第四章【95】「そして、夜明けの向こう側へ」
納得した。
思えばあたしたちは、一度たりとも、『サリュちゃん』を求めたことがなかった。
彼女の力を求める人は多く、彼女の立場を敬う人たちも大勢。
あたし自身も例に違わず、その類の目的で、彼女に取り入ろうとして……。
友達であった時すらも、一緒に居てほしいとか、そういうことを言った覚えはなかった。
むしろそういうのって、サリュちゃんこそよく言葉にしていたから、あたしはいつも聞き流して、頷いていたばかりで。
だって、この子は恵まれた子だから。
大きな力を持っていて、多くの人から愛されて、満面の笑顔を振り撒く。夢とか希望とか幸せとかが詰まった、おめでたい頭のヤツなんだって、……そんな風に思って、扱っていた。
サリーユ・アークスフィアは、沢山持っているから、与えるのが大好きで、押し付けがましい面倒な女の子なんだって。
そんな筈、ないのに。
例え、そうだとしたって。
愛されているから、多くを持っているからって。
これ以上なにも与えなくていいなんて、利用してしまえなんて、奪ってしまえだなんて。
そんな、酷い話はないでしょ。
だから、――そんな、中で。
勢いでも、その場凌ぎがきっかけでも。
「初めて、わたしを求めてくれたの。言葉にしてくれたの」
あの子を必要としたユウマが。
あの子に手を差し伸べたユウマが。
あの子にとって、どれだけの存在か。
「そんなユーマと、……誰よりも、一緒に居たいの」
適わないのも、当たり前だ。
ああ。
納得、してしまった。
その上で。
「ごめんね、リリ……っ」
ようやく、サリュちゃんは。
あたしの手を、放して。
その前に、あたしをぐっと、弱々しい力で押して。
「…………………………………………あ」
乗り上げていたあたしは、そのまま、背中から後ろへ倒れ込む。
サリュちゃんから、ようやく、引き剥がされる。
「…………………………………………あ、あ」
それに、心底ほっとしてしまった。
馬鹿で、思慮も配慮も足りなくて、向こう見過ぎて足元が見えていない、こけてばっかりの本当にダメな子だけど。
これだけ言って傷付けてやっても、きっと、全然大丈夫じゃないんだろうけど。
これからも余計なことに気を取られたり、その所為で変なものに躓いたり、転んで傷だらけになってばかりなんだろうけど。
もう、いいでしょ。
ここから先は、全部、なるようになる。
あたしも、この子も、勝手に。
相応の場所で、相応に生きて、相応に楽しかったり苦しかったりして、――知らない間に、終わっちゃってるんだ。
それでいい。
それが、なによりの――。
――だけどやっぱり、悔しくて。
……それでいて、哀しくもあって。
本当に、嫌な友達を持ったんだって。
笑ってしまった。
こつりと頭をぶつけて、仰向けになって見上げた空は――。
薄ら暗い青に覆われながら、朝焼けの白線が、鮮やかに背を伸ばして――。
「…………………………………………最、悪」
……ああ。
……ほんとに、綺麗で。
雨がよかった。




