神との遭遇
「本当はあの日自殺しようとしてたの」
何故か驚かなかった。
「どうして?」
「この世界がつまらないから。暇だから。刺激がないから。嫌いだから」
「気持ちは良くわかる。俺もいつも憂鬱で何かが足りないと思ってる」
「じゃあ、私と一緒だ。」
ニコっと笑う。
「三波は独りが好きなんだって?昨日友達から聞いた」
三波は顔を正面の富士山に向けた。
「うん。私は途方も無い時間を独りで過ごしたからね」
「途方もない?というか三波は俺といるのは大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。祐介には似たものを感じる。祐介はこの世界が好き?」
認められた気がして嬉しかった。
「嫌い、大嫌いだ。クソみたいな人間がいるこの世界。守りたいものを守れないこの世界。自分という人間」
「嬉しい。でも祐介は素晴らしい人間だよ」
「俺が素晴らしい訳ないだろ。俺の性格は歪みに歪んでいる。この社会や人間が嫌いと言いながら結局は自分がこの社会を象徴するような性格になってしまっているんだ」
俺はまた本音をこぼす。
「それに気がつけた祐介はやっぱり素晴らしい人間だよ」
自分が素晴らしい訳ないと思うが三波の真剣な眼差しに観念して礼を言う。
「ありがとう」
「私と友達にならない?私は祐介が気に入った」
相変わらず真剣な眼差し。
「光栄です。今日から友達だ」
「ありがとう!人生初のお友達だ」
真剣を装いながらもちょっと照れているのが分かった。
「じゃあ、友達の俺から1つ言わせてくれ"命は大切に"な!」
空気が一変した。
「人間がよく言うよ」
彼女はとても冷たい口調で言った。
「三波も人間でしょ」
すぐに切り返した。
「祐介には私が人間の形に見えるの?」
「じゃなきゃ制服を着てこの学校に居るはずがないだろ?」
「それもそうだね」
「えーと、つまりどういう事?」
「私はね君たちの言う神様に当たるものなんだよね」
「本気にしてる訳じゃないけど、証拠とかある?」
何を言ってんだコイツと思いながら質問をする。
「左目をよーく見てて」
流石に驚いた。最初は焦げ茶色だった瞳の色がみるみるうちに変化していく。変化の終わった三波の瞳はどこかの広大な森林地帯を思わせるような少し悲しい緑色をしていた。
「綺麗」
思わず口にする。
「ありがとう。信じた?」
三波はニシシとはにかみ、俺に尋ねた。
「色々と世界の歴史について勉強していくうちに俺は無神論者になったんだよね。神っていうのは一部の人間がその土地を人間を支配しやすくするために造ったものなんだ。この誰でも考えそうなことが神の真実なんだよね」
柄にもなく自分の考えを披露する。
「うん。祐介は正しいよ。神の99%はでっち上げだ」
「何その"時間停止AVの99%は嘘"みたいなやつ」
少し茶化してみた。
「は?」
「すみませんでした。」
殺されると思った…。
「次は無いよ」
ニッコリと殺意のこもった笑顔を見せる。
「もう言わない、約束する。けれど俺は三波が神だとは微塵も思わない。確かに目の色を変化させるのは普通の人間には無理だ。だからって神に飛躍するのはおかしい。俺は説明が欲しい!」
少しの沈黙の後彼女は口を開く。
「私が意識を獲得したのは恐らく今から9000年ほど前だ。そこから私は実体を持たず意識だけで人間の生命活動を観測していた、17年前までは」
俺は黙って話を聞いた。
「2004年9月1日に私は意識を忘れ実体を持って誕生した。そして私が10歳の時、忘れていた9000年分の意識が頭にドバドバと流れ込んだんだ。そこに1つ異質な情報…いや、命令が混じっていた」
「命…令?」