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relate -異世界特区日本-  作者: アラキ雄一
第二章「黒薔薇の仮面」
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第二章【02】「大騒動」

 

 異世界新聞。

 正式には、アヴァロン国から同盟国へ発行される「情勢通達」と呼ばれるものだが、姉貴をきっかけに俺も新聞と呼ぶようになった。


 この異世界新聞は、アヴァロン国が世界を越えて購読者へと届けている。つまり先程の配達員はアヴァロン国に所属しており、異世界人故に姿形が人間とは違っていたわけだ。

 他の世界や別の街でも同じかは分からないが、少なくとも藤ヶ丘の四地区は月曜日の早朝、霧に紛れての配布されている。関係者全員ではなく、契約を結んだ購読希望者の元へ。その辺りは日本国に流通している新聞と同じ制度だ。


 しかし世界間を越えての配達になる為、購読料は馬鹿にならない。貨幣価値の変化や情勢によって増減されるが、大凡一部が二千円程らしい。

 それでも姉貴がこれと契約し届けさせているのは、単純にその情報が金額に相応するものだからだ。


 異世界を取り纏めるアヴァロン国から見た、複数異世界の情報。同時に、彼らから見た日本国の状況。それらは関係者にとって必須ともいえ、通常であれば手に入らないものだ。それがたったの二千円というのだから、間違いなく破格の部類だろう。


 特に、今朝届けられた新聞は重要なものだ。

 丁度一週間前、この街で引き起こされた大規模事件。


 俺やサリュが関わったあの夜の戦いが、記されているのだから。




 ◇   ◇   ◇




 広げたページを確認し、無ければ次のページへ進む。

 出来れば時間を使って様々な情報を取り入れるべきなのだが、今は自国の事件についてが優先だ。

 そうして進めること、五か六ページ目。アッドが素早くそれを見つけた。


「これ、ダナ」


 見開きの片面を使った、大々的な事件。


 八月末日。

 アヴァロン国同盟に含まれる日本国で引き起こされた、転移者による破壊事件。本国の第一級騎士を含む大多数の戦士が投入されるも、街を半壊させられる事態となった。


 アヴァロン国はこの事件を、正式に「ヴァルハラ国の侵攻」と発表。

 世界を跨ぐ戦争に勃発する危険性を示唆する。


「冗談ダロ?」


 アッドが呟き、俺も息を呑んだ。

 何度も読み直してみるが、その一文は、間違いなく記載されている。


「世界を跨ぐ戦争の、危険性?」


 そんなの有り得るのか?

 正直事態を呑み込めない俺とは対照的に、アッドは唸り声を上げている。……反応から察するに、まったく良くない展開が予想されるってことか。


「アッド?」


「アー、いや、ウーン」


「んだよ、歯切れ悪いぞ」


「そりャアナ。戦争ダゼ。しかも異世界ドオシの、ナ」


「まったくイメージが湧かないんだが」


「アー、実はオレはソウイウ経験があるンダヨ。もット小セエ時の、ガキん時の話だけどヨ」


 アッドは言った。

 アッドの国は、異世界からの侵略によって領土を奪われたのだと。


「詳しくはオレも覚えてネェし、長くナル。なんナラ姐サンの方が詳しいダローナ。だからココで言ッテやれるのハ、コレは質ノ悪い冗談や憶測ジャネーッテことダ」


「異世界から侵略って、転移者たちが攻めてくる、みたいな感じかよ」


「恐ろシい話ダゼ。知らネー法則や技術を持ッタ連中に襲われるッテのハ。それこそ、テメーの嬢チャンや例のお友達ミテーな連中が、大群で国を取りにクるッテンダからナ」


 それは、ゾッとする話だ。

 しかも今アッドが言ったことは、ほんの例え話じゃない。この新聞が示唆している脅威は、それなのだ。サリュの母国であるヴァルハラ国が、俺たちの国へと戦争を仕掛けてくる可能性がある、と。


