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relate -異世界特区日本-  作者: アラキ雄一
第四章・後編「この世界の剣士」
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第四章【69】「とても大事な」

 


 正面衝突。

 暗闇を抜けた先、再び開かれた戦端。


 逃げも隠れもしない。

 今度こそ、決着を。




 互いに全身全霊、相手を押し潰さんと、魔法の力を解き放つ。


「ッツツ、アアアアアアアアア!!!」

「ていっ、あああああああっつ!!!」




 初手。

 あたしが放った十数の魔法攻撃に合わせ、ネネもまた、左右の空間より色とりどりの魔法を撃ち出した。


 瞬きの間もなく衝突した力の奔流は、大小様々な爆発を引き起こす。余波により空間を震わせ、各々火の粉や氷塊、放電や閃光を散らし弾ける。

 やはりどちらも高位の領域へと辿り着いた魔法。単純な力任せは互いに、破られ難く破り難い。先刻の追走戦同様に、これだけでは終わりの遠い耐久勝負に縺れ込む。


 だから別の手を。

 互角を上回る為に、なにかのきっかけを挟み込む必要があり――。




 故に、次手。

 ネネは大きくその足を踏み出し、こちらへと駆け出した。




「っ――!?」


 気付くも、遅れた。

 咄嗟に彼女へ目掛けた黒雷は全て、半透明の盾や同じく雷撃によって弾かれる。動線を阻むよう突き立てた巨大な氷塊も、眩い光線によって焼き払われる。

 あたしの応対は、彼女の足を僅かにも留まらせることが、出来ないままに――。


「――せ~~~いっつつ!!!」


 間の抜けた掛け声は、事の後。




 零距離。

 懐に入られたあたしは、胸部へと、()()()()()()()()()()()()




