First Kill
「"え"じゃないよ。リスクを抑えたいから殺してきて」
手が恐怖で震える。まさか殺す相手が普通の人間だなんて思うはずがない。
「ほらしっかり握って。大丈夫だから」
彼女は銃を握る俺の右手をギュっと掴む。
「祐介は口で約束してくれた。次は行動で約束して欲しい」
一度本気で三波を殺そうと考えた奴が何を考えてると思われるかもしれないが、それとこれとは全くの別問題だ。彼女は神であると主張し俺はそれを確かめるために彼女を刺した。そして俺は彼女を神と認め彼女は俺の協力が得られた。これはwinwinだった。けど今回は違う。こちらの一方的な理由で殺さなければならない。これは七年前の犯人連中と同じになる事を意味する。
「祐介、私だって無駄に今殺したくない。けど革命が失敗する可能性が1ミリでもあるなら回避すべきだ。」
「はぁ。わかったよ。殺せばいいんだろ?」
絶望の中で僅かに残っていた本当の良心を殺して開き直った。
「頼んだよ。殺した事は絶対にバレないから安心して」
呼吸を整えながら扉へ一歩また一歩と近づく。扉の前につくと微かに笑い声が聴こえる。そして運命の扉を開ける。
ガチャ
驚きのあまり声すらでなかった。そこに居たのは友達の中村だった。殺したはずの良心が生き返ろうとする。
「えっ」
しゃがんでいた中村の声が響く。そして俺の銃を見つめた。
「ちょ、お前はそれ拳銃じゃ――」
中村がとっさにこの場から離れようとしたその瞬間
「こっちに連れてこい!」
と三波が叫んだ。
俺はとっさに中村の襟を掴むと強引に屋上へ引きずりこみ、すぐさま鍵を閉めると三波が中村を屋上の真ん中へと運んだ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!何が一体どうなってるんだ!?」
全く状況が飲み込めないのは無理もない。
「扉の向こうでなにしてた?」
三波は冷たい声で中村を尋問する。
「いや、平本を探しに来ただけだよ。それより一体なんのマネだ!」
「私達の会話を聴いてた?」
「まずこっちの質問に答えろよ!」
バコン
物凄い音がした瞬間、中村は聞いたことも無いような声をあげてうずくまっていた。
「やめろ!!」
俺は三波を後ろから思い切り押すがびくともしなかった。
中村は口をパクパクさせているが言葉を発せていない。
「邪魔しないで祐介。これは仕方の無い事なんだ」
「待ってくれ!コイツは俺の友達なんだ!話せば分かるかもしれない!」
やっぱり人を殺すのは心が許してくれない。
「革命に同意したのに今更何言ってるの?」
「自分が矛盾してることくらい分かってる!けど…頼むからやめてくれ」
最終的に世界を壊すのは三波だ。だから俺自身は決して直接人を殺すとは考えていなかったんだ。その考えから今この状況に矛盾を生んでしまった。
三波は呆れたような顔をして俺を睨む。
「ああ、もういいや。悪いけど祐介はまだ信頼に欠ける」
そう言うと三波は自分の指を噛んだ。
一体何をするつもりだと思った時には既に俺の目の前にいた。顔色一つ変えずに俺の首を思い切り締め、酸素を求めもがき苦しむ俺の口に指を入れた。舌の上を指でなぞられたのが分かった。
「な、何をしたんだよ!?」
嫌な予感しかしなかった。
「私の遺伝子を少し刻んだ。祐介は少しだけ神に近づいたからきっと中村君を殺せる」
「殺す訳ないだ――」
手が意思に反して銃口を中村に向ける。
「い、一体どうなって…」
どんなに止めようとしても手が動く。ただどこか心とは違う場所から撃たなければという本能的な何かを感じた。これが神の本能ってやつかもしれない。
「ダメだ!三波!俺を止めてくれ!早く!」
俺は叫び続けるが三波は静かにこの状況を傍観していた。
引き金に指がかかる。
「どうして勝手にうごく!!中村早く逃げろ!!」
パァン パァン
乾いた銃声が2回響いた。
頭から血が流れ出てる。ピクリとも動かない中村をみて死を悟った。
「よくやったね。祐介」
後ろから悪魔の声がする。




