ココホレワンワン⑤
((やったーご飯だ!!))
この状況下で、余裕があるわけではなくて、単に、もう最後の食事が何時間前か分からない状態だからだ。決して食いしん坊などではない。
隣の部屋に行くと、ベッドルームより広かった。“犬”の身体でなくても天井が高い。天井にまで細かく模様が入っている。大きな窓が一つの壁側に4つ等間隔に並んでいて天井からカーテンが流れるように下がっている。ベッドルームは落ち着いた作りだったけど、こちらはもう少し豪華でヨーロッパのお城の内装ってこんな感じの見本のようだ。昨日見た景色、そして目の前の人たち・・・
私の家の庭はどこに通じていたんだろう・・・ブラジル??まで掘ってない!掘ったのはせいぜい腕の長さだ。近所にこんな造りのお屋敷は無い。
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トマという人がどうやら食事の手配をしてくれたようで、メインルームのテーブルにどんどん料理が並べられていく。すごくいい匂い。出来立ての香りをさせているパンに、スープ、朝なのにローストビーフのようなお肉もドドーンと置かれていく。あっ・・・カトラリーが並べられている。
((どうしよう。私どうやって食べたらいいんだろう・・・))
すると、最後に一人のメイドが近づいてきた。そして、目の前の床にお皿が・・・
((え!))
お上品なリゾットみたいなお皿が・・・・目の前に置かれた。
お腹が空いていたけど・・・これは勇気のいる決断だ。
私が“犬”であることを認めるか・・・。
頭にはよぎってた。もしかして、私はあの時心臓が止まって生まれ変わったのではないかと。その答えだけは出したくなくて・・・目を背けてた。
だんだん目頭が熱くなって、食べ物が見えなくなってきた。
((私は・・・死んだの?))
「お、おい!」
たぶんシルバーヘアーのアーロンって人の焦った声が聞こえる。
あふれる涙がお高そうな絨毯に吸い込まれていく。涙を拭きたくても・・・拭けない。
アーロンさんが私のことを抱え上げ、そのままソファーに腰を下ろした。アーロンさんは膝の上に丸まった私の頭を手でゆっくり落ち着かせるように撫ぜてくれる。男の人の膝に乗るなんて・・・今は抵抗する気にもならない。されるままになってしまう。
「やはり・・“犬”では無いようですね。」
落ち着いて話すトマさんの声が聞こえて、そちらを見るとブルーサファイアの瞳がじっと私を見ていた。
((そう!私は“犬”じゃない!!))
「どういうことだ!」
「おそらく、本物の“犬”ではなく、不本意に“犬”にされたのではないでしょうか・・・詳細は私にも分かりかねますが、本物の“犬”ではないでしょう。わたしには、“犬”のにおいとは思えません。アーロン様は?」
「俺には・・・その・・・この匂いは・・番だ。嗅いだこともないような甘い匂いで胸が熱くなる。」
アーロンさんは膝の上の私をぎゅっと抱きしめた。抱きしめられて、恥ずかしさも感じたが、それ以上にすっぽり大事に抱え込まれるのは温かくて、安心できた。ただ話の内容は、どう理解したらいいのか戸惑う。
((匂い??私の??))
自分の匂いについて、目の前のキラキラした人達が話している。落ち着いて聞けない。内容に追いつけない。
「おめでとうございます。そう、番ならそう感じるでしょう。だから、アーロン様はその犬を“犬”だと思われたのですね。番のにおいは特別ですからね。冷静に匂いを分析できなくて当然です。ですが私には、“犬”とは違うにおいがします。おそらく、人間でしょう。」
((よかった・・・私“犬”じゃない!!!!))
「人間?!!人なのか????」
アーロンさんは私の脇に手を入れ私の顔がアーロンさんと向き合うように上げて聞いてきた。
私はアーロンさんの問いかけに、何度も何度も首を縦に振った。
((そう!私人間なの!!!!))
目の前に、アーロンさんの顔がドアップだ。近い!!!
アーロンさんは私が顔を縦に振ると、すごくうれしそうに目をキラキラさせた。琥珀色の瞳が宝石みたいで・・・・・
((あれ?これ・・・・穴を掘ったときに・・・))