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relate -異世界特区日本-  作者: アラキ雄一
第一章「異世界の魔法使い」
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第一章【04】「魔法使い サリーユ・アークスフィア」



 アヴァロン聖騎士団。

 彼らの所属する『アヴァロン国』という世界がある。

 古くから異世界への転移を自由自在に行い、世界間を超えての観測・管轄を行っている集団。異世界警察とでもいえばいいか。

 そんな様々な世界を渡り歩く騎士らによって、俺たち日本国は管理が行われている。

 なんでも日本に多く在るパワースポットやらが時空間に歪みを引き起こて、それが原因で異世界との道が開かれやすいとかどうとか。


 それで、転移多発区域。

 別名『異世界特区』。

 日本国は今、そのように扱われていた。


 そういう訳で、この国は今アヴァロン国から注視され、多くの使者が送られている。中でもうちの図書館のような転移民の受け入れ場所は、優先的な監視対象。

 騒ぎがあれば即座に騎士たちが駆け付け、問題解決に尽力してくれる。


 それ故に、聖騎士団に所属する騎士たちは腕前揃いで。

 戦闘のプロフェッショナルとさえ呼ばれているの、だが……。




 ◇     ◇     ◇




「まさか物の一瞬で、アヴァロンの騎士を三人も吹き飛ばしてしまうとはね」


 呆れたと、姉貴が大きく息を吐いた。


 場所は変わって、地下三階。

 図書館の最下層にして、更にその最奥とされる部屋。

 壁も床も薄汚れ、在る物も机とパイプ椅子だけ。天井からぶら下がった蛍光灯まで時折点滅している。

 名義上は会議室となっているが、これは独房って有様だ。


 そして現在部屋には姉貴と俺と少女の三人。あと、念のため部屋の外に警備員が二人控えている。

 もっともこの程度の人数では、彼女がその気になれば簡単に一網打尽だろう。

 ……なの、だが。


「あ、あわわ、あわわわわ」


 視線の先。

 少し離れたところでパイプ椅子に座る彼女は、頬をピンクに視線をきょろきょろと迷わせていた。

 これといって見るものもないだろうに、しきりに首を回す。


 時折目が合うものの、即座に逸らされてしまった。ぶつぶつなにかを呟いて、また目が合って、逸らされて。さっきからそれの繰り返しだ。

 俺はもう汗だらだらで、この状況をどうすればいいのやら。

 対する姉貴は、机に頬杖を付いて実に退屈そうだ。


「話にならんのだが。なんとかしてくれ愚弟よ」

「言われてもなぁ。目も合わせて貰えねぇし」

「ったく、お飾りの上層連中め。なーにが家内の荒れ事だからお前が解決しろ、だ。面倒ごと押しつけやがって。スマホも圏外で電波拾わないし、くそっ」

「口悪いぞ」

「あんたは目付きも態度も悪い」


 言ってくれる。


 それで、と。

 姉貴が気だるげながら、一旦話をまとめた。


「裕馬は私の私室で、偶然にもあの子の異世界転移を目撃。運の悪いことに、あの子は本の山へ真っ逆さま。助けてあげたらすっぽんぽんで大喧嘩」

「すっぽんぽんにはしてねぇ」

「事態はそれくらいと考えなさい。世界が違うってことは常識も価値観も違うのよ。おへそと下着程度とはいえど、脱がせた事実は変わらない。あの子の世界にとっては一大事なのよ」


