安い決意
仮に彼女が本当に不死身なら確かめる方法は1つ。殺してみればいい。
父が帰ってくるまでの間に夕飯の準備をする。包丁を研ぎ野菜を切る。今日の献立は父の好きなカレイの煮付けとけんちん汁だ。我ながら上手にできたと感心する。
父は帰宅すると用意されている料理を見て笑顔になった。
「お前は本当に料理が上手だな!俺は嬉しいよ」
父が俺の頭を乱暴に撫でながら言う。
「だからもう撫でないでよ。ほら冷めるから早く食べよう」
下手な照れ隠しに父はニヤける。
夕飯を食べていると
「お前次の土曜日はお墓参りだからな。準備しとけよ」
「うん。分かってる」
さっきまで笑顔だった父が涙目になっていた。この時期になると父は毎回精神が不安定になり、笑ったかと思えばとすぐに涙を流したりする。医者から薬を支給されるほどだ。
「父さん、ちゃんと薬飲んでね。」
父は黙ったまま下を向いていた。
ベッドに戻り借りたラノベを少しだけ読むことにした。読み進めているうちにあるセリフが目に止まった。
「世界を変えるには一歩踏み出す勇気がいる。その一歩を踏み出せる者こそが選ばれし人間なのだ。」
この何番煎じから分からないようなセリフに自分の立場を照らしあせてすっかり気に入ってしまった。
朝はやかましい音と共に始まるが苛ついてはいなかった。父が既に家を出たことを確認し、適当に弁当を作り身支度を整え家を出る。俺は外で大きく深呼吸をしてから台所へ忘れ物を取りに戻った。
電車に乗っているときは通り魔のような気分だった。
最寄りに着くと中村が改札で待っていた。
「おは!」
「おっす」
「今日も晴れてるけど涼しいなぁ。冷夏ってやつかな?」
「さぁね、でも涼しいと気分が良いよ」
「よう!」
後ろから突然大声がした。安藤だった。
「ようジャイアン!」
「だからそれはもう止めろって! そんでよ平、昨日貸したやつ今持ってる?」
「持ってるよ」
そう答えた瞬間安藤が俺のリュックを開けようとした。
「おい!やめろよ!」
柄にもなく怒鳴ってしまった。安藤は俺の動揺の仕方に驚いていた。
「す、すまん。勝手に開けるのは良くなかった」
「ごめん怒鳴っちゃって。俺先行くわ、今の事は気にすんな!」
俺はその場から逃げたくて不自然に別れを告げた。
「行っちまった。いつも何にも言わんのに…」
「さぁ、なにか見られたくない物でもあったんじゃね? あ!俺分かったわ!」
「なになに?」
「学校で話すわ」
「気になるから早くおしえろよ〜」
俺は息を切らして正門へ着いた。見上げる先は屋上
今日あそこで正体を暴いてやる!
教室へ入り、席に着くが全く落ち着かない。頑張って普通に過ごそうとするが普通が分からなかった。そんな時隣の清水さんが話しかけてくる。
「おはよう平本君。さっきからどうしたの?カバン何回も開けたり机の中いじったり。忘れ物でもしたの?」
やっぱり普通じゃなかったようだ。
「いや、別になんでもないよ」
「そっか。あと話変わるけどさ平本君はいつもどこでご飯食べてるの?」
どいつもこいつもこればっかだ。他に考えることないのかよ。
「秘密かな〜」
「そっかぁ。クラスで密かに話題になってるんだよね、平本君は晴れの日に必ず何処かへ消えるって」
「なんだそれ、別に消えてなんかないよ」
「ふふっ、まぁでも気をつけてね」
(気をつけてね?)
清水さんの言葉に疑問を抱きつつもまさか俺の行動が話題になっているとは。前は月4回位におさめてたけど最近はほぼ毎日だから仕方ないか。
「みんなおはよう!」
バカでかい声で入ってきたのは安藤だった。そして真っ直ぐ俺の席に向かってくる。
「さっきは悪かった!で、今返してくれるか?授業中読むわ」
「だから気にすんなって。ほらよ」
「面白かったか?」
「60点」
「お前って奴は夢がないな〜」
「さぁどうかねー」
1限は数学だ。また長い長い4時間が始まる。
「えーと今は9時29分だから29番平本君これを答えてください。」
半分寝ていた俺は全く解いていなかった。いつも奇跡的なタイミングで俺が指名される。
「分からないです」
「えーと、じゃあヒントをあげましょう。ここは微分法を応用します」
でたでた。わからねーって言ってんのにヒントを出して無理やり答えさせようとしてくる。訳がわからない。
「分かりません」
教室は驚くほどシーンとしている。
「どの辺がわからないの?」
イライラがピークに達しそうだった。
「寝てたので分かりません」
「あのねぇ。君は先生の授業が嫌いなの?もういいから座りなさい」
俺は無言で座り思いっきり椅子を前に引いた。安藤がニヤけながらこちらを見てくる。こういう時は茶化される方がありがたい。
「起立!気をつけ!礼!」
「ありがとうございました」
「お前やられたな」
前の席の石田が話しかけてくる。
「本当に勘弁して欲しいわ。マジであのクソババア覚えとけよ」
「でもお前"寝てたので分かりません"は強いわ。あんな事を淡々と答えてるのが面白すぎて笑い堪えるのに必死だったわ」
「笑い事じゃねぇーよマジで」
この事があってか目が覚めてしまった俺は淡々と残りの授業をこなした。4限が終わると話しかけられる前に弁当と手提げ袋を持ち教室を出た。
本を読むのが大嫌いな私の稚拙な作品ですが10話まで書くことができました。ここまで読んでくれた方本当にありがとうございます。ブクマをくれた方もありがとうございます。思わずガッツポーズでした!
引き続き書いていくので読みにくい点などありましたら教えて頂けると嬉しいです。




