革命者
階段を登るとそこには既に彼女がいた。
「今日は早いんだ」
「聞きたいことがいっぱいあるだろうからね」
気遣いに感謝しつつピッキングを始める。
すると彼女が聞いてきた
「祐介は帰りもその道具使って鍵を締めてるんだよね?」
「そうだよ」
「気づいてると思うけどピッキングで鍵穴が傷だらけで、もしかしたらバレちゃうかも」
実は薄々気になっていた所だ。
「そんなの気づく奴いるかね」
「私とか」
「なるほどそれであの時気づいてたのか。よく見てるね」
ガチャ
本日も快晴!ドキドキする胸を抑えるように深呼吸してからあの質問をする。
「昼飯の前に1つ聞いていいかな?」
「なに?」
「君は不死身?」
「うん」
「本当に?」
「うん」
「ありがとう」
俺は手提げ袋から昨日研いだ包丁を出すと自慢の脚力で一気に彼女の腹めがけて突進した。
特に音もなく彼女の腹へ包丁が入り込み、血がボタボタと地面へ落ちてゆく。
彼女は苦悶の表情を浮かべしゃがみ込んでしまった。聞こえるのは小さいに唸り声だけだった。
「えっ」
彼女の臓器を切り裂いた感覚だけが手に残る。
彼女の苦しそうな反応を見て一気に後悔の波が押し寄せた。
(なんて事をしてしまったんだ、彼女は人間だった。どうしようどうしようどうしよう。人生終わった。あんな言葉に惑わされる俺はバカ以外の何者でもない。)
「や、やばい…救急車呼ばないと!」
恐怖に涙していると
「祐介は凄いね。完全に狂ってるよ」
さっきまでしゃがみ込んでいた彼女が笑いながら立っていた。
「み、三波大丈夫なのか?」
自分の罪が消えたと喜びが溢れた。
「勿論。さっきのは演技だよ。ほら見てごらん」
おもむろに夏服を脱ぎ捨てると傷口がみるみるうちに小さくなっていく。だがそれ以上に俺の目を惹いたのはまさかのノーブラであった彼女の胸だ。
「どこ見てんの?」
「い、いや別に」
「こっちも見てよ!この再生能力!神確定でしょ?」
興奮気味語る彼女。俺も興奮気味です。
「うん。信じるよ」
「ありがとう。ご飯食べよっか!」
彼女の切り替えの速さには眼を見張るものがある。
さっき人を刺した手で刺された本人と飯を食べる。自分でも状況が飲み込めないが、昨日聞きたかったことを尋ねてみた。
「そういえば昨日話してた"前の星"って何なの?」
「名前の通り前の星だよ。ただ私は実際に見たわけじゃない。記憶を引き継いだから知ってるだけ」
「誰の?」
「前の星の神さ」
「なるほど。取り敢えず前の星の説明が欲しい」
「今から46億年前に存在していた星のことだよ。その星はこの世界と似たような歴史をたどっている。だいたい西暦1850年位までは」
突拍子もないことだが神が言うので信じることにする。
「つまり1850年からこの世界と違う道を進んで行ったってこと?」
「そうだね。そこを境に徐々に違う道を進んでいった。そして第二次世界大戦という大きな転換点を迎えるんだ。この世界は枢軸国側が勝利している。けど、前の星では開戦の翌年に両陣営が停戦に踏み切ったんだ」
とても面白い展開になってきた。つまりはパラレルワールドのようなものか、並列はしてないが。
「へぇー、それでどうなったの?」
「停戦中はお互いが軍備拡張のために莫大な資金をつぎ込んで技術開発を行い、その結果既に開発が終わっていた原子爆弾の大幅改良に両陣営が成功した。技術革新は軍事だけでなくIT分野にも及んだ。これは次世代の情報戦が来たことを意味したんだ。そこで生まれたのがケータイだった。この事については昨日話したね」
「スマートフォンのこと?」
「そうそう。単純計算で考えると前の星はこの世界よりも50年くらい技術が進んでいたことになる」