「ご、――ぼ!?」


 伸ばされた右腕が完全に届かされ、拳が身体を打ち鳴らす。

 けれども視界がブレた瞬間には、すでに彼女の手元へと引き戻され。


 去来した衝撃に唸りを上げれば、痛みと同時に、砕かれるような感触が体内に響かされた。

 不味い、と、すぐさま後退を試みて――。


「あ! だめだよぉ~!」


「ぐ――ンづ!!?」


 一手速く。

 ネネは左手であたしの右腕の手首を掴み取り、ぐっと引き込み、後退を阻んでみせた。

 合わせて急な引力に体制を崩され、その場に踏ん張ることすら出来なかったあたしは、まんまとその身を晒すこととなり。


 だけど今度こそ、ギリギリに。

 あたしはネネの地点へと、宙より七閃の黒雷を撃ち下ろした。


「っ~! 惜しい~っ!」


 こちらの後退が失敗するも、向こうを下がらせ、結果的に距離を開く。

 ネネは無傷のままに引き下がり黒雷を躱し、……しかし変わらず五、六歩程の合間。ひとたび攻勢へ出られれば、ものの一足で詰められる。

 だから続け様に、更なる追撃の式を構築して――。




「――無力化の~っ、陣♪」


「ッが!!?」


 瞬間。

 あたしは外界より染み込んでくる、魔法そのものへ対する干渉への対応を、余儀なくされて。


 無効を無効化する。

 その為にも力尽くで押し出し払うも、――出来てしまう、刹那の隙に。




「ていっ☆」


 あたしは再び、胸部深くに拳を叩き込まれた。




「ご、ゴ――!?」


 ただぐらりと、視界が捻じ曲げられて。

 息を吐き出すことしか許されず、それこそ溜めていた全部を、無理やり嘔吐させられるような感覚で。


 身体さえ浮かされる程の威力を轟かされ。

 あたしはその場から大きく、後ろへと吹き飛ばされた。


「――――」


 痛い、熱い、苦しい。

 ――こんなの、死ぬ。




 それでも、手放しそうになる意識だけは、なんとか繋ぎ止めて。

 あたしは浮かされたこの足が、地面に落ちたその時に。


 土床を踏み締め、踏ん張り、立ち留まった。




「う~ん? 手応えが違う?」


「そりゃ、そうでしょ……づヅ!!!」


 首を傾げる間の抜けた挙動へ。

 目を見開き、お返しとばかりに、再び左右より四つ連なる黒雷を解き放つ。


「ああアアア!!!」




 改めて、状況は不利だ。


 この穴の底、広く開かれた空間とはいえ、制限有りの行き詰まり。遮蔽物もなく、真正面からのぶつかり合いは避けることが出来ない。

 上へ距離を取ったところで、同じ浮遊を扱える相手を前には有効ではなく。どころか地上へ向かう道すがら、例の錯覚の魔法式を破壊する手間が増えてしまう。




 加えて、こちらは著しく力を欠かれている状態。

 レイナ先生に刻まれていた全身の魔法式が、すっかり()()()()()()()()()()()()のだ。


 不浄を祓う狐火とやらの、本来の用途。

 あたしに付与された()()()()()()()()()()。有利とはすなわち、その魔法式による強化された状態に他ならない。あたしの戦力を大きく削ぎ落とす狙いだ。


 もっともそれでも、あの女や妖怪ら、騎士程度を相手取るなら問題はなかった。通常のあたしであっても十分優位に立つことが出来た。重ね重ねに別の仕掛けを用意されていても、最低互角には持ち込めていた筈だ。

 そう簡単に引けを取り、劣るようなあたしではない。




 だけどサリーユや、同じ強化の式を施されたネネが相手となっては、話が違う。

 強大な力を有する魔法使いを相手にしては、圧倒的な不利を背負わされたと、そう言ってしまっても過言ではない。


「……っ」


 最悪だ。

 だけどそれでも、狐火がなければどうしようもなかった。コレは呑み込まなければならない、必然的な代償ってことだ。納得出来なくたって、抱えるしかなくて……。




 問題は、その先にある。


 はっきり、ネネの純然な実力ならば、大幅に強化されていたって勝機は消えない。自力のあたしで十分に互角へ持ち込める。急拵えの増強程度で優位を覆されるなど、有り得はしないし、許さない。


 ……ただ、それでも魔法の匹敵があってしまう以上。

 ネネのもう一つの力が、僅かに状況を傾かせる要素として牙を剥いた。




 魔法格闘。

 体術の技に魔力を加えた、純粋な戦闘能力の強化による突貫だ。




「づ、ぐ」


 今もまた、あたしの黒雷を相殺し、続く黒の閃光も、魔法壁によって弾き逸らして。一歩、もう一歩と踏み出し、近付いてくる。

 すぐさま魔攻を追加し前進を阻むけれど、ジリジリと、その身体の接近を留め切れない。


 近しい関係でなくとも、同じ場所で学んだ弟子の一人。ネネが体術を得意としていたことは分かっていた。

 だから先刻意識が戻ってすぐに、体表に防壁を纏わせて、内側にも防御の幕を作っていた。今の状態では、取り囲む障壁の作成は困難を極める。でも、あれ程の範囲と硬度はなくとも、十分に威力を殺せる計算だった。


 少なくとも、血を流す程のダメージは受けないつもりだったのに。


「ご……ぱッ」


 結果は御覧の有様。

 鉄の味を吐き捨てる。


 想定の遥か上。

 防御は完全に砕かれ、状態も深刻だ。骨が何本か折れているか、いやそもそも、胸部の骨って何本あって、どんな感じだったっけ?

 とにかく熱くて熱くて、呼吸をするだけでも痛くて苦しくて、――なら。


「づ、ツ!!!」


 なら、まだ手遅れではないってことだ。




 治癒の魔法を、だけど注力は出来ない。軽い痛み止めと炎症を抑えるに留める。

 意識も魔力もそっちには回せない。回してなんていられないっ。


 構うな。

 戦え――ッッッツツツ!!!




「まだよ――ッツ!」


「ほんとぉ、理解出来ないわぁ~っ!」


 変わらず魔攻を退けながら、遂には赤い光を纏わせた拳や脚部によって雷撃を打ち弾きながら、再び距離を詰めてきて。

 ネネは、疑問を独り言ちる。


「なんとか凌いだにしたって、相当痛い筈だしぃ。そんなに歯を食い縛って、気絶寸前なんじゃないのぉ?」


「……ッ、さあ、ねッ!」


「ほぉんと、理解不能よねぇ――っつ!」


 あたしの放った六つの閃光を、ネネは右手のひらを広げ突き出し、折り重なる三つの障壁によって弾き退けて。


 そして、語りをこぼした。




 理解不能と、そう称する。

 ネネから見たあたしを、――あたしたち、を。




「今も、ずっと前からも思ってたけどぉ。リリーシャちゃんとサリュちゃんって、二人って異常なのよぉ? 自覚あるぅ?」




「…………」


「飛び抜けた才能を生まれ持ちながらぁ、それでも努力を惜しまない『本物』のサリュちゃん。才能こそ凡庸でありながらぁ、人並外れた上昇志向と直向きな修練で高みへ登り詰めた『頑張り屋』のリリーシャちゃん」


