第三章【31】「落着の先へ」
たかが兵器、などと。
他でもないボクがそう評した、圧倒的な火力。総数三十の業火の矢束が、一斉に空へと紅い線を刻んだ。
その一矢、生身で触れれば瞬間、身体の九割が蒸発してしまうだろう。ビルや地面へ穿たれれば爆発が巻き起こされ、周囲を火の手で包み込む。
けれどこの眼には、その魔法の本質が視える。ソレは破壊を散らす為のモノではない。
その火矢は、威力を凝縮された刺突の為の刃物だ。
「って、そんな単純なモノでもないか」
尖端に集中した焔の矢じりが、その鋭さを以って障害を突き破り。後に定めた対象へと穿たれれば、爆炎を巻き上げ破壊を起こす。射抜かれた痛みなど感じる間もなく、貫かれた周辺部位を消し炭と飛ばされるだろう。
果たしてヴァンさんの聖剣だったら、正面から打ち合い逸らすことが出来るかどうか。ボクの剣ではとても、例えギリギリの所で側面から矢を斬り折っても、直後の爆発に巻き込まれて深手を負わされる。
視えるからこそ、悔しいけれど理解してしまう。アレは避けることこそが得策で、同時に、常人を軽く逸脱した程度では、躱すことすら困難だって。
そしてその破壊の飛礫を、奴は正面から迎え撃った。
『――! ――――!』
大口を開けてなにかを吠えている。声は聞こえない。連中を片付けるのに、少し距離が開きすぎた。
だけど視えれば、口の動きで十分に言葉を拾うことが出来る。――おぞましくも、奴の口はボクらと同じ造りをしているから。
「……ああ」
奴の叫びは、なんてことはない。
ただの自答だった。
『何故! この街さえ落とせば、我々は、更に上位の生物として!』
『ただ在るだけの、風化していくだけなど! ああ、何故!』
『何故、――こんな感情などというものを!!!』
そんな、どうしようもない独白。
本当に、人間の様に、そうでなくとも生き物の様に造り替えられている。
奴の身体を構成する土石は、欠片一つに至るまで、なんの生命も持っていないというのに。
「おぞましいね」
動く構造や言葉を発する部位だけでなく、その思考や擬似的な感情までもが、魔法式によって造り出されている。あの個体の存在そのものを、魔法によってまったく別のモノへと組み替えている。
いや、そもそもにおいて。
奴は個体として存在していた訳でも、集合体として結ばれていた訳でもないのに。
「冗談じゃないよ」
あれはただ、石を積み上げただけだ。取り立てて言うならば、魔力や血液といった生命エネルギーを吸収出来る機能があるのみ。少し特殊な、異世界でもその辺に転がっているような、もしくはその特質を利用して生活や武具の一部になっているような、そんな便利な種類の石ころ。
その程度の物を、一介の兵器に仕立て上げた。ただ無造作に街を焼く軍団だけでなく、こうして半端な意思疎通が出来る個体までもを造り上げた。
その力を、たかが兵器だなんて。我ながらあまりに軽率な。
これはもっとボクが思うより、視えているより遥かに危険な脅威だ。
そしてこの戦端も、幕を下ろす。
『オオオオオオオオオォォォアアアアアアアアア!!!』
人型が、その全身から無数の光線を撃ち放つ。
迫り来る火矢への最大の抵抗。一見すればその青白い一閃こそ、少女を呑み込む程の大きさで弾幕を広げる。けれど、研ぎ澄まされた細矢は一瞬たりとも止まることなく、正面から光体を霧散させ撃ち抜いていく。
負けじと奴も、同じく光の矢を造り出し撃ち出してみせたが、急造の猿真似なんて欠片も通用しない。結局、直進する焔の線は遮る全てを貫き、土石の身体へと叩き付けられた。
