ココフォレ ファンファン①
空を見上げると満月の周りに光の輪が見える。これを女神のいたずらと呼ぶ。
思わず、「ココフォレ、ファンファン」とつぶやく。
私は、アーロン・アースウェル。
アースウェル王国の王位継承第二位の第二王子だ。
今日は兄上の結婚式で、祝賀宴に参加したまではいいが、着飾ってギラギラした目をした令嬢とその親達に囲まれて逃げ出した。((なんなんだ、あれは。))
俺はさながら獲物か・・・。「ハハハハッ・・・」乾いた笑いが口から漏れる。本来俺が捕食者なのだがな。俺は正装のクラバットを緩めながら、息を吐いた。
アースウェル帝国は、獣人が治める国だ。王国内には人間も暮らすが、圧倒的に力が違う。初代マクシミアノ・アースウェルは、獣人と人間の不毛な戦いに終止符を打った。狼種の長として獣人たちを束ね、圧倒的な力の差を見せつけたのだ。現代、人間と獣人で別れて暮らす国も多いが、アースウェル王国は、各々を認め、共存している。一番の理由は、初代マクシミアノ王の番が人間だったからだ。マクシミアノ王は、力でねじ伏せたものの、人間に対して暴政はしなかった。人間は、”守るもの、共に歩むもの”として扱った。もちろん一部反発はあったものの、大半のものが受け入れた。また一部の者には希望を生んだ。”番とつがう”
王国の獣人はマクシミアノ王の物語を聞いて育つ。武勇伝と番との物語だ。だから皆番に焦がれる。
番に合わなけば、人間と同じように暮らすことが可能だ。ただ、番にあってしまえば、全てが変わるという。番の居ない人生など考えられないそうだ。
((兄も・・・決断した。私ももう・・・。))
ただ、最後の悪あがきだ。おとぎ話のように、女神のいたずらの夜、まじないの言葉を唱える。
「ココフォレ、ファンファン」
ピカー!!!!!!!!!!!
「八ッ!?!?」
目の前の池が光った!攻撃かと思い前傾姿勢で、かまえる。
「・・・・・・・・・・」
何事も起こらない、魔法の気配も、辺りに人の気配もない。
警戒を解かずに、池へと近づく。光った池、池の周辺の気配を探るが、何もない。
水面も静かだ。
((なんだったんだ・・・))
少し警戒を解いて池をのぞき込むと、目が見えた。自分の目ではない。俺の目は、琥珀色だ。黒真珠のような2つの瞳だ。目が合うと、向こうも驚いたのか、目が大きく見開き、顔を引いた。((逃がすか!!))
腕を伸ばすと、何かを掴んだ。そのまま力のかぎり引き寄せた。