まともな世界とは
例えば人と人がぶつかると両者とも押し返されず引っ付いてしまい、二つの粘土細工の人形を無理矢理一つにまとめたようになってしまう世界。そこで見た二階建ての家をはるかに超える、つぎはぎだらけの巨人は果たして何人分の体積を合わせたものだったのだろうか。
例えば空にも地面にも雲のある世界。雲の間にあるのは空ばかり。青色でも水色でもない、空色ばかりが一面に広がっていて他には何一つない。
例えば私が人の形をしておらず、けれど何の形をしているのか知る術はなく、どうして人型をしてないと思えるのかも分からない世界。
一体いくつの世界を超えていったのか。もう十数回ぐらい前から、まともな人間が住むような世界には出会えなくなっている。この放浪は果てしなく、一向に終わりが見えない。私はもう疲れ切ってしまった。
絶望感が私のあるべき場所への執着心をなくしていく。せめて元の世界に近ければ、そこであきらめてもいいと思えてきた。ずっとそこで暮らしていけば、どこがおかしいのかも気づかなくなるはずだ。しかしその元の世界が、もはやどんなものだったのかうまく思い出せない。