表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
relate -異世界特区日本-  作者: アラキ雄一
第五章「終わりへ向かう物語」
256/263

第五章【19】「万に一つへの」

 


 夕暮れ時の閑散とした八ツ茶屋で。

 私はテーブルを片す手を止めて、ふと現れた車椅子の彼女へ尋ねた。


 この先、起こり得る戦争の中で。

 果たして私の力は――がしゃどくろの力は、魔法使いに通用するのか。

 私の問いに、東雲八代子は即答した。




「通用しない」




 驚きはなかった。

 残念ながら私も同じ見解だから。

 東雲八代子は続ける。


「先代がしゃどくろは貧乏神の力を有していた。その力がどういうものなのかは、説明するまでもあるまい」

「ええ、よく知っています」


 あらゆる不幸を引き寄せる力。

 それは単純な運の悪さ、不運などといったレベルの話ではない。

 黒いモヤとして目視出来るほどの邪悪な力は、纏わり付いた対象の『当然の事象』すら、失敗や不可能へと貶める。

 不意にただ歩くことが困難になり、何故か呼吸が上手く出来なくなり、或いはそのまま()()()()、死に至らしめられることさえも。


 かつての戦いでは、勝ち切ることこそ出来なかったが。

 それでもサリーユ・アークスフィアの強大な魔法すら、妨害し不発に至らしめた。

 その上から覆い被せた百を超える骨腕は、彼女を大きく追い詰めていた。


 もっともその不幸は、敵対者へと叩き付けることで不条理を押し付ける強大な力だが。

 有事でなければ振るう先を失い、力の持ち主そのものを蝕む呪いに等しいものだった。


「――最悪の力です」


 近親者や友人を失い、自身の望みも叶えることなく、孤独なままに崩れ去る。

 それが、貧乏神に待ち受ける最期だった。


「ふむ、同感じゃな。だがその力は確かな脅威であった。それこそ、妾もあの女狐めも、必要最低限さえ接触を拒んでおった程じゃ。――しかし」


 だがその脅威は、その敬遠は、どちらか一方ではなく。

 がしゃどくろと貧乏神。その二つの力を以ってしてのものだ。

 どちらか片方だけでは決して、サリーユ・アークスフィアに匹敵することも、東雲八代子にここまで言わせることも、ない。


 故に、かの男は特級であり。

 私は、そこに遥かに及ばない。


「がしゃどくろの力だけでは、魔法使いには通用しない」

「…………」

「物理的な殴り合いなどであれば優勢を取れよう。この国の妖怪だけの中であれば、上々とも言える。だが、魔法使いを相手取るのは難しかろう」


 サリーユ・アークスフィア程でなくとも。

 リリーシャ・ユークリニドに匹敵する魔法使いを相手には、手も足も出ないだろう。

 東雲八代子はそう言い切った。


 だけど。

 彼女は、続けて。


「じゃが、――万に一つの勝ち目もないとは、思わぬ」


 そう言った。




 ◇     ◇     ◇




 がしゃどくろの力は、大きく二つ。

 一つは死した身体を動かすことができ、死んでいるから死ぬことがないこと。

 加えて再生能力があるため、身体は削られても元に戻る。

 死なずに朽ちない身体は破格の継戦能力を誇り、それだけでも大妖怪を名乗るに足りている。

 多少格上相手との戦闘でも、いつまでも――永遠に戦い続けられるこの身ならば。

 勝つまで終わらないと詰め続ければ、いつか勝機に手を届かせられる。

 永遠とは、それ程の可能性だ。


 当然それは、魔法使いを相手にしても変わらない。

 彼女らが操る魔力というエネルギー源が、無限でないなら。

 疲弊や摩耗と無縁ではなく、永続的な戦いにより出力が落とされるなら。

 がしゃどくろはやがて、手のひらへ下りてきた標的を握り潰すことが出来る。


 そして、もう一つは――。




「おおおおおオオオオオアアアアアアアアアアア!!!」




 一目瞭然。

 圧倒的な物量を以って振り下ろされる、この巨大な骨腕たちだ――!!!