 脱がせたとは語弊だ。

 不可抗力だ。


「肌を晒され辱められて。そりゃあ殺されても仕方ない」

「んな理不尽な」

「まあいいじゃないの。結果的にはこうして命も繋げてるし、念願の彼女もゲットってね」


 彼女ゲット、なのだろうか。

 まともに目も合わせてくれないこの状態で。


 お嬢さんと、姉貴が少女を呼ぶ。これで六度目の呼びかけになる。

 今までは姉貴も俺と同様に、ちらりと視線を合わせるだけで逸らされていたが。


「……なに?」


 ようやく彼女が姉貴を向き、返事をした。


「お。やっとだね。お姉さん嬉しいよ」

「あなた、誰?」

「片桐乙女。私、あなたがお付き合いを始めた男の姉」

「つまりは、わたしの義姉? お義姉ちゃん?」


 話が飛躍しすぎなんだが。

 しかし姉貴は完全スルーで、むしろ楽しげに「そうだよ」と答えやがった。


「で、私としては、義妹になるあなたのお名前を知りたいなーと思うわけ」

「……名前? ――はっ、わたし名乗ってない!」


 少女は大慌てで椅子から立ち上がった。

 拍子に椅子がぱたりと倒れ、驚きにピンと背筋を伸ばす。

 それからいそいそと椅子を直して、もう一度立ち直る。


 実に忙しない子だ。

 が、その一挙一動で揺れ動く二つの桃が、堪らなく視線を吸い寄せる。


「おい痴弟よ」

「地底人みたいな言い方すんな」

「ま、普通に大きいからね。仕方ないとは思うが、巨乳というにはそこそこじゃあないか。あれなら私の方が大きいだろ」

「やめろ。近親者の胸を比較に出すな」


 それに大事なのはバランスだ。

 胸そのもののサイズ感じゃなく、身体に対してどうあるか。

 いや、彼女の場合はアンバランスか。

 小さな体躯に大きな胸部。いわゆるロリ巨乳。最高だろオイ。


「あんたの巨乳好きはさておき、聞いてあげなさい。婚約者の自己紹介だ」


 やがて、わたわたと手をこまねいていた少女だが、頭の中がまとまったのだろう。

 すっと真っ直ぐに立ち、ゆっくりと瞳を閉じた。

 両手でスカートの端を摘まみ上げ、一礼し。


「改めまして。わたしはサリーユ。サリーユ・アークスフィア。親しい人はみんな、わたしのことをサリュって呼ぶわ。だからよければ、サリュって呼んで」


 サリーユ・アークスフィア。

 彼女はそう名乗った。


「――サリュ」


 呟く。

 随分可愛らしい響きで少々恥ずかしいが、本人が求めるならそうしよう。

 姉貴も構わないと頷いた。


「じゃあ私も改めて、さっきも名乗ったけど片桐乙女だよ。この図書館で働く職員でね。んで、こいつは弟の裕馬」

「おまけみたいに言うんじゃねぇよ」


 自己紹介くらい自分で出来る。馬鹿にしやがって。


 そうして少女を、――サリュを見る。

 サリュもまた俺を向く。

 まだ少し恥ずかしそうだけれど、ようやく向き合うことが出来た。


「片桐裕馬だ。俺も裕馬でいい」

「オトメと、ユーマ。ユーマ、ユーマ、ユーマね! 覚えたわ!」

「おーおー。裕馬だけ四回とは、可愛いじゃないか」

「うっせえ」


 若干響きが違うような気もするが、別にいいか。

 そして姉貴が一度、パンと手を鳴らした。


「さて、お互い紹介も終わったが、――笑顔に歓迎できる状況にはない。判るね?」

「……ええ。ごめんなさい」


 そうだ。残念ながら、多くの被害が出ている。

 サリュも自覚があるようで、素直に肩を落として頭を下げた。


「我を忘れていたわ。異世界転移に成功してヤッタと思ったら、まさか辱められるなんて」


 また顔を赤くして睨まれる。先程までと違って敵意や殺意がないだけマシか。

 むしろ瞳も潤んでいて少し可愛いとすら思えるくらいだ。


 しかし、そんな浮かれたことは言ってられない。

 こちらに大きく非があったのは事実だ。


「その件は本当に悪かったよ」