一矢で左の肩が吹き飛び、二矢にて腹部を、そのまま突き抜けた焔が白布をも破散させて、――三の矢、四つの矢。標的は深く開かれた傷痕を更に輝かせるが、今更盾や硬化を試みたところで、切り抜けられる筈もなく。
絶え間ない刺突が、続く爆炎が、塵へと還していく。
『オオオオオオ■■□■■■――■■■■□□□――……』
造られた身体も、発せられた輝きも。全てが焔の渦に呑み込まれて、もう開口も視えなくなってしまって。
彼女がその光景に右手をかざしたまま、決して視線を逸らさない姿を、この目に映して。
「――うん」
頷き、ボクも余所見は終わらせ、
残り少ない敵対勢力の処理へと注力した。
◆ ◆ ◆
絶叫を上げて、消え逝く間際。
彼の身体は燃え盛る焔に四肢を溶かされ、胸部も黒炭と化し、頭部もボロボロとこぼれて失われていく。核となる魔法式も大半が崩壊し、もはや効果を成してはいないだろう。
その魔法の、その存在の残滓、全てを以って。
彼は叫びの後、最期に言葉を残した。
――贅沢だ、と。
『この悲憤、無念、ただの石ころ風情には、誠に――』
そうして彼は、欠片すら残すことなく抹消された。
組み立てられた身体も、与えられた思考感情も、その先に得たモノ全てまでもを、余すことなく焼失した。
わたしの手で、燃やし尽くした。
「…………」
手を取り合うことは出来なかった。
会話をすることは出来ても、分かり合うことは出来なかった。
彼らの世界はまったく別の常識であるどころか、そもそもにおいて同じ生物ですらなかったのだから。本来であれば思考能力すら持たなかった彼らに、わたしたちの意図や感情を正しく伝えることなんて、とてつもない困難で――不可能だった。
きっと、彼らに機能を与えた誰かも、なに一つ分かり合えてなどいなかっただろう。
傲慢にも、理解し合う必要なんて、なかっただろうから。
「……そうよね」
最悪の可能性が頭を過ぎる。
同時に思い起こされる、在りし日の光景。
わたしがこの世界へと訪れるきっかけとなった、あの隔絶。
所属していた国の、その中心部たる王室で。
わたしの師である魔法使いが、――レイナが王を討ち、全てを掌握した。
この国は私のものになったと、そんな馬鹿げたことを笑顔で宣言した。
「レイナだ」
確証はまだない。けれど確信がある。
生物でない存在に擬似的な生命を与え、思考や感情をも造り出し、それら全てをたった一つの魔法式によって発現させる。わたしの知る限り、わたしたちの魔法式でそれ程の事象を起こせるのは、レイナだけだ。
わたしたちに魔法を教えてくれた、わたしたちより高位の知識や経験を持った彼女でしか。
それに、彼が口にしていた。
「……力量を把握して立場を弁えることは、交渉の為に大切だ」
一度たりとも言葉にされたことはない。
けれどわたしたちがあの国で行ってきた戦争は、魔法による他国への侵攻や制圧は、そういう類のものだった筈だ。
ああ、なんてこと。
わたしたちはその力を見せつける為の暴力装置で、レイナが王様に取り入る、その為の信頼と成果を挙げていたなんて。
「いいえ、今はそれより」
この件の後ろにレイナが居るなら、間違いなく。
レイナは異世界転移を行っている。その上で更に、別世界で彼らのような個体を魔法で造り出し、この日本国へと転移させた。
だとしたら、まだだ。
まだなに一つとして、脅威は過ぎ去っていない。
今こうしている間にも、続く第二陣の戦力が投入される可能性だって――。
と、不意に、
「大丈夫だよ、サリュ」
声に振り返れば、いつの間にかヒカリが後ろに立って居た。
多少鎧や衣服に傷痕や汚れが付いてはいるけれど、一切の怪我はなく、息を荒げることもなく。腰に携えた鞘へと、白剣を収めて。
