表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
relate -異世界特区日本-  作者: アラキ雄一
第五章「終わりへ向かう物語」
257/263

第五章【20】「追戦」

 


 不意に目前で、桃色の髪がふわりと揺らめいた。

 遅れて細められた瞳や、釣り上がった笑みを視界いっぱいに見せつけられて、――だけどそれらはすぐにブレて乱れて。

 気が付いた時には、身体が後方へと大きく吹き飛ばされていた。


「つヅヅ!?」


 どこかの建物へと叩き付けられ、そのまま壁を突き破り室内へと転がり込む。

 這いつくばり、けれどもすぐに立ち上がり。身体中から嫌な音が響くのを無視して、戦闘態勢へと持ち直した。


 曇天が遮られた薄暗がりは、合わせて爆音や悲鳴をも遠く届かせない。

 微かな静寂。そして追撃はない。

 その隙に思考を回せ。――私は今、なにをされた?

 いや、それよりもここは? この後は?


「……づ」


 まずは状況だ。周囲を確認する。

 暗がりのこの場所は、――駐車場か。所々に車が並び、或いは横転している。

 人の気配はない。点在する大きな柱で隅々までは見渡せないが、少なくとも生気や音の類は感じられなかった。

 それから対面、大きく開かれた壁の向こうには、通り過ぎた街の惨状が覗いている。


 一体どれ程の距離を飛ばされたのか。どれ程の一撃を受けたのか。

 見下ろす両手も、立ち直った足や背も、そこにはもうなんの痕跡も残っていない。

 当然これまで同様に、痛みもない――が、故に。


「くそっ」


 状況の把握に遅れる。

 自分がなにをされたのか、なにがあったのかを計り切れない。

 痛みも傷も重要な情報なのだと、思い知らされる。


 魔法の攻撃を受けた、のか?

 だけど彼女の魔法は明らかに、私を貫き消し炭にしていた。

 これまで同様の魔法であったなら、私はあの場で身体を削られ、退く程度で立ち止まっていた筈だ。

 光閃や雷の類とは違う。なら、風の魔法とかそういうヤツか?

 だとしたら、距離を詰めたところで――。




 などと情報を整理しても、すぐに答えには辿り着けず。

 間もなく――またしても、右の視界を青白い光が包んだ。




「ヅヅヅ!!?」


 開かれた壁の向こう、硝煙渦巻く夜空に浮遊し、迫り来るのは。

 変わらず派手な桃髪をはためかせる、件の魔女だ。


 私を見下ろし、頬を緩めて。

 一切の余裕を崩すことなく、魔女は私に言った。


「逃がさないよ~」

「ハッ、誰が――ッ!」


 戦闘再開。

 右目に一撃貰ったが、構わず背後から十数の骨腕を展開して――。







 間もなく。

 その全ての腕が、一瞬にして凍り付いた。







「――――は」


 氷に覆われ、がしゃどくろの腕が制止する。

 どころか腕も足も、指先に至るまで身じろぎすることも出来ない。

 固められ、埋め込まれ、行動を完全に封じられた。


 失念していた。

 炎や雷を射出するだけが魔法じゃない。

 相手を貫くことしか出来ない訳がない。

 分かっていながら、こんなにもあっさりと。


「――――づ」


 更に骨手を発生させれば、内側から破壊できるか。

 そう考え、身体の中で作り出した腕を再度、背中から噴き出したが――駄目だ。

 氷壁は分厚く堅牢。半端な抵抗では削ることさえ出来ない。




 そんな私を、嘲り笑いながら。

 桃色の魔女はコツリと、建物の中へと足を下ろした。




「どうかなぁ~。鬼餓島で見た、雪女? って妖怪の真似をしてみたつもりだけど」

「――く、……そっ」

「あはっ、凄いねぇ。全部凍らせてるのに、なんで声出せるのぉ? さっきも顔貫いてるのに叫んでたしぃ~。もしかして、目も見えてる?」


 言って、彼女は右手の人差し指を立てて左右へ振った。

 ……甚だ不本意だが、その見え透いた挑発はしっかり効いている。

 だけどその態度に腹を立てようとも、今の私に出来ることはない。

 だから言葉を返すこともしなかった。


「……」

「応えてくれないの~? つまんないの。それとも実は、聞こえてはいないのかなぁ?」

「…………」

「まあどっちでもいっか。ん~、でもどうしようかなぁ」


 なにも言わない私に、それでも一人でぶつぶつとこぼしながら。

 桃色の魔女はゆっくりと、こちらへ向けて歩き出した。


「頭を貫いても死なないもんねぇ。じゃあ凍らせてても、いつかは勝手に溶ける気もするしぃ。とはいえ、凍らせたまま砕いてもぉ、結局元に戻る気もするしぃ~」

「…………」

「はっ、砕いてバラバラにして、それも個別に凍らせるのはどうかなぁ? それで、それぞれ遠いところに捨てたりとかぁ、……いっそのこと、頭だけ異世界に転移させたりとかも?」

「…………」

「あ~でもぉ、貫いたり消し飛ばした部位も戻ってたか。千切れた部位がなくても問題なしでぇ、じゃあ結局は頭から身体が生えてくるのかなぁ?」


 なんておぞましいことを、ころころと表情を変えながら平然と言ってのける。

 軽快な足取りで、口元を緩めたまま、可愛らしく首を傾げて。


 だっていうのに。

 背後にはしっかりと、六つの魔法陣を展開させている。

 ああ、本当に、――憎たらしい。


「う~ん、試してみるのも面白そうだけど、結局は面倒くさいかなぁ?」

「……」

「まぁもう少しぃ、頭を潰したりバラバラに凍らせたりを試しながら、時間を稼ぐ感じで。しっかり働いてましたよ~感は出して、いいところで撤退したいんだよねぇ」


 だから、手伝って貰うね、と。

 やがて彼女は歩み寄り、ほぼゼロの距離まで近付き、そう宣言してみせた。

 その右手をゆっくりと、私の額の前へとかざした。


 見せつけるように、突き付けるように。

 それは正しく、勝利宣言だった。




 ああ、まったく、本当に。

 憎たらしくて、――殺してやりたい。




「――――」


 私は、その感情も、声も音も出さないままに。

 ただ、命じるままに。







 パキリ――と、()()()()()()()()()()()

 そこから小さな骨手を突き出し広げた。







 そして、その足下の小さな手のひらに。

 ――()()()()()()()()()()()()を握らせた。




「――はっ」


 がしゃどくろの腕は必ずしも、背面から出すことに限られてはいない。

 この身体のどこからでも、例えば()()()()()()()()()()でも発生させることが出来る。


 駆け出す間際、制止された私の足はまだ、しっかりと床を踏み締めている。

 氷に覆われていないその場所ならば。

 ただの足場程度ならば、骨手は易々と掘り抜けていく。




 加えて、この身を包む黒のスーツは。

 重火器や武具も虚空へと収納し、収納したものは私の身体であるならば、どこからでも取り出すことが出来る。

 それは当然に、私の一部であるがしゃどくろの腕であっても可能であり――。


 すれば骨手は、素早く手のひらを振り上げ。

 取り出した手榴弾を、私と魔女の間へと放り投げた。




「――――へ?」




 素っ頓狂な声は手遅れに、間もなく上書きされて――。




 鳴り響く爆発音。

 視界も身体も全てが、真っ赤な炎に包まれた。





読了ありがとうございました。


次話は来週日曜日に投稿予定です。

よろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