「わたしも理解はしたし、許すわ。そ、そそそそれに責任も取ってくれるみたいだしねっ」


 ぷいっとそっぽを向かれる。

 ……そんなに恥ずかしいならいちいち口にしなくても。


 すかさず姉貴が咳払い。話が逸れたな。


「それで、だ。この世界に転移して来た以上、君もこの世界で生きることになる。そうなれば、差し当たって今すぐ必要になるのは信用だ」


 食べる、住む。ライフサイクルを作る為にも、まずは信用を得なければならない。

 先程事件を起こしてしまったサリュには信用の回復こそが急務だ。


「まあ、私のナイスアシストで痴話喧嘩の雰囲気は作ってあるし、愚弟の渾身のプロポーズで笑い話にもされてるから大丈夫だとは思うけれど」

「おい」


 笑い話にされてんのかよ。


「だけどそれだけで許されるには被害が大きすぎる。だから信用を回復するためにも、サリュには『お手伝い』を提案したいが」

「それって、修理とかのお手伝い?」

「いいね、話が早くて助かるよ。それがベスト。貴女、相当魔法が使えるみたいだけれど、そういう分野は得意?」

「そう、ね。修復系統の魔法はその場で作って組み上げる形になるけれど、多分いけるわ。要は元に戻せばいいんでしょ」

「なんなら倒れた柱とかを浮かせて戻したり、重い物を魔法で支えるだけでも十分な手助けになる。どこまで出来るかは貴女の実力次第になるわね」


 それから大事なのは、ごめんなさいの一言。

 姉貴の言葉に、サリュが頷いた。

 どうやら話はまとまったらしい。


 案外簡単なもんだなと思ったが、そんな筈ないか。

 きっと姉貴が色々と根回しをしている。

 サリュを受け入れる方向に。


 だが事実、彼女を受け入れる体制を整えるのが最良に思える。

 先程の事態で露見した、あまりに強すぎるサリュの力。彼女を拒み下手を打って争いにでもなれば、こちらの被害は相当になるだろう。

 聞いた話では、現状怪我人こそいれど重傷死傷者はゼロ。我を忘れていたとは言っていたが、その辺りの加減や調整はしていた筈だ。本気で敵に回っていたのなら、俺やアッドも無事では済んでいない。

 それを分かっているからこそ、姉貴も周りもその方向性で行くんだろう。


「あー。とっとと終わらせて期限イベ周回したい」


 ぼそりと呟く。オイ。


「んー。でも今すぐに動かれるのは早計かな。もう少し話を通しておくから、ひとまず身を隠してちょうだい。そうね、私の部屋掃除とか、お願いできる?」


 勿論、裕馬も一緒にね。

 そう続けて名前を呼ばれた。


 ちょっと待て。

 あの部屋の掃除とか、冗談じゃねぇぞ。


「なんでそうなる」

「お手伝いの一つよ。ぐちゃぐちゃにしたんでしょ」

「それはそうだが、あの部屋は元々だなあ」

「文句言わないの。私が話をつける、二人は私の為に動く。ウィンウィンでしょ」


 確かにどちらも大変だが、作業量が違い過ぎる。

 あの部屋だぞ。本に埋もれた、ゴミ屋敷みたいなところを二人でだぞ。


「それにほら、サリュを匿う部屋も必要になるでしょ。綺麗にしてくれたら、あの部屋をあげるわ。ベッドもシャワーもあるし、快適に違いない」

「そもそも使える環境に持って行けるのか?」

「それは二人の努力次第」


 分かったらほら、行きなさい。

 そう言って話は終わりだと、手を払われる。


 完全に面倒ごとを押し付けられてしまった。

 思わず項垂れてしまうのは、あの部屋の惨状を目にしているサリュも同じだろう。

 そう思ったのだが、


「……二人で。……ユーマと、二人で。は、初めての共同作業ってことね!」


 むしろ喜んでいる様子なので、残念ながら引き受けざるをえないようだ。

 やってくれたなクソ姉貴め。



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