 目前、立ちはだかる桃色髪の魔女へと、私は背中から噴き出した骨手を叩き付けた。

 合計十数。扇状に広げられたその手のひらは、たったの一つで彼女の身体を優に呑み込み潰す。

 それを折り重ね束ねている。決して逃がさないと、彼女の視界を白骨で覆い尽くす。

 単純ながら明確に、骨腕から繰り出される打撃はまさしく必殺の破壊力だ。


 ――だが、判っている。

 それは、当然ながら。

 この一撃を標的へと届かせ、真っ向から叩き付けられた場合の話だ。




 間もなく。

 繰り出した骨腕たちが、青白い光に消し飛ばされた。

 振り下ろした腕は悉くが、手首から上を失った。




「――――ッ!」


 背後で轟く爆発音は、通り過ぎていった光の着弾か。

 振り向き確認する余裕はない。――ある筈がない。


 繰り抜き開かれた、骨手で覆っていた筈のその場所で。

 ほんの小さな魔女がギラリと笑って、幾重もの魔法陣を宙に展開しているのだから。




 赤と青と黄と白。

 それらの光を認識した次の瞬間、私は右の視界を真っ青に染められた。


「づヅ」


 痛みもなにも感じないから分かりにくいが。

 恐らく()()()()()()()()を、或いは()()()()()()()()()()()()か。

 この視界は眼球に血を通わせる必要がないどころか、眼球が有る必要すらないらしい。

 慣れない上に気持ちが悪い。頭を貫く光線の中を覗くなんて、不快極まる。


 遅れて視界が左にズレる。

 左肩を押されて一歩退いたような移動。

 見れば、左腕を肩口から撃ち落とされていた。

 パックリと開かれた赤黒い断面が、微かに焼け焦げた狼煙を上げている。


 後は、ガラガラと鳴らされる音。

 背面から伸びている骨腕を、幾つか千切り落とされた。


「――――」


 でもどれも問題ない。

 頭部は生々しい音を立てて復元されていき、左腕も生えてきた。

 背面の骨腕だって命じれば意のままに、再び欠損のない腕が噴き出し展開された。


 この死に体は、がしゃどくろの力を十分に発揮し。

 魔女に決して勝利を与えはしない。


「うえ~。血が黒い泥みたいになってるし、痛みとかも感じてないみたいな? 気持ち悪いし面倒くさいよぉ~」

「……」

「それにぃ、逃げずに睨んだままってことはぁ、割と無限に再生出来たりする感じ~? 頭を撃っても平気みたいだし、だいぶ死ななそうだよねぇ」


 桃色髪の魔女がぶつぶつと呟く。

 返答はしない。必要がない。

 私はただ、――コイツが死ぬまで殺し続けるだけだ!


「っ!」


 再び、背後より骨腕を振り上げ、握り締めた拳を突き出す。

 合わせて地面を蹴り、距離を詰めに駆けだした。


 腕を振り下ろすだけでは届かない。

 接近戦に持ち込めば、私自身の手を伸ばすことも出来る。

 近付く程に一方的に蹂躙されるのも、蜂の巣みたいに穴だらけにされるのも想定済みだ。


 その中で、万に一つの勝ち目を掴み取る為に。

 臆せず破壊の渦の中に飛び込んでいけ!


「わわっ、向かってくるんだ。まあでも確かにぃ、そうする以外に状況は変えられないよね」


 対する彼女は笑顔を崩さないままに。

 ただ両手を左右に広げ、合わせて六つの魔法陣を展開した。

 間もなく、複数の明滅。

 真っ直ぐに飛ばされた色とりどりの閃光は、かざした骨手を易々と貫き、私の身体を削り取る。


 膝を撃ち抜かれ転がって、すぐさま立ち上がれば頭を飛ばされた。

 喉を削られ胸部を抉られ――なんて、いちいち考えるのも面倒くさい。


「――は、ァ!」


 眼球を潰されようが見えている。

 呼吸がないから喉の管が千切られようとも関係ない。

 光が貫こうが、炎に焦がされようが、雷に焼かれようがすぐに元通りだ。

 矢継ぎ早に繰り出される魔法の攻撃は、なに一つとして私には通用しない。


「づ、ヅヅ――!」


 だから距離を詰めて行ける。

 骨手だけでなく、私のこの手が届く距離まで近付いていける。




 近付きさえすれば、私には。

 がしゃどくろの力以外にも攻め手がある。




 それは異能の能力ではなく、けれども命を奪うには十二分に余りある。

 当然妖怪には有効に、かつては片桐裕馬や鬼餓島での戦いでも威力を発揮した。

 身に付けたスーツの力によって収納された、――人間の武具や重火器。


 がしゃどくろの腕が通用しない以上、手放しで有効打とは言い難いけれど。

 たった一撃でもいい、上手く刺し込むことが出来たなら致命傷に成り得る。

 刃物でも銃弾でも爆発でもなんだっていい。手数を増やしてなにかを届かせてやる。


「――ここ、で」


 そして、もうすぐ距離に入ると右の手のひらを広げる。

 私はその右手に、ただ人を殺すだけの道具を取り出そうとして――。




 瞬間。

 目と鼻の先に、桃色の髪がふわりと揺れた。


「――――――――」


 恐らく感覚があったなら、鼻先に毛先が触れているんじゃないかってくらいで。

 私はその事態に、まるで反応することが出来なくて――。




「でも近付いたところでぇ、ネネには勝てないよ♪」




 されるがままに。

 私の身体は、その場から大きく吹き飛ばされた。





読了ありがとうございました。

次話は次週金曜に投稿予定です。


どうぞ、よろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