プロローグ
目が覚めると、そこは楽園だった。
つめたい東京の冬とはちがって、あたたかな春の日差しが背の高い木々の隙間から漏れ出している。
小鳥のさえずりが聞こえる。
空間を彩るように、古今東西の果実が木々から姿を見せている。
少女の柔肌のように表面についた露をはじく飴色の果実や、女性の肢体のようにくびれた青い果実、ほかにも。
そののどかさだけでも幸福を感じられる空間なのに、なにより俺を幸せに思わせたのは、目覚めた俺の眼前にあるナユの存在だった。
横たわった俺を抱きかかえているナユは、俺が目覚めたのを見て、目を丸くして驚き、それからほどなくして言う。
「起きたんだね、シキ。わたし、待ってたよ」
「ナユ……」
俺は彼女の薄紅色の頬にそっとふれる。
たったそれだけで彼女の生を実感すると同時に、彼女のベージュの髪がふわりと風に舞って、ナユのあどけない微笑みは太陽みたいなまぶしさを湛える。
彼女の慈愛に満ちた表情は、俺の心のなかにある暗澹とした感情を浄化した。
ふたりの望んだ幸せな空間、それがここ――楽園だった。
ナユはそのちいさな身体で俺を抱きかかえたまま、重いだろうにそのままの姿勢で語る。
「ねぇ、シキ……わたしたちが出会った日のこと、おぼえてる?」
「ああ、もちろん。ちゃんと覚えてるよ」
「じゃあ、話して聞かせて。わたしもう、ぜったいに忘れないから」
「言われなくても、そうするよ」
「ありがとう、シキ」
そうして俺は、ナユと出会った日のことを語り出す。
あの日の出来事を、俺たちは一生記憶しつづけなくてはならない。
これからずっと、ふたりで歩み続けるために。
俺たちの原罪を、ぜったいに忘れないために。