「サリュは飛び抜けて天才だって話だけど、及ばずとも劣らない魔法使いたちが来るってのか」


「最悪、オレたちミテーに国を捨てて逃げネーといケないカモナ」


「……はは」


 冗談だろ、とは返せなかった。

 冗談じゃないんだ。アッドがここに居るってことは、つまり、そういうことだから。


 最悪が、十分に考えられる。


「マ、ソウ落ち込むナ。オレらの世界とは違ッテ、日本国は異世界トノ繋がりガ密接ダカラヨ。騎士の連中モ、色々と対策するダロ」


「それは、そうだろうが」


「それにヨ。ウチにはヴァルハラ国で一番の天才サマが居るんダゼ? むしろ勝負にナラネーんジャねえカ?」


 ああ。それは確かに、唯一の救いかもしれない。

 万が一戦争になったとしても、そう簡単に侵略されるなんてことはない筈だ。


 日本国には妖怪も居るし、アッドたち転移者も少なくない。アヴァロン国も、こうやって気にかけてくれている。


 そしてなにより、こっちにはサリュが居るんだから。




 ◇   ◇   ◇




 結局重い空気も長続きすることはなく、最後の方はサリュとのことを散々からかわれたり、どこまで進んでいるのかなどと無粋な質問攻めにあったり。

 それから図書館へと入り、用事が控えるアッドと別れた。アッドは忘れ物を取った後、なんらかの仕事へ。俺はその日本国の希望へと会いに、地下室へ向かう。


 道中も人が居ないのをいいことに、新聞を歩き読みしながら進む。

 改めて先週の事件について、細かな情報収集と確認だ。


「被害件数とか負傷者数とか、やっぱこっちの方が細かいな」


 日本国でもニュースや新聞に取り上げられ、事件の報道は行われていた。現在も度々特集が組まれ、振り返りや考察が進められている程だ。

 しかし、当然公的な番組で詳細が語られることなどない。今朝マンションで中居さんと話していたような、謎のテロやオカルトじみた憶測ばかり。それでも注意喚起を煽る意味では、十分に効果があったように思われる。


 が、俺たちはその詳細を知れる立場にある。

 それに俺は、その件に大きく首を突っ込んでいる。知らなければいけない、とまでいえるだろう。


「八月某日。ヴァルハラ国より日本国藤ヶ丘市への異世界転移を確認。駆け付けたアヴァロン国の騎士数名が瞬時に制圧され、危険因子として捜索作戦を決行することとなった」


 作戦決行以前に、捜索対象の本名がリリーシャ・ユークリニドであると判明。これは対象であるリリーシャの転移が確認される前日、同じくヴァルハラ国より日本国へ転移していた、第一級戦士サリーユ・アークスフィアより提供された情報である。

 サリーユ第一級は転移時より日本国に友好的であり、藤ヶ丘市に拠点を置く集団「百鬼夜行」からアヴァロン国へと移住を登録、受理されていた。後に対象であるリリーシャの攻撃目的が第一級であったことから、彼女の登録に疑問の声も上がったが、現在は正式に受け入れ互いに積極的な協力体制にある。詳細は後述。


 某日夜間、藤ヶ丘市西地区にて作戦を実行。

 アヴァロン聖騎士団よりヴァン・レオンハート第一級が総指揮を執ったが、対象リリーシャの脅威が推定を上回る事態となり、作戦部隊・周辺住民・建設物に甚大な被害を受けた。

 一時はヴァン第一級が戦線から外れる切迫した状況に陥るも、百鬼夜行集団やサリーユ第一級の善戦により、なんとか事態を収拾。


 対象リリーシャを無力化し、捕縛することに成功した。


「――尚、作戦後、無力化した対象は負傷により昏睡状態であり、市内の医療施設にて厳重な監視下に置かれている。原因究明の為、現状対象を処分する予定はない、か」


 なるほど大凡の流れとしては、特に俺の認識と間違ってはいなかった。

 サリュの移住登録が簡単に受理されなかった話や、積極的な協力体制にあるかは怪しいところだが、その辺りは新聞社の好意的な見解が含まれていると考えよう。


 そんな事件の概要から、細かい被害状況、今後の戦争危機に関する推測までが書かれている本記事。最後の話題は、複雑にも俺とアッドがしていたものと被った。


「……様々な可能性が示唆される本事件だが、上位魔法世界であるヴァルハラ国のサリーユ第一級を迎えることが出来たのは、アヴァロン国にとって大きな躍進と言えるだろう」


 今後も彼女と友好的な関係を築くことで、想定される脅威へと備えたい。

 彼女は「日本国の希望」とも言えるであろう。


「……希望、ね」


 まったく同じニュアンスの物言いに、嫌気が差した。

 勿論、自分自身に対してだ。


 恐らくあの子は、そんな扱いを望んでなどいないだろう。

 むしろまったくの正反対だ。出来ることなら母国との争いなんて考えたくないだろうし、暴力的な事象にも介入したくはないだろう。


 彼女はただ、日本国に居たいだけだ。

 当たり前を謳歌したいだけだ。


「……なんて」


 俺が嘆いたところで、どうなる話でもない。

 あの子はそれ程までに圧倒的な力を持っているんだから。


 そして俺は、彼女に追随する程の力を持っていないんだから。


「ま、いいんだけどな」


 これからどうなるかは分からない。待ち受ける不安の予測に、正直気が引けるしおっかない。なんとかしてくれよって、他人に全部放り投げたいくらいだ。

 でも、どうにもならない。どうにか出来る力もない。

 だったら仕方がないんだ。今は、今の自分に出来ることを。俺がやらなければいけないこと、やりたいことを進めるだけだ。

 などと改めて方向性を見直し、しっかり地に足をつける。浮足立たないように、気持ちを落ち着ける。


 その頃には、丁度、目的の地下に着いていた。

 廊下を進んで突き当りを曲がり、一番奥の部屋へ。


 扉にかけられたプラカードには、乙女を改め「サリュ」と記されている。一応図書館としては姉貴に貸している筈だが、本当にこれでいいのやら。

 大きなことから小さなことまで、問題は山積みだ。


「っし」


 それを一つ一つ、自分に出来ることから片付けていこう。

 今一度そう決意して、私室の扉に手をかけ、開いた。




 すると、どういう訳か。




「えっ?」

「――は?」




 どういう訳か、部屋には一糸も纏わぬサリュが居た。




「さ、サリュ?」


 まさかのまさかだった。

 あまりに予想外過ぎた。


 なにも身に着けず、言葉通りすっぽんぽんの姿で部屋に立つサリュ。

 こんな早朝から風呂に入っていたようで、髪や肌が湿りを帯びている。それがまた色っぽく、余計に視線を集中させた。


 まず大きな膨らみが二つ。何故か色濃い湯気が先端部を上手いこと隠しているが、丸々大きな果実はそれだけでとんでもない破壊力だ。ずっと見ていたいところだが、流石にそれだけではもったいない。そのまま視線を下ろす。

 綺麗なくびれと柔らかそうなお腹、可愛らしいおへそ。残念ながら上部と同じく危険な部分は隠れているが、細い足や小さな指先まで見えている。


 これはまいった。びっくり仰天だ。

 せっかくなのでもう一度視線を上げ、丸々大きな双丘を記憶に収めようと思ったのだが。


 ばっと、サリュが両手で胸元を覆った。


「ゆ、ゆゆゆゆユーマ、なななん、で」


「い、いや、いやいやいやその、ちょっと用事で早くに来たから、それで、それで」


「こ、ここここんな朝早くにくくく来るなんて、思わないっ予想出来ないっ!」


 そりゃそうだ。俺だって正直、起きているとすら思っていなかった。起きていて、しかもまさか風呂上がりで、おまけに裸の状態とか、予想出来る訳がなかった。


 だからこれは決して故意ではない。

 故意ではないので、その、えっと。


「……ご、ご馳走様?」


「でっ、出ていけーっ!!!」


 直後、激しい風に身体が吹き飛ばされた。




 朝っぱらから大騒動。柄にもなく余計なことを考えていた所為だろうか。

 やっぱりまずは足元から、しっかり踏み慣らしていかないといけないようだ。




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