伝説の研究者がやっと開発した時間を止める能力は、時間を止めるだけだった。
時間を止めたいって思ったこと、ありますか?
僕の理論に間違いは無かった。
これを完成させることができれば時間を止められる。それが分かってからというもの寝る間も惜しんで研究に没頭した。
そして、この他に類をみない素晴らしい理論をやっとのことで完成させ、本日、発表することとなった。
『右脳と左脳を最大活用した並列思考、そして、思考と時間の進みを同じ速度にすることができれば時間を止めることができます』
この天地をひっくり返すような革命的な理論は、皆に賛美されるものと思っていた。
しかし…
「何を言っている、そんな馬鹿な話があるか!」
「できるはずないでしょ!そんなこと…」
予想に反して僕の理論は皆に否定された。
だが、僕にはできると確信があった。だって、この理論に不備は無いのだから。
これは恐らく、ただ皆が真に理解できていないだけだろう。地球が丸いことを理解されていなかったのと一緒だ。
結果を出せば誰も文句を言わないはずだ。
この理論の特性として、脳の思考を高速化させるだけで良い。初めから最後まで脳内で完結できる理論であり、必要な機材もない。
そのため実験はすぐにでも可能だ。僕は意を決し、試してみることにした。
脳内に電気が駆り、すぐに結果が現れた。壁に掛かっている時計の秒針がとてもゆっくりに動きを変えた。換気扇の羽も回る速度も遅くなり、周囲の時間の流れがだんだんゆっくりとなる。現実時間よりも僕の脳内の時間が加速しているのだ。
そのまま思考を最高速化させることで時間が完全に止まった。
この理論で時間が止まるのは間違いなかった。
しかし…
『んーーー』
時間を止めたが、僕は動けなかった。
指先の、先端の、その先っぽすら動かない。それ以前に、時間を止めた時点で目の前が真っ暗になっていた。しかし、すぐに原因が分かった。それは光も止まっているからだ。
眼球に光が入らなければ何も見えない。そして、その眼球すらも動かない。
それに音も聞こえない。空気の振動が無ければ鼓膜は音を伝えない。
息も止まっているが苦しくない、心臓も止まっているのだから、酸素も必要ない。
止まった世界で僕は世界に干渉することができない。
故に、結果が出ない。否、結果が誰にも分からない。恐らく、誰にも観測できないだろう。
だって、伝説の研究者である僕しか時間は止められないのだから。
生涯を賭けた研究の結果が出た。
『時間が止まっても何の意味も無い』
なんで僕は、時間を止めたかったんだろう……
人生をかけた結果が報われない結果だった時、
絶望に押しつぶされないようにね!
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