第四章【34】「暗躍者の声」
ザザザと、ノイズが響き渡り。
薄暗闇の中、一つの影が蠢き、二つの声が重なり話す。
彼女らの声色は、どちらも楽しげで上擦っていた。
「もしもぉし、こちらネネでぇす。通信届いてますかぁ?」
『――はい、こちら■■。……多少擦れはしますが、大きな問題は■く』
「んにゅ~。確かにちょ~っと聞き取り辛さはありますけどぉ、特に取り立てて大事な報告もないのでぇ、このままいきますねぇ」
『――ええ。では報告を』
「予定通りぃ、鬼餓島は大荒れですぅ。今は一旦落ち着いちゃったんですけどぉ、問題はなにも解決していませんのでぇ、また時間の問題かとぉ。結界式も発動したのでぇ、誰も逃げることは出来ないですしぃ」
『――そうですか。順調そうでなに■りです』
「ん~、ただぁ、結界式を発動させる直前にぃ、どこぞのお国の皇子様が来ちゃったみたいでぇ。今休戦状態なのもぉ、その皇子様の計らいなんですよねぇ」
『――なるほど。……ネネ、それを予定外というのですよ』
「ありゃ、ごめんなさぁい。ただ詳しいことはネネにもよく分からなくてぇ。そのぉ、第一皇子って名乗ってたような気もしますけどぉ」
『――第一皇子、ですか。それはそれは、どうやら事は上手く行かないようで』
「どうしますかぁ? 殺しますぅ~?」
声は変わらない甘ったるい口調で、当たり前のようにそう提案し。
けれどもそれは、またしてもやんわりとした優しい声で制された。
『――放っておきな■い。……いいえ、やはり――決して手を出してはなりません、と、厳重に命令させていただ■ましょうか。その皇子には傷一つ、許しません』
「はぁい。分かりましたぁ」
『――ふふっ。やはりネネはいい子ですね』
「そうですかぁ? 正直なところぉ、考えるのが苦手なだけですよぉ」
『――それは、確かにそうかもしれませんね。……他にはありますか?』
「一応、準備の方をお願いしたくてぇ。その皇子の計らいで、話し合い? みたいなのが催されるみたいなのでぇ。ちょ~っと動いて貰わないといけないかなぁ~って」
『――ああ、そういうことでしたら。問題なく動かしましょう。――この局面です、貴女も私も、姿を現しても構わないでしょう』
「えぇ~。ネネも表舞台に立つんですかぁ」
『――どの道、時間の問題でしょう?』
「……あー、まぁそうなんですけどねぇ。来たのがサリュちゃんじゃなくてリリーシャちゃんっていうのも、余計にほじくり出されそうっていうかぁ。面倒くさいなぁ~」
『――あらあら、来たのはサリュではなくリリーシャなの? ネネ、それこそ大切な報告ではないですか?』
「あれぇ? でもぉ、リリーシャちゃんが来る可能性も十分にあるって言ってましたよねぇ? これは別に、予想外じゃないのではぁ?」
『――ふぅ、やれやれ。これは確かに私の落ち度ですね。……確かにそうは言っていましたが、どちらが来たかは、報告が欲しかったものです』
どちらにしろ、今知れたので構いませんが。
息を吐きながらも、彼女は柔らかな声で続ける。
『――第一皇子に、このタイミングで来たのがリリーシャ。そうなると、大凡なんらかの暗躍があるということは見透かされているのでしょう。で、あれば、これ以上は隠し立てる必要もない』
「ということはぁ、このタイミングで行きますぅ?」
『――そうですね。予定より少し早くはありますが、準備は整っています。なんならそちらの島にて、宣戦布告といきましょうか』
そうして彼女らは、会話を終え。
「ん~」
この島から声を送っていた彼女は。
両手を左右に広げ――それぞれの手のひらから、淡い光の魔法陣を発現させ。
「リリーシャちゃんかぁ。相性悪いなぁ、もうっ」
そう呟きながらも、口元を緩めていた。