一度目の邂逅
オメガバースものだが、オメガバースの要素薄い。
アタランテー、金のリンゴに気を取られ、男に捕まってしまった俊足狩人。
金のリンゴにさえ、気を取られなければ、男とまぐわうことも、ライオンにされてしまうこともなかったのに。
アルファは、怖い。絶対に関わりたくない。
運命を見つけたら、奴等は囲い込む。
アルファが運命を囲い込む様子を僕は2回知ってる。
2回とも全部家族だ。
一回目が母である。母は父にベータから運命をねじ曲げられ変異型オメガになり、アルファの父に常にとらわれている。
父は独占欲が強く、暴力はなかったが、愛情で母から僕ら兄弟を遠ざけていた。
僕が十歳になる頃には、母とは手を繋ぐことぐらいしか許さないくらい独占欲が強かった。
そらでも、僕らが不満を持たないように愛しつつ、僕らを育ててくれた。母の運命を捻じ曲げたことを除いて考えれば、すごい尊敬のできる父である。
二回目は兄である。同じくベータ生まれたはずの十歳上の兄は、若くして番にされた。
当時の様子はこうだった。
外遊びが好きの五歳児の僕は公園で駆け回っていた。
そのお守りを近くで本を読みながら兄がしていた。
ジャングルジムを遊んで帰ってきたら、知らない美形のお兄さんが兄によってきて、兄の首が咬まれる様子をみた。兄が番いにされた。
十五歳の少年だった兄の細い首に、噛みついている。それを見た時僕はお兄ちゃんが喰われてしまうと思い。
泣き叫んでしまった。
それ以来、パソコン越しでしか会えない兄の話を聞く限り、幸せそうだった。
なんでも、機械いじりと読書が好きな兄のために、義兄(兄の夫)がいろいろ用意してくれるので、幸せだと言っていた。
けれど、外出は余程のことがない限り許されないとのこと。外で走り回ることが大好きな僕にとって、囲われるのは苦痛にしかならない。
父曰く、兄、母は運命にさえ見つかり、噛まれなければ、普通のベータのままだったそうだ。
兄の事件の後、僕は検査した。
ベータでもあり、オメガだった。
その結果を見て、学者の父がいうことだから、まあ本当だろう。
父の助けを借り、僕は運命から逃げることにした。父は、兄が攫われるように番いにされたことを悔やんでいるから協力的だった。
独占欲を持ちつつ、母との愛の結果である僕らには父は甘い。だから、兄のように部屋から出れない生活は嫌だと伝えると、どこから仕入れたのか対アルファ用の匂い消しの香水を買ってくれるようになった。
さらに、母や兄のように囲い込まれないために、十歳の僕は足を鍛えられることになった。
「俊仁がベータであることは惜しい」
俺は秘密を知る家族を除いた周りの人達から言われる。俺の走りを褒める言葉と一緒にだいだいいつも着いてくる言葉だ。
春の空気、新芽の香りが混じった空気の中、俺は400mトラックを駆け抜ける。
風を切る感覚の中で、頭は走ることでいっぱいになる。
走り切った後の爽快感がとても良い。
陸上部の朝練を終えて、教室に向かう。
その途中の廊下で、男子の三人の新入生のグループとすれ違った。
その時だ。
何か惹かれる感覚がして振り返る。
三人の新入生のうちの一人の男子が俺を見ていた。
驚きが入った整った顔の笑顔で俺を見ていた。
これが俺の運命の番である新入生、修一との出会いだった。
その笑顔に恐怖を感じ、瞬時に俺は、校則を破って、高速で走って教室に逃げた。
あれが俺の運命の番だ。
俺は逃げないと。