疑い
今日の朝に清水さんから変なことを言われたのを思い出した。あの言葉が意味するのは一体何だったのだろうか。
「なぁ、中村まじでどこいったんだろうな」
ケータイをいじりながら石田が話しかけてくる。
「さぁ。どっかでサボってるかトイレとかじゃね?」
「あー、トイレはあるかも」
ガラガラ
「お前らはもうちょい自習してろ」
ドアから顔だけだして投げかける。廊下には何人か教員の姿が見えたので割と本格的な捜索が始まったらしい。
「あれ、結構やべぇ事になってんじゃん」
いつもはふざけている石田だが妙に不安そうな顔をしている。
「どこいったんだろうね」
「そういえば中村が出てった後に2回"パァン"って音がしたんだよな。小さかったけど」
ドキッ
「あーそれ私も聞いた」
「なにそれ?俺は聞こえんかったわ」
周囲が石田の発言に注目した。
どうやら結界は音を封じ込める事ができないらしい。でも姿が見えない限りは絶対にバレることはない。だが銃声がここまで響いているとは予想外だった。これから使う場面に出ぐわすかもしれないから頭の片隅に入れとくことにする。
「平は聞こえた?」
「聞こえた」
「え?てことは平の昼飯スポットはこの辺なんだ!」
難問が解けたかのような嬉しそうな顔をしている。
「さぁ」
冷静を保つ。
「ほら、見てみ。3階の奴らに聞いたんだけどやっぱり聞こえなかったっていってる」
まずい。そんな事の確認の為にケータイをいじってたとはなんてヤツだ。
「ズバリ!平は4階より上にいたってことだろ?」
下手に答えるとまた何かを探られるかもしれないから迂闊に答えられない。かといってはぐらかすのも逆に相手の好奇心と疑惑が強まる。これは心理戦だ。
「どうだろうね」
「なんだよ、そればっかじゃん。つまんねー」
(うるさい)
「まぁそう言うなって、別にお前らが嫌いとかそういうのじゃないよ」
「じゃあ言えよ」
(黙れよ)
「だから…」
「お前なんか後ろめたい事でもあんの?」
(殺すぞ)
ガラガラ
「えー、中村がどこにも見当たらない。心当たりある奴は何でもいいから言ってほしい。全教室、全トイレ隅々探しても見つからないのは変だ。又、学校を抜け出た可能性は荷物が残っているから低いだろう」
「せんせー!関係あるか分からないかもですけど、中村が教室を出た後に上からパァンって音が2回しました。」
こいつ、よくこんな事をみんなの前で言えるな。
「パァン?うーん、繋がりがあるか分からんが覚えておこう。他に何かある奴いるか?」
教室はざわめいているがこれ以外何も出なかった。
「本当は良くないんだが、中村の連絡先知ってるやつはメールとかで呼びかけてくれ。先生達はこれから裏庭を見てくるから引き続き自習を」
ドアが閉まるとより一層ざわめきが強なった。
石田はというとはぐらかし続ける俺の態度に腹を立てたのか別ヤツと会話を始めた。
最後方で周りに話し相手がいない俺は窓の外をこの三日間の事を考えながら眺める。周りの喧噪が次第に遠のき、自分だけが周りから取り残された様な孤独を感じた。
結局5・6限で中村を見つけることができず帰りを迎えることになった。
「わりぃ、今日は部活あるから一緒に帰れないわ」
「わかった」
こういう時でも部活があるのかと驚く。
教科書をリュックに詰め、帰る支度を整えていると横から声がする。
「中村君と安藤君いないから平本君は一人で帰るの?」
話かけてきたのは清水さん。
「うん」
「じゃあ一緒に帰らない? 私も今日一人なんだ」
ニコっと微笑んでいる。目には純粋さしか感じない。
「え、俺と?」
「だめー?」
「いや、ダメじゃないけど、その何ていうか…いや何でもない。帰ろうか」
何故俺なんかと帰りたがるだろうか。頭の片隅に敵という文字が浮かび上がる。でも清水さんとは一年の頃から同じクラスで関わりは殆ど無かったものの敵である訳がないという思いが強かった。
「じゃあ、いこっか!」
「うん」
そういえば女子と一緒に帰るのは初めての経験だ。少し恥ずかしさを覚える。
「あんまり人歩いてないんだねー」
「この時間は帰宅部の奴しか歩いてないからね」
他愛のない会話をしつつ駅へと向かう。
辺に人が少なくなった瞬間清水さんは中村の事を口にした。
「中村くん大丈夫かね? 先生達は警察に相談したって言ってたけど」
「連絡しても全然反応ないからなぁあいつ。事件とかじゃなきゃいいけど」
「だよね。」
信号が赤になり立ち止まった。
「ところでさ、平本君は桜木三波さんって知ってる?」
(な、なんで今その名前が出てくる…。)
「知らないなぁ」
「そっか。ならいいんだ」
嬉しそうに笑う。
その名前が出てくるという事は信じ難いが敵であるの可能性が極めて高い。だとすると清水さんは今ここで俺を殺す気か!? 三波の情報が正しければ戦闘においてこちらが圧倒的に不利だ! 先に銃で殺すか? いや、三波がいない状況で殺す事はできない! どうするどうするどうする! 殺されるのか!?
「どうしたの? なんか変だよ?」
信号が青になった。
「ちょっと用事思い出したから先行くね。ごめん」
逃げるという決断しかなかった。すぐさま一歩二歩と駆け出すと後ろから腕を掴まれた。恐怖で手を払おうとしたが既にその手は俺の腕から離れていた。
「ま、まさか…」
驚きと絶望が清水さんの顔に浮かび上がる。
俺はそんな清水さんを無視して逃げた。