「そこまで先を行ってたなんて凄いなその星は」
「でも1982年に核戦争が起きて人間の99%が絶滅してしまったんだ。そこで前の星の神は星を破壊した。そして生まれたのが祐介や私がいるこの星」
停戦状態ならいつ何が起きてもおかしくないからな。にしてもその核の荒廃の中生き延びた1%の人間には感服する。
「また46億年かけてこの星を創ったってこと?」
「そーゆーこと。前の星の上手く行っていた部分まではそっくりそのままコピーしたって感じ」
「なんだか凄い壮大な話だね。46億年前に似たような星があったなんて…。前の世界を破壊したのも今回の破壊する理由と同じ?」
「同じだね。1%しか残ってない人間には何の期待もできない」
「やっぱり君達神様は技術進歩がないと破壊しちゃうんだね」
「昨日話した通り技術の衰退と人間らしさが消えた時に破壊する。私達は失敗作を嫌うんだよ。だから次の星は技術も発展して、人間が皆生き生きと暮らせるような世界を目指すんだ」
人間らしさが消えるっていうのは昨日の日本人化とか恐慌による心の閉鎖化のことであろう。
「でもこの世界だったら70億人や他の動物達も殺すことになるんだろ? 」
「うん。動物は残念だけど観察の対象外」
あくまで人間だけか。それで自分らの理想通りにならなかったら破壊して作り直しか。ペット以下だな。
「それって悪魔だよね。神じゃなくて」
「まだ疑っている段階で人を刺す祐介も中々の悪魔だよ」
言い返す言葉が見つからなかった。俺は本当にどうかしていたんだ。
「別に痛くなかったから気にしないでいいよ。気に病まないで」
「分かった、ありがとう」
沈黙の間また新たな疑問が生まれた。
「あのさ、一昨日は自殺するために屋上に向かってたんだよね、不死身なのに?」
「不死身っていうのは適切じゃなかったかもしれない」
「というと?」
「私を殺す方法はいくつも存在するんだ。例えば四方八方からマシンガンで撃たれたら流石に再生できない。後は爆弾食らっても死ぬかな。でも私が身体能力をフルブーストすればそんな状況には絶対にならない。だから実質不死身ってこと」
「流石は神だね。飛び降りは全身くまなくダメージがいくから死ねるってこと?」
「正直この高さじゃ死ぬ確率はかなり低い。でも手頃な方法がなかったんだ」
というかそもそも彼女の死にたい理由が何かおかしい。世界を破壊する、つまりは人類全ての命を握っているわけだ。それなのにあの理由は…。
「三波は死にたい理由を刺激が無いからとかこの世界が嫌いだからって言ってたけど、あれ嘘でしょ?」
「ピンポーン!まだ神と信じてない君には迂闊に言えなかったんだよ」
「本当の理由は?」
彼女の目が真剣になる。
「私は9000年近く人間を見守ってきた。人間が好きだったんだ。でも最近は本当につまらなくなった。だからといって私の好きだったかつての人間達が紡いできた結晶である今の世の中を私は壊したくなかったんだ。かつての人間達を否定する事になってしまうから」
「でも三波は壊すんだよね?」
「壊したい気持ちの方が強い。けど壊したくない気持ちも少しはある。その葛藤が嫌で死のうとした。私も大変なんだぜ!」
9000年も見守れば愛着が湧くのは無理もない。昔の人間は彼女に葛藤を起こさせるほど魅力的だったのか。まぁそんなことはどうでもいい俺はこの世界が嫌いだから彼女の決断を尊重する。
「三波はこの星を破壊してより良い世界を目指す革命者だよ。健闘を祈ってる」
「私一人には荷が重すぎるんだ。そこでだ祐介!私と一緒にその革命者にならないか?」




