結婚は人生の墓場と言うけれど
私は、空港の手荷物検査場を抜けて、搭乗口に向かう彼を見送った。姿が見えなくなるまで。
なんとなく重く感じる足を動かして、京急線の乗り場に向かう。虚脱感って、こういうのを言うのかもしれない。飛行機の距離で交際中の彼氏が来ていたときには張っていた空気が、どこかに抜けたような。
羽田空港は、彼と付き合うようになってから、すっかりお馴染みの場所になった。移動に使う京急線も。
彼に会うために、スカイマークの航空券を買うたび、移動にこんなにお金をかけて超長距離出張するデリヘル嬢はいないだろう、と自嘲するのだけど。
客に会うために、航空券を買うホストもたぶんいないだろうと思うのだけど。
でも、会いたくなるんだから、恋愛とは恐ろしいものだ。
京急の川崎駅から、JRの川崎駅まで少し歩いて、夏の夕暮れのもんわりした暑さの中。そんなことを考えていた独身の私の帰り道は、たしかに1Kの自宅……一人暮らしに最適サイズの駅チカ築古賃貸アパート……へ向かう道だった。
それが、どうしてこうなった!なんてことを言うつもりはない。理由はわかっている。遠距離恋愛しちゃったからだ。恋愛の先に結婚があったからだ……!
今や、私の帰り道は、彼と私が住む家に向かう道になった。付随して、私は仕事を変え、名字を変えた。
え、ホラー要素が見当たらない?
ホラー要素過多ですが、なにか?!
子どもが生まれていつのまにか無くなってる時間、日に日に増える食費学費。
心配と不安の種の尽きない、幸せも不幸せもある墓場への一直線。