「大丈夫。少なくとも、今すぐに次が攻めて来ることはない」
ゆっくりと瞳の輝きを収束させながら、そう断言した。
「……ヒカリ」
それなら大丈夫、なんだろうか? 少なくとも剣を収めた以上、既に現状の事態も無事に解決したってことなんだろうけど。
そんなわたしに、ヒカリは加えた。
「そうだね、きっと脅威はまだ残ってる。奴らの黒幕は、今もこの世界を狙っているかもしれない。だけどね、ボクらが今やるべきことは、なにも変わらないよ」
事態の収束。
そしてその後の、救助や復興。
「ま、冷たいながら。ボクはそういう後始末はご免だし、そもそも向いてない。とっとと引き上げて別の国へ、おさらばさせて貰うよ」
「……それは、気にしなくてもいいんじゃないかしら。十分戦ってくれていたんだから」
「そうそう、役目は果たした、ってね。そんな訳だから、サリュも気を張り続けちゃ駄目だよ」
――それでも、一時たりとも気が休まらないっていうなら。
ヒカリはニッと歯を見せて、
「攻められるのが怖くて仕方ないなら、こっちから攻めるしかないよね」
そう、あっけらかんと言ってみせるのだった。
「……はは、そうね。でも、それも難しいと思うわ」
「まーね。相手が何処に居るのか、どういう目的なのか、どういう組織なのか。その辺りを把握しないと、雑に攻めるって言ったって無理無理」
だから尚更、考え過ぎたって仕方がないんだよ。
ヒカリはそう言って、ゆっくりと空を歩き出した。階段の様に下へ続く足場を造り出し、地上に下っていく。
「とりあえず、最終確認だけ終わったら、ご飯を食べて他所に行くよ。後片付けも敵の調査も、ボクの仕事ではありませーんってさ。サリュもご飯は食べた方がいいんじゃない?」
「……そう、ね」
指摘されてようやく、当たり前のことに気付く。
いつからか、もう随分空腹だった。
生憎わたしは、ヒカリのように割り切れないから、きっと救助や復興も手伝ってしまうだろう。
なら尚更、急いで取り掛からないと。
「そうよね。空腹で倒れてしまったら、それこそわたしも、助けられてしまう立場になってしまうわ」
そう冗談を口にして、なんとか、ぐっと呑み込んで。
わたしもヒカリと並んで、街へと降りていった。
そうして街へ降りた先。
未だに煙が燻ぶる、瓦礫の転がる東地区の中。
わたしを迎えたのは、予想外の人物だった。
『よォ。随分苦戦したみたいだなァ、嬢ちャん』
「グァーラ」
気さくに右手を軽く挙げて、ガチガチと歯を鳴らす。
そういえば彼も、純粋な生物とは言い難いのだったか。機械仕掛けの色深い身体は、鉄や配線の集合体で出来ていた。
生身の右目と、周囲を金属に覆われた赤い左目が、真っ直ぐにわたしを見つめる。
その左手に、力のない土色の手足や歪な頭部を、幾つもぶら下げながら。
『あァ? なんでェ、コイツが気になるッてかァ? 嫌そうな顔しやがッてェ』
「気分はよくないわね」
『ハッ、敵を相手にわざわざご苦労だなァ。儂もその気持ちを倣ッて、回収する前に両手を合わせてやッた方がよかッたかァ?』
そう言って意地の悪い笑みを浮かべる。さっきまでの会議の時といい、やっぱりこの人とは反りが合わないのかもしれない。
思い、ふと向こうの空を見れば、ヒカリが離れたところへ降りて行ったのが見えた。そっちでなにかがあったのか、それとも親しそうにしていたヴァンが来ていたのか。
どちらにしろ、わたしも彼女の方へ行きたいところだけれど。
『オイオイ、ジジイの小粋なジョークじャねェか。怒ッて無視すんじァあねェよ』
残念ながら、更に絡まれてしまった。
