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relate -異世界特区日本-  作者: アラキ雄一
第一章「異世界の魔法使い」
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第一章【31】「半妖の鬼 片桐裕馬」



 激しい爆発と広がる業火。

 サリュの放った一撃が、目先一帯を炎で埋め尽くす。


 飛びそうな意識の中、力の奔流に圧倒されながらも、その場に立ち止まり耐え凌ぐ。

 しかし果たしてこのまま持つだろうか。皮膚があまりの高熱に耐え兼ね、鬼血すら溶け出し剥がされていく。残った生身が焦がされ、頭部の角も左の一本をもっていかれた。

 だが、それまでだ。


 やがて訪れた終わりの時。

 炎は一瞬にして消え去り、衝撃と風圧が辺りを抉る。

 開けた視界に映ったのは、削られた大地と焼け落ちた木々。辺りを覆っていた筈の森が、半分を残して消し飛ばされていた。


 冗談じゃない。

 まるで隕石が落ちたみたいに、大きなクレーターが出来上がっている。


「……これが」


 これが、兵器とまで呼ばれる、魔法使いの力。




 そして、またしても。

 その木々たちの残骸に、ヤツがまだ身体を残しているのも驚きだ。




「女ァ」


 即座に全身を回復させ、鬼血で包み込む。角も二本元通りで、正真正銘の鬼へと姿を戻した。

 対する女は、衣服をボロボロに立ち尽くすばかりだ。なにやら右手をこちらに向けているようだが、なにも起こらない。やんわりと光を帯びるだけで、その次へと続かない。

 決定打だ。


「そんな、魔法が。魔力は、まだ残っているのにっ!」


 動揺するリリーシャへ、ゆっくりと近付いていく。


「俺たちの勝ちだな。まんまと陣のある森まで運ばれやがって」

「陣っ、……なにが」

「なんでもこの森の地下には五芒星だか六芒星の陣があるらしくてなァ。本来なら妖怪の力を奪うようになってるのを、改良して逆転させたらしいぜ」

「逆転って、一体」

「妖怪以外の力を許さないってこった」


 そいつが発動しているから、女は無力になった。もう魔法を発動することは出来ない。

 大助かりだ。お陰でもう、コイツは皿に盛り付けられた料理そのものだ。


「いただきまーすってかァ。よかったらサービスしてくれよ。私を食べてーとか媚びてくれよォ」

「……趣味の悪い男」

「悪ィな、鬼なモンで」


 一歩一歩、距離を詰めていく。


 もう少しだ。ようやく久し振りの肉にありつける。

 いや、喰うのは初めてか。前は散らけるだけ散らけて一口も食べなかった。勿体ないことをしたもんだ。

 人肉ってどんな味がするんだろうな。楽しみだ。なんで俺は鬼だってのに、今の今まで喰ってこなかったんだ。馬鹿げてやがるぜ。


 そうして更に一歩、踏み出そうとして。


「――ア」


 ピタリと、足が止まった。考えるよりも、視認するよりも早く反応してしまった。

 遅れて、見つけてしまう。半焼した森の向こう、残された木々の向こうから現れる人影を。


 決して逆らうことの出来ない存在を、発見してしまう。




「姉、貴」




「愚弟よ。なにをしようとしている?」

「どうして、ここに」


 いいや、聞いていた筈だ。結界陣を発動させる為に、姉貴が手を貸していると。

 でも、なんだってここで出てくる。後少しだってのに!


「お姉ちゃんは何度も口をすっぱくして言わなかったか? 人は喰うなと」

「違ウ、コイツは、異世界人だぜ!」

「異世界人。つまりは人、だろ」


 姉貴はいつも通りだ。

 スマホを片手でいじりながら、木が無くなったお陰で電波が良くなったなどと。……笑って、いやがる。


 冗談じゃねぇ。

 ここまで来て、なんでお前が。


「なんで出て来やがった! 表舞台に出てくるようなタイプじゃねぇだろ!」

「なんでってそりゃあ、あんたを呼びに来たんでしょうが。ったく、私は結界陣の起動で疲れてるんだ。早く帰るよ」

「呼びに来たってなんだよ、子どもじゃねぇんだぞ! 勝手に帰れよ!」

「やだよ、疲れてるって言ってるでしょ。連れて帰らなきゃ、風呂の用意は誰がしてくれるわけ?」

「ハァ?」


 なにを言ってやがるんだ、コイツは。

 姉貴はやれやれと首を振るう。


「ガキじゃないってんなら器用に察しな。風呂の掃除も沸かすのも、なんならタオルや着替えの準備も全部あんたがやるって話でしょうが」


 だから帰るぞと、姉貴は当たり前のように言った。


 違う、これは命令だ。この状況で、この現場を見て、そんなくだらない命令を下しやがった。

 ――ふざけている。


「冗談じゃねぇ! 鬼が風呂を沸かすか? 馬鹿言ってんじゃねぇよ!」

「めんどくせーな。相当鬼にやられてんじゃない。立派に角まで生やしちゃって」

「適当にあしらってんじゃねぇぞ! スマホばっかり見やがって、クソが!」

「だってあんた、イベント期間中だし」

「ふざけんじゃねぇよ! こっち見やがれ! 殺スゾ!」


 思わず叫んだ。

 瞬間。


「……ほう」




 確かに姉貴は俺を見た。だけどいつもの目じゃない。

 赤黒い、鬼の血を通した瞳だ。




「下等種の分際で殺すだァ? あんま調子に乗んじゃねぇよ」

「下等だァ?」

「姉の下が弟、これが世界の心理だろ」


 当たり前のように言い切った。


「わかったらとっとと角を収めて帰ってこい。どこまでも面倒な愚弟め」

「愚弟って、ハッ」


 ああ、なるほどな。姉貴は、コイツは最後まで俺のことを弟として見てやがるんだ。

 今までと変わらない、ただの弟として。


 舐めやがって。……馬鹿にしやがって!


「舐めんじゃねぇぞ!」


 コイツも敵だ。

 コイツも女と同じ、殴って引き裂いて、喰ってやる!


 鬼血を更に活性化させろ!

 もっと力を! もっと凶悪に、暴力と殺戮を!

 俺は、鬼だ!




 ――――なのに。






「ユーマ」






 その熱が冷まされる。

 沸騰した身体に氷を注がれたような感覚。

 ドキリと一際大きく心臓が高鳴り、それからやがて沈んでいく。


 振り返ればそこには、小さな少女が立っていて。


「サ――」


 名前を呼ぶより早く。

 ぎゅっと抱きしめられた。



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