 みんながそれを尊んでいた。素晴らしいと崇め、目標としていた。

 凄いのは否定しない。褒められるべきで、誇れるべきで。その形を目指すという考えも、間違いどころか正道であると思える。




 けれど自分は違ったと、ネネは言う。

 あまつさえ、


「異常者よぉ」


 ネネは、そうとまで言った。




「…………ッハ」


 異常、か。




「才能とか家名とか実力ってぇ、その上に胡坐をかいて振りかざすものじゃないのぉ? それ程のモノなんだからぁ、だらければいいのよぉ。そこに座っていればいいのよぉ」


 その為の力じゃないのか。

 その為の研鑽ではないのか。


 楽や充実という()()()の為に、ではないのか。


「ネネなんてそうじゃなぁい。体現してるわぁ」


 ある程度の才能を持って生まれた。それなりに有力な魔法使いの家に生まれた。その繋がりでレイナ先生に行き着いて、最高峰の学びを得ることも出来た。

 結果、自分の力を高位のレベルで解放することが出来るようになり、戦力としても申し分なく。当然ながら、住む場所にも食べる場所にも困らない。どころか有事に働くことさえすれば、それ以外は悠々自適に、なにをしたって怒られない。




 勉強も戦争も、人から奪うことも、人を殺すことも。

 面倒で億劫で、だけど好き勝手を許してもらえるための、必要な奉仕。


 全ての事柄は、自分自身の為に。




「間違ってるかなぁ? 間違ってないよねぇ? ネネ、すっごく普通のことを言ってると思うんだけどぉ」


 結局は二人を羨む子たちも、力を羨んでいるのではなく、力によって得られるご褒美を。与えられる自由や物品や、立場や賛辞を。

 自分たちでは届くことのない、遥か高みでのみ味わうことの出来る極上の蜜を。


 素晴らしい魔法使いとは、すなわち、素晴らしい生活を約束されているのだと。

 そんな、至極健全な、羨望の眼差しだ。




「なのにぃ、二人は強くなれば強くなる程にぃ、成果を上げれば上げる程にぃ、苦しそうでぇ。――ネネなんて、今すっごいよぉ」


 当たり前にしていただけで、努力なんて欠片もしないままで、気付けば主席たちが退き、自分がトップになっていた。

 そしてトップになりさえすれば、本当になにもする必要がない。だって英知の結晶たちは、勝手に自分の下へと集まってくるのだから。


 強者たれ、最強となれ、と。

 ちょっと痛いのを我慢しただけで、全身に魔法式を刻んで貰えて。この島で戦うことを条件に、更なる力と地位が約束されて。




 もう、最低限をこなすだけでいい。

 それだけで祭り上げられて、()()()()()()()()()


「先生様様よねぇ。ほんと、ありがとぉ」


 あたしの追撃を退けながら、独白するネネは。




 心底満面の、満ち足りたような笑顔をしていた。




「……反吐が出る」


 ああ。

 聞かされてみたけれど、やっぱり、なにも聞く必要なんてなかった。


「クソね。やっぱりあたし、ネネとは反りが合わないわ」


「そうねぇ。リリーシャちゃんとネネってぇ、真逆だものぉ。リリーシャちゃんはぁ、人から貰った物だけで幸せになるの、耐えられなさそうだよねぇ」


「まったくね。与えられただけの幸せは、それが失くなれば瓦解する。一生それに縋らなければならなくなる。……分かってる? それってレイナ先生に飼われた、籠の鳥よ?」


 芸を教えられて、命じられたままに舞わされて。




 だけど、ネネはそれを。


「素敵に管理された籠で餌が貰えるんだからぁ、文句はないわぁ。むしろ贅沢じゃなぁい」


 笑顔のままに、そう言うのだった。




「……呆れる。ネネの言う通り、ほんと真逆ね」


「でもぉ、それを言うならぁ、サリュちゃんの方がぁ」


 あの子との方が、まったく合わない。

 真逆どころか、別。噛み合うところがなさすぎる。


 ネネはそう続けた。


「サリュちゃんはぁ、ほんと不思議。理解出来ない以上に、時々ぃ、なに言ってるかも分からなくなるんだよねぇ」


「……へぇ」


「幸せになりたい、平穏に暮らしたいって言ってるくせにぃ、どんどん強くなってさぁ。ただでさえ凄かったのにぃ、もっと凄く、大変なところにまで上り詰めちゃってさぁ。――強くなればなるほど、()()()()()()()()()()()()()()()()()のにねぇ」


「分かってるじゃん。だけど間違えてる。あの子は不思議なんじゃなくて、馬鹿なんだよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の。ネネとは別の方向で、頭お花畑よ」


「わぁ。それって、すっごく生き辛そう」


「ほんとにね」


 それに関しては同感だ。


 自分勝手に深みに落ちて、潜っていきながら息が苦しいって泣き叫んで。

 それで全部を投げ捨てて、他所の世界へ逃げたと思ったら、……結局この世界でも、同じようなことやってて。


 ほんと、馬鹿も馬鹿。

 考えなしで、お気楽能天気で、大嫌いで。






 ……だけど。


 あの子に関しても、他でもない、あたし自身のことも。

 やっぱりネネは、なにも分かっていない。






「――――あ」


 だから、今更に理解する。

 そうなんだ、そういうことなんだ、って。




 そう言ってしまえば、分かりやすいんだ、って。




「――ネネ。さっきの質問に、答えてあげる」


「へぇ?」


「分かるように教えてあげる」


 噛み合わない話を聞かされて、腹立たしいだけの価値観を知らされて。

 それでようやく、はっきりと形になった。


 あたしは容赦も手心もないままに、いっそ聞かないままに死んでくれって、無数の氷塊と炎弾を撃ち放ち。

 加えて右手を掲げて次の黒雷を用意しながら、言ってやった。






「あたしがサリーユと一緒に居たのは、ネネたちと居るより、――ずっとマシだったからだよ」






 散々人を馬鹿にしておきながら、結局は、あたしも馬鹿だって話。

 そう、ネネの言う通りだ。あたしはなんだかんだ言いながらも、あの子との時間を自ら選んでいたんだ。


 なにも知らないくせにと、アレだけ怒鳴っておきながら。

 なにも知らせないで、隠したままで、ずっと近くに。




 あの子と居ることを、望んでいた。




「ッハ!」


 腹が立つくらいに馬鹿で、間抜けなくらいに真っ直ぐで、観てられないくらいに明るくて。おまじないだとか、運命の出会いだとか、ほとほと馬鹿で、頭がおかしいんじゃないかって思うくらい。

 付き合うのは御免だったし、そんな子だって知ってたら、最初に声をかけたりしなかった。


 だけど、分かる?

 ……分かんないよね。


「マシもマシ。あなたが異常だと思うあたしらこそが、正常に近いって話よ!」


 目先の取り分に目を眩ませた、ネネなんかよりも。

 名誉や立場なんてものだけを羨んで、苦悩なんてこれっぽっちも見やしなかった連中なんかよりも。




 あたしらの方が、ずっとずっと、マシだ!




「あたしの苦しさに気付きながら、あの子の矛盾を見ておきながらッ! それでも、そんな感想しか抱けないってんなら、やっぱりネネはお終いよ!」


 戦いの後、傷付くあの子が。

 街を潰した、子どもを焼いた、なにも残さず、全部全部、なくしてしまった。


 そう後悔を零すあの子が、本当に辛気臭くて、付き合ってるだけで気落ちして、嫌な気分になって。




 だけど、それが大事だって思ったから。

 この居心地に悪さは、切って離しちゃいけないものなんだって、そう思ったから。


 他の誰でもない、あの子だけが、それを持っていたから。




 彼女の夢見がちな馬鹿なところも、正しくありたいって涙も。

 上辺だけの友情を疑うこともしなかった純真さも、安っぽい信頼も、――それを大切に抱え続けるところも、全部。


 持ってなきゃいけない。

 絶対に手放しちゃいけない、欠けてはいけないものなんだ。




「――だから、ッツツツ!!!」


 そんなあの子が、嫌いで嫌いで、大嫌いで。




 だけど、とても大事な存在だったんだ。




 結局は利己的で、ネネたちと同じ、自分の為にって形だけれど。

 それでも、嘘でも、嫌いでも、勝手でも。


 一方的ではなかった筈だ。

 虚実であっても、力の差や劣等感はあっても、対等ではあった筈だ。






 だからあたしは、あの子が居なくなった時に。

 絶対に殺してやるって、感情的になれたんだ――ッ!!!






「アアアアアアアアアアアアアアアッッッツツツ!!!」


 炎を、氷撃を突破され。

 掲げた右手を振り下ろし、宙より黒雷を前面一帯へ注ぎ落す。


 総数三十に相当する破壊の雷撃は、けれども。

 全身に魔法式を纏わせた彼女を、圧し伏せるには敵わない。


 展開された、覆い包み込む円形の魔法の障壁によって、全ての黒雷が無力化された。

 最後の弾幕すらをも、無傷のままに突破された。




 さあ、目前。

 ネネとの距離が、間もなく零に縮まる。


 彼女の引き寄せられた右腕が、固く閉じられた拳が、あたしを標的に定めている。




「――っ」


 防ぎ切れるかどうか。

 その先に、堪えられるかどうか。


 恐らくなんとか命を繋いだとて、意識を保ち続けることは――。


「なんとか生きてね♡」


「……ッハ」


 だったら加減を期待したいところだが。




 なんとか、頼むから。

 この瞬間さえ、乗り切ることが出来たなら。




「――――――――」


 あたしは、そう祈り。

 突き出される彼女の拳を、受け入れざるを得ないと、構え。




 間もなく、空を切る打突が。

 再び胸部へと、叩き込まれる。






 ――その、寸前だった。








 視界が、()()()()()()()






「――――あ」


 またしても、炎が。

 ……いいや、違う。




 真っ赤に色濃い、――()()




 接触寸前のネネの右腕へと、上部より注ぎ落された。




「――ッ!?」


 間もなく、カッと視界が瞬きに包まれ。

 巻き起こされた爆発によって、この身が大きく後方へと吹き飛ばされる。




 目前の爆発、その衝撃に踏みとどまることは出来ず。足を掬われて受け身も取れないままに、ゴロゴロと転がされて。何度も身体を打ち付けて、また血反吐を吐かされて。

 だけど、元より拳を受け入れる態勢で構えていたから、その衝撃のほとんどは緩和されて、……いいや、それ以上に。


 あたしには、見えていた。

 あたし自身の防御に、加えて。


 爆発の直前、あたしと爆発を挟んで。

 咄嗟に、半透明の障壁が開かれていたのを。




 第三者による干渉。

 一体なにが、誰が、――なんて、そんなの考えるまでもない。




「……ぐ、づづ」


 また情けなく、四つ這いになりながらも、頭を上げる。

 薄ら黒く縁取りされた視界には、徐々に晴れていく煙の向こうで。


「――――――――嘘よ」


 同じく爆発によって後退して、黒く焼かれた右腕を庇い抱きしめるネネが、顎を上げて叫びを轟かせた。


「嘘、嘘嘘嘘!? 嘘よ、なんで!? なんでぇぇぇぇぇっっっつつつツツツ!!?」


「……ッハ、はは」


 あたしもてんで気付いてなかったけれど、まったく納得だ。

 心底、馬鹿にされている。




 なるほど確かに、あの子が直接来られるってんなら。

 あたしが内側でなにかをしてやる必要なんて、ある筈がなかった。




「…………」


 いや、そう悲観し過ぎることもないか。

 あたしが居なかったら、きっと、なにもかもが手遅れになっていたから。




 あたしが居たから、間に合ったワケだ。




「感謝しなさいよね」


 そして、仰ぎ見る――までもなく。




 彼女は、あたしとネネの丁度合間へと。

 あたしに背を向けて、その黒衣と長い髪をはためかせて。




 一人の少女が、最高峰の魔法使いが。


 この場所へと爪先を下ろした。




「――久し振りね、リリ」




 振り向く彼女の、――サリーユの表情は、やっぱりいつもと変わらない。

 小さく笑うも眉を寄せて、不安や不満をいっぱいいっぱいに溜め込んで、子どもみたいで。




 だけれど、その瞳は真っ直ぐに、強い熱さを宿していた。




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