「別に怒ってないわよ。ただ、そうやって焚き付けて不和でも起こして問題にしようとか、そんな風に考えてるんじゃないかって警戒しただけ」
『んだよ、分かッてんじャねェか! だッたら早くそう言えッての!』
図星、の筈。
だけどグァーラはそれが余計に面白かったみたいで、大口を開いて大いに笑った。ガラガラガラと、喉の奥から何かが回転しているような異音が響き渡る。
本当によく分からないし、奇妙だ。興味もあるけれど、それ以上の違和感に肌寒さを覚えてしまう。苦手だ。
おまけにやっぱり、まだわたしのことを殺そうとか、そうまでいかなくとも問題視させたいみたいだし。
『ガラハハ、マー、半分冗談だァ。嬢ちャんを始末したいッて気持ちは勿論あるがァ、今はソレより深刻な事態だからなァ。だからこそ、コイツは年寄りの余計な忠告かもしれねェがァ』
そう前置きをして、彼は、
『判ッてるだろうがァ、コイツらには生体反応はねェんだぜ?』
「……そうね」
『到底生き物とは呼べねェ。よく分からねェ異世界の技術によッて動かされていただけの、生物の真似事をしていただけの、石ころだァ。それでもテメェは、コイツを殺したッて考えるのかァ? 雑に扱うなッて嫌悪を顕わにする程なのかァ?』
「……それってあなたが言っても大丈夫なの?」
『あァ?』
「あなたも生き物とは違うの?」
『ギギシ、オウオウオウ。そりャあ言わねェのがマナーッてもんだぜェ』
見る限り、不機嫌な様子は一切なく。
グァーラは口元を緩めたままに続けた。
『儂は儂だからなァ。コイツらとはまた違ッた定義をして欲しい』
「違った、定義」
『深く考えるな、要するに一緒にすんなッて話だァ。ま、言ッてもんなモン、テメェらには同じかもしれねェ、極めて個人的なこだわりなんだろうけどなァ』
それから彼は、左手に持っていた部位をゆっくりと足下に置いて、
『よ、ッと』
どこからともなく、宙から大槌を取り出し、その左手で握った。
ガツンと杖を突くように柄で地面を叩き、しっかりとその場で足を踏み締める。
『あー、状況整理だァ。現状、異世界から現れた敵対勢力は、全員制圧が完了された。後処理として転移された空間やらァ、連中のパーツやらァを調べてはいるがァ、有益な情報はまだ得られてねェ』
「そう」
『あァ。一応はコイツらの核が嬢ちャんの魔法に近しいモノだッてことは判明した訳だがァ、ま、戦いやら今の反応を見るに、裏で手を引いてるッて線は無ェか』
「残念ながらね」
『分かッてんじャねェか。テメェが黒幕だッたら、これ程早い話はなかッたんだぜェ』
「でしょうね」
生憎、そんな筈もなく。
けれど、
『だが、連中に関して分かることはある、だろォ?』
「……ええ」
『近しい力を持つ故に、かァ。それとも本当にまッたく同じ力で、出所も検討が付いている、かァ。どちらにしろ、癪だが有益には違いねェ。後で時間を取ってやるよォ』
そこまで気に入らないと主張を挟みながらも、それでも最後には、
『――不服極まりねェ。が、まァ、同じ所属だァ。使わせて貰うぜ』
グァーラは、それだけ言って、背を向けて歩き出した。
彼にしては、わたしのことを少しは認めてくれたのかもしれない。とても分かりにくいしぶっきらぼうな言葉だけれど、彼なりには歩み寄ってくれたのかもしれない。
きっと全てではないけれど、先程のヒカリのように。
そんな風に思いながら、わたしは立ち去る彼の、ゴツゴツとした背中を見送って――、
と、
「――って、ちょ、ちょっと待って」
わたしはそんな彼を、慌てて呼び止めた。
『あン? んだよォ、このまま格好良く去らせてはくれねェッてかァ? テメェまさかそういう意趣返しかァ畜生がァ!』
「いえ、そうじゃなくて」
見送る訳にはいかない。
わたしにだって、聞きたいことがある。
わたしには分からず、けれど彼なら分かるかもしれない事柄がある。
『……? なんかあんのかァ?』
「出来れば、早い段階で確認したいことがあるの」
『んだァ。……面倒だが、まァ言ってみな』
「転移者の内、優れた能力を持った一人が、この国の言葉を使っていたわ」
わたしはその件を、グァーラへと尋ねた。
「わたしも、ヒカリもその個体には触れていない。なのに最初から、転移して間もない状態で、この国の言葉で話していたの。ヒカリが言っていたけれど、それって、この国との縁を元から繋いでいたってことよね?」
『……ああ、そうだなァ。詳しく聞かねェと断言は出来ねェが、その可能性は十分に有り得るぜェ』
でもなァ、と。
グァーラは続けた。
『だからッて内通者を疑うのはァ、早計だぜェ』
「――そう、なの?」
『言ッちャあ悪いがァ、異世界転移ッてのは来るだけの現象じャあねェ。この日本国からも他所へ飛ぶッてのが、まァ少なくない。その飛んだ奴が他所で縁を繋いで、その繋いだ奴が日本国の縁を含んだ縁を、別世界で別人と結ぶッてことがあるんだァ』
「それってどういうこと?」
『分かりやすく例を挙げるならァ、ヒカリ嬢ちャんはあの騎士さんからこの国の縁を貰ッてんだよ』
つまりこういうことらしい。
この国と縁を結んだヴァンがヒカリと縁を結び、間接的にだけれど、ヒカリがこの国との縁を結んだことになった、と。
『縁ッてのはそうやッて広がッていくモンだ。だからまァ、内通者の可能性は模索するべきだがァ、その考えに囚われるべきではねェ。分かるだろォ?』
「……そう、ね」
あくまで、可能性の一つ。
囚われて疑心暗鬼になれば、不要な不和を生む。どころか本質的なものを見逃してしまったり、大切な場面での選択にも支障をきたすだろう。
かつて信頼によって友人を見誤った時の様に、今度は真逆の疑念によって、目を曇らせてしまいかねない。
だけど、
「だけど、グァーラだってその可能性はあるって、そう考えてるんでしょう?」
『そりャあテメェ、――考えてるに決まッてんだろォ。……がァ、なんでそう思ッた?』
「え?」
『なんで儂がそう考えてるッて思ッたんだよォ。そんなに疑ッてるような、分かりやすい顔だッたかァ?』
こちらへ振り向き、改めて向き合う形になる。
その声色は少し低くなり、微かな不機嫌さをはらんでいるように思えたけれど。
「そうね、えっと」
構わず、わたしは彼にその疑念を突き付けた。
「だって、グァーラ言ってたわ。異世界からの敵対勢力は、全員制圧が完了された、って」
『あァ、言ッたな』
「それってつまり、異世界からではない敵対勢力は、まだってことじゃないの?」
転移して来た彼らを制圧することは出来たけれど、そうでない敵の存在が示唆されている。彼の言っていたような黒幕や、内通者があると考えている。
――それらの可能性が十分に有り得るって、あなたもそう思うんでしょう?
重ねて、そう尋ねようとして。
けれど、
『ガララ、あァ、口が滑ッたなァ』
口が滑った。
グァーラがそう言った、――瞬間、だった。
「――え?」
視界から、彼の姿が消えた。
いや、正確には、
彼の姿が、別の物によって隠されてしまったのだ。
わたしの視界を覆い尽くすほどの、圧倒的な鉄くずの奔流によって。
『悪い』
攻撃は、街の地表を破って波のように放出。
鉄板や鉄骨を主に、細かなネジやスパナや金鎚、放電する極太の配線ケーブルまで。わたしを軽々と呑み込む程