷いた後に、私の意見を指摘する時もあるし、全く逆の持論を持ち出す時もある。つまり、あまり当てにしてはいけない。あなたの話は聴いています、くらいの捉え方をしないと、調子に乗ってベラベラ喋ると痛い目に合う。

「ハイジさんの目が覚めると言われている時間まで、あと二日しかありません。この期間内にハイジさんを見つけないと、命が危ないです」

「それで?」ベルさんはケーキを食べた。

「私は、ハイジさんを見つける為に動きたいです。その協力をベルさんにもお願いしたいです」私は、ベルさんを真っすぐに見た。ベルさんは、コーヒーを一口飲んだ。

「動くってのは、具体的には?」ベルさんがきいた。

 あれっ?意外とあっさり受け入れてくれるのだろうか?

「潜入捜査になると思います。警官にすり替わるか、探偵として売り込むか」

「探偵なんて、職業としてまだあるんだ?」

「ありますよ。私の前のバイトは、探偵の助手でしたから。殆ど、ネットでの活動ですけど」

「それより、もっといい方法がある」

「なんですか?」随分と勿体つけるんだな、と思った。

「二人で一緒に捜査に協力する」ベルさんは、ニッと笑って白い歯を見せた。

「えっ?それって」

「まだ、居場所がわかっていないなら、こっちから言えばなんとかなるだろう。人間関係のしがらみは、双方に働くというやつだね」ベルさんは、声に出して笑った。上機嫌なようだ。

「どうしてですか?」私は思わずきいてしまった。

「なにが?」ベルさんは首を傾げる。

「どうして、協力してくれるんですか?」

「理由が必要?」

「はい」どう考えても不自然だ。この事件に関して、今まで協力的じゃなかったんだから。

「……じゃ、仕事の依頼にしよう。一日十万円でいいよ。それで僕が雇われる。あっ、でも、ネオンの指示では動かない。僕は自由に動くし、ネオンも自由にすればいい」

「えっと。あまり、理由になっていませんが」

「……。そうだね。知りたくなったとか」ベルさんは笑窪をつくった。

「なにがですか?」

「最後の晩餐は美味しかったかどうか?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