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relate -異世界特区日本-  作者: アラキ雄一
第一章「異世界の魔法使い」
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第一章【13】「話さなければいけないこと」



 二日連続。

 しかも同じ相手に土下座をしてしまった。

 本来ここぞという時に用いられる、ある種の必殺技のような物だが。

 まさかこうも連発することになるとは。


 顔を上げる。

 対するサリュはその場に座り、毛先をくるくる右手で弄っていた。

 大変可愛らしい仕草だが、彼女は頬を赤らめたまま未だにこちらを睨んでいる。


「……巨乳好きだって聞いてたけど、本当みたいね」

「否定はしないが不可抗力だ。まさか隣で寝ていたとは」


 用心の為、付き添ってくれていたところまでは覚えている。だが恐らく、俺が先に寝落ちしてしまったんだろう。

 彼女の所在をまったく把握していなかった。本当に申し訳ない。


 ……てかオイ誰だ、巨乳好きって漏らしたの。

 姉貴だな、姉貴だろ。


「まあもしもの時すぐ守れるようにって、近くで寝ちゃったわたしも悪いわね」

「それはありがたい気遣いだ。完全に俺が悪い。もうちょっと周りを見ろって、そういう話だ」

「……別にそれでも許してあげるわよ」


 唇をつんと尖らせて、渋々といった様子ではあるが、サリュはそう言った。

 マジかよ。また殺されると覚悟してたんだが。

 予想していた怒りとは反面、「むしろ大丈夫なの?」と首を傾げられる。


「大丈、夫?」

「気付いてない? 凄く顔色が悪いし、寝ている間も苦しそうに何度も寝返りを打っていたわ。よく眠れなかったんじゃないの?」

「あー、……まあ、そうだな」


 雑魚寝なんて久し振りだったから、その所為だろう。

 なにより大変な一日だった。色々と考え込んでしまって、深くは眠れなかった。

 ……と、いうことにしておいた。


「そうだったのね。言ってくれればよかったのに。魔法で落ち着かせてあげられたわ」

「次に寝苦しい時は頼むよ。本当に悪かった」

「もう、だから許してあげるって言ってるでしょう」


 それに、と。

 サリュは腕を組み、堂々とした態度で続けた。


「別にね、求められること事態は悪く思わないのよ。わたしに魅力を感じて貰えるのは良い気分だわ。だけどこういうのって順番があると思うの。わたしたちまだ知り合って一晩しか経っていないわけだし、そもそも一夜目にして床を共にすることが段階を飛ばしすぎてると思うし。ともかくまずはお互いを分かり合ってからこそでしょう? そりゃあそっちは結婚するつもりなんだから気持ちが逸るのも仕方が無いとして、まあわたしもちょーっと早めに許してあげてもいいかなーとか、そっちの相性も重要だっていうから早いうちに確かめておくのも大切よねと思わなくもないから、やぶさかでもないのだけれど。とりあえずは保留ってことでもう少し時間をかけて――」

「お、おう?」


 やべぇ。早口で捲し立てられて全然分からねぇ。

 とりあえずは許してもらえたってことで、いいんだよな?

 ひとまず、息を吐く。


 が、直後。

 彼女の口から驚くべき事実が語られた。




「――というわけで、わたしもユーマより()()()()()()()なわけだから、そこは寛大に、むしろこっちから食べちゃうくらいの考えなのよ。って、聞いてる?」




「……は?」

「やっぱり聞いてないじゃない!」

「いや、すまん。えっと、今なんて言った?」

「だからね、わたしはあなたに求められることに関しては」

「そうじゃなくて、今、ついさっきだ」


 今、え?


「年上の、お姉さんって言ったか?」

「そうよ、昨日オトメに聞いたんだから」


 サリュは嬉しそうに頬を緩め、宣言した。




「わたしサリーユ・アークスフィアは、この世界では()()()よ」




「冗談だろ」

「ほんとよ。ね、十七歳のユーマくん」


 マジなのか?

 しかも二つも上って、おいおい嘘だろ?


 その驚愕の事実に、しばらく放心状態で動くことが出来なくなった。




 ◇     ◇     ◇




 掃除を始めたとはいえ、未だに部屋は本にまみれている。

 俺とサリュが寝れるスペースは作れたが、まだ半分以上の床が見えていない。


 一応水回りまで着きさえすれば、姉貴も女性ということで片付いてはいる。お陰で朝の支度が出来た。

 言っても、サリュが魔法で衣服や肌は洗ってくれたから、歯を磨いて髪を触る程度だが。勝手に新品の歯ブラシを開封し、簡単に済ませる。


 そうして部屋へと帰れば、サリュはすでに作業を始めていた。

 昨日と同様に天井付近へ反重力空間を作り出し、宙と床で書籍を分別していく。

 戻って来た俺に、サリュはにこりと笑う。


「うんうん。素敵にキマってるわ、ユーマ」

「なんだよいきなり」

「本心を言ったまでよ。赤い髪も、最初は不良だーなんて言っちゃったけど、見れば見るほど派手でかっこいいわ」

「そりゃあ、なんだ。気に入ってもらえたようで」


 目を逸らしてしまう。

 今までこの髪を馬鹿にされたり距離を取られたことはあったが、……褒めて貰えたのは、多分初めてだ。大変歯がゆい。

 しかもサリュからそんな風に言われるとは。恥ずかしそうに目を逸らしていた最初とは大違いだ。

 思い返せば、昨夜の段階で結構押せ押せだったような気もする。

 恐らく要因は。


「照れてる?」

「照れてねぇよ」

「ユーマったら、可愛いんだから」

「……っ、くそ」


 間違いなく、自分が年上だと分かったからだろう。

 余裕な様子で、コロコロと表情を変えて楽しげだ。


 多分、俺が隠れ家で書類作業をしている間、姉貴と行動していた時だろう。さっきの巨乳好き発言といい、姉貴から色々と聞いたに違いない。一体なにを教えられたのか。

 詳しく問いただしたいところだが、――それは向こうも同じか。

 聞きたいことが、沢山ある筈だ。


「そういえば、ねえユーマ。聞いてもいいかしら?」


 気遣いなのか、彼女は表情を緩めたままだった。


「……ああ」


 質問の想像はついている。

 昨夜、俺たちは一緒に戦った。俺は彼女の前で、戦う姿を見せてしまった。

 ――片桐の血に混ざった、鬼としての側面を。


 隠していたわけじゃない。近い内に話すことは決めていた。

 元よりこの図書館で働いている以上、ただの人間じゃないってことは察されていた筈だ。

 今更だが、なんなら最初の自己紹介の時点で言ってもよかったとすら思える。


 だってのに、どうして避けてしまったのか。

 結局自分の口から言い出せず、直接目にされる羽目になったか。


 決まっている。

 あんな俺は知られたくなかった。それだけだ。

 ――そんなこと、出来る筈ないのに。


「聞いてくれ。全部、答えるから」


 こうなっても、まだ自分から言い出せない。

 うじうじと今の関係に尾を引かれ、サリュに決断を委ねてしまう。

 そんな弱い俺に、サリュは尋ねてくれる。

 この先一緒に居るならば、決して避けられないその質問を。


 サリュはあくまで、落ち着いた様子で問うた。


「……ユーマは」

「ああ」




「――将来住むなら、一戸建てがいいかしら、集合住宅かしら?」




「そうだな、出来れば一戸建てがいいな」

「二階建てで庭付きで、小さなブランコもあったり」

「近くに公園があると嬉しいな。幼稚園や学校も遠くなければ助かる」

「駅も近い方がいいかしら」

「それだと電車の音がうるさいだろうから、バス停の方が――……」


 いや待て、違うだろ。

 違うだろ!


「そうじゃない!」

「えっ? やっぱりマンションとかの方が経済的かしら?」

「そういう話じゃないだろ!」


 なに言ってんだこの子は!

 俺もなにサラッと受け答えしてるんだ馬鹿野郎!


「だってほら、さっきその、夜のお話をしたのに乗り気じゃなかったから、ユーマは後のこともしっかり考えてからの方がいいのかなって」

「なんの話!?」

「将来計画っていうか、家族計画っていうか、えへへ」


 頬を赤くし、両手で抑える。

 なにやら照れているようで、めちゃくちゃ可愛らしい。

 こちらは話の流れがまったく分からない。


 どうしてそうなった!


「あーなんだ、それも大事な話だが、今はもっと目先で重要な議題があるんじゃないか」

「だめよ。先のことを考えるから今が見えてくるのよ。お姉さんである以上、そういうところはしっかりさせてもらうわ」

「確かにその通りかもしれないが、それ以上にだな」

「ああ、そういえばユーマは鬼なのよね。妖怪独特の結婚観とか、転移者との関係を結ぶとかってどうなのかしら?」

「そう、それ! それだよ! そういう話をまずしよう!」


 そんなこんなで紆余曲折あり。

 とりあえずは本題に入ることが出来た。



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