すれ違い
全力で駅へと向かう。何度か後ろを振り返ったが追いかけてきてはないようだ。
◇ ◇ ◇
「平本君に悪魔の血を感じた…」
平本君はあの女と関わりを持ってしまったのだと思いました。
私は失意の中、遠ざかっていく平本君の背中を見ながら歩いて駅へ向いました。
6両編成の電車はガラガラで、誰もいないシートに腰掛けると思わずため息がでます。車窓には広々とした田園風景が広がり、遠くには淡い輪郭の富士山が見えとても良い眺めでした。
電車に揺られている間はひたすら平本君の事を考えていました。私は平本君の事が一年の時から好きです。周りにこの事を話すと皆驚いた表情をします。皆は平本君の事を優しいけど裏表が凄そうとか怖いと言いますが私はそんな平本君をとても魅力的に感じていたのです。いつも目には孤独を浮かべ友達と喋っているときでもどこかふわふわしているそんな平本君を理解したいと思ったからかもしれません。
平本君は去年の10月辺りから昼休みに度々姿を消していました。クラスメートは誰も気にしていない感じでしたが私はとても気になっていました。そんなある日私は平本君をつけていくことを決断します。平本君は警戒心が高く度々後ろを振り返ります。でも私は絶対にバレない自信がありました。そして屋上へと続く階段を登った平本君を慎重に追うとそこには扉しかありませんでした。平本君は扉を開け屋上でご飯を食べてると知ったのです。
田舎なので時間も相まって家の最寄駅に人は全然居ません。家までの長い田んぼ道を歩いていると今日もおばちゃんが農作業を中断して腰を曲げながら嬉しそうに話しかけてくる。
「お帰り美咲ちゃん。今日は早いんだねぇ」
「あっどうも。今日は部活休んできたんです」
「おやそうかい。そういえば拓也くんが今日の夕飯はカレーが食べたいって言ってたねぇ」
「まーたあいつ…」
「美咲ちゃんも大変だねぇ。気をつけてお帰り」
「いえいえ。失礼します!」
こんな一言二言の会話だけれど私はとても幸せに感じます。
5分程歩くと畑と雑木林に囲まれた我が家が見えてきます。見た目はとても綺麗で築60年とは思えないほどだけど中身はかなり傷んできています。
ガラッ
「拓也! 今日もおばちゃんに夕飯の事言ったでしょ!?」
玄関を開けると同時に拓也へ説教を飛ばす。
「うん。別にいーじゃーん」
「良くない!」
拓也は帰り道おばちゃんに食べたい夕飯を私に話してもらうようにしているのです。
「おーい、うるせーぞーバカ二人」
上から兄が笑いながら降りてくる。
「健斗〜! 姉ちゃんがいちいちうるせー」
「まぁまぁ、美咲はいつも飯作ってくれてるんだから少しはゆーこと聞け」
「健斗はいっつも姉ちゃんの味方だよな!」
ふて腐れて部屋のドアをピシャリと閉める。
「はぁ、本当にバカ相手は疲れるよ…」
「悪いなぁ美咲ばっかに負担かけて。俺も大学受験終わったら手伝うから」
「ありがとう。兄さんも勉強頑張ってね」
「おう任せとけ!」
兄さんは東京の大学に行くためにいつも一生懸命勉強している。さっきは受験終わったら手伝うって言ってたけど受かったら東京へ引っ越しちゃうから無理かもしれない。
私の家は5人家族で父と母は遅くまで帰ってこない。七年前の恐慌で父が借金を抱えているため母も仕事を掛け持ちしながら働いている。だからは私は弟の面倒と夕飯や家事の一部を任されている。とても大変だけど嫌だと感じたことは一度もない。
「夕飯できたー!」
夕飯は3人で食べる。この時間が本当に幸せ。たとえ貧しくても笑える時間がある。恋をする時間がある。これだけで十分です。
夕飯を食べ終え洗い物を終えると部屋のベッドにダイブする。一人の時間もまた幸せです。最近考えることはやはり平本君や悪魔について。
私は2年前に別の人格を宿しました。それは地球を悪魔から守るために私の身体に受肉したのです。
普通の中学3年だった私はその日いつものように朝目覚めると言葉では形容し難いですが、別の本能を宿したような妙な感覚に襲われました。その日から私は目指していた高校を替えわざわざ遠い高校を目指すようになりました。友達から理由を訊かれますが自分でもあまり分からなくて、ただそこに行かなければならないという強い意志のみが頭を支配していました。それから私はその高校へ合格し入学しました。入学してしばらくすると自分の身体がとても強くなったのを感じました。強くなったというのは人間を超えた力を宿したという事ですが、その事ついては自然と受け止めることができました。力は自分が必要な時にのみ引き出せるもので、調整は自在に可能です。その力を使って平本君が屋上へ行ってることを突き止めました。
昨日、私はうすうす悪魔がこの学校の生徒だと気づいていました。そしてこの日上から、恐らく屋上から微弱ですがいつもより鮮明な悪魔の気配を感じました。私はすぐ確かめに行くと階段から6組の怪しいと踏んでいた桜木三波が降りてきたのです。私はその時平本君が何かされたんじゃないかととても不安になりました。結果的には平本君は何事もないように戻ってきたので安心でした。そこから平本君があの女に何かされる可能性があると踏んだ私は取り敢えず平本君を屋上から遠ざけようとしました。平本君とろくに話したことが無い私はまず部活の勧誘から始めてみました。話下手な私はこの様な途切れやすい話を選んでしまうのです…。その中で平本君に自分なりに少し"好き"というアピールをしたものの全く届かず撃沈しました。
今日、私は平本君の気分を害さないように直接屋上の事を言うのではなく、クラスで話題になってると嘘をつきました。けれども私にも屋上の事は話してくれませんでした。なので忠告だけでもと思い"気をつけてね"と言いました。本当に好きな人を前にすると無器用になる自分が嫌になります…。
そして上から悪魔の気配を感じ、屋上へ向かった中村君が消えました。恐らく殺されたのでしょう。でも、平本君は戻ってきました。私は平本君があの悪魔に脅されている思います。有力な証拠が揃った今あの女を殺そうという考えがまとまりました。そして今日の帰り道に平本君に桜木三波の事を訊きました。でも平本君は知らないという。そして平本君の腕を触った瞬間に悪魔の血が混じっているのを感じました。私は絶望した。やはり悪魔は早く殺さなければマズイ。平本君に無理矢理血を混ぜ、悪事を働いているというだけで胸が張り裂けそうになりました。平本君を助けなきゃこの世界を守らななきゃ!
◇ ◇ ◇
全力疾走で駅へと着く。
「ハァハァハァ」
や、やっぱり三波に協力している事がバレている。早く殺さないとこっちが殺られる。殺さないと殺さないと!




