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金林檎照らす、真の顔

オメガバーズ要素有り。


疎開先で八月が終わる日、花火大会がある。

疎開していたみんなと一緒に花火を見る予定だった。

コロニーの中だから、大昔のように火薬を使った花火ではない。

ドローンとホログラムと音響を使った偽物だ。

けれど、それはとても綺麗で、疎開生活で荒みかけていたみんなにとって、話題になる程楽しみにしていたものだった。

ホログラムとロボットにより、構成された夜店が、夜の疎開先の中庭に活気を溢れさせる。

「先輩、楽しみですね」

修一は紺色の浴衣に着替えて、楽しむ気満々だ。

頭がライオンマスクなのに、色気が出ている。

一緒に疎開してきた女子たちがすれ違うたびチラチラと見てくる。

すれ違う人々の姿は色とりどりで花のように綺麗な浴衣を着ていたり、神輿を担ぐ予定の人は青いハッピを着ていた。

今日は大半の人が浴衣やらハッピなどの和装をしている。

「先輩も浴衣を着ればよかったのに」

「俺はジャージが好きなんだ」

本当は俺だって、浴衣着たかった。

けど、オメガの数値が高くなってきた。

万が一のためにと、むすぶ兄さんが用意してくれた肌色のチョーカーは、日焼けした俺の肌になじまず浮いている状態だった。

「そうなんですね。ジャージはいつどこでも、合いますからね。いいですよね」

そう言って、修一は笑った。

そう話しているうちに、花火大会の席についた。


「先輩、昨日で自分は本当はマスクを外せるんです。」

席に着いた時、修一はマスクのことを話し始めた。

「そうか、よかったな。お風呂も大浴場が使えるようになるな」

そうか、コイツの罰ゲームの期間はもう昨日で終わったのか。

マスクがない状態のコイツは俺には危険すぎる。

花火大会が終わったあと、距離を取ろう。

かわいい後輩だが、我が身に変えられない。

「花火大会が終わった後に、マスク取ります。

マスクなしで大事な話がしたいです。」

そう言ったあと、俺が返事をする前に最初の花火が上がった。

爽やかなグラデーションがかかった青色だ。

打ち上げ花火のデザインはみんなが考えたデザインが採用されている。

ここにいる生徒一人一人が考えたデザインが空に上がっていく。

ランダムで誰の花火がどの順番で出るかわからないから本当に目を離せない。

中には花火に文字を入れて告白する猛者もいて面白い。

俺の花火は昔、病気だった頃の兄と両親とでした線香花火を、イメージした単純なオレンジ色の花火だ。

空に上がった時、他の花火と同じように歓声が上がった。

そうこうしているうちに生徒が作った花火の発表は終わった。

あとはAIが作った花火が上がっていく。

自分達の花火の発表が終わった生徒達は、神輿を担ぎに行ったり、夜店に立ち寄ったり、宿舎に直行するなど様々だ。

恋人がいる人、できた人はところ構わずイチャイチャしていた。

宿舎がプライベートしっかりの防音で良かった。

「俺、疲れたから先に宿舎に帰る」

修一を後ろに俺は先を歩きながら宿舎を目指す。

「先輩、自分の大事な話があるので宿舎に帰るは待ってください」

大事な話を聞いたらもう、ただの先輩と後輩に戻れない気がするから、マスクを外した君とはオメガの俺はいられない。

オメガであることが憎い。辛い。

「明日にして、それにしても最初に上がった青のグラデーションがかかった花火綺麗だったなー」


「それ、自分が作ったデザインの花火です。先輩をイメージして作りました。」

それを言われて足を止める。

「なんで、どうして俺を」

「大好きな大好きな先輩に自分はどれほど思いを持っているか、見せること花火に託した。」

俺は振り返れなかった。

振り返ったら、俺の顔が見える。見られたくない。

俺の顔は怯えた顔になっている。

愛されることが怖い、母や兄のようになってしまうのは嫌だ。

「そして思いを伝えることをマスクなしの口ではっきりと先輩を見ていいたい。」

後ろにいた修一が前に回り込んできた。

俺は思わず驚き、顔を下に向けて、しゃがみ込む。

「先輩、いや俊仁、自分を見てください」

そう言って、近寄る修一の左手には、外したライオンマスクが持ってある。

顔を上げれば、本当の修一の顔を見て、彼の思いを伝えられる。

愛されることが怖い。

顔を上げない俺を、修一も屈んで俺の顔を覗き込んでいくる。

「先輩大丈夫ですか?」

そう心配される。

顔をあげると修一の顔は、夜の闇のおかげで暗くて顔がよく見えない。

これなら俺の顔も見れないはずだ。

「また、熱中症ぽいから、早く宿舎に帰りたい」

話の流れを熱中症で切る。

告白も有耶無耶にしたかった。

そう思った。

しかし、また中庭で倒れた時のように、修一に横抱きにされた。

そのタイミングで、AIの花火が上がる。

金色のリンゴの花火が空に浮かぶ。

修一の顔がはっきりと見えた。

「俊仁、あなたのことが大好きです。はじめてあった時から好きです。どうか付き合ってください」

四月に逃げた運命が修一の声で話していた。

「俺は、ゔ」

急に体がとても熱く苦しい。

俺は修一に抱えられて、修一の宿舎の部屋に入っていた。

「ごめん。これしか俊仁を助けられない。」

修一が俺の上着を脱がせ、俺の首に噛み付くようにチョーカーを噛みちぎる。

朦朧として熱くて苦しくて何もわからない。

頸に鋭い痛みがきたのと同時に、体の熱さと苦しさが消えた。

そして気を失うように俺は眠ってしまった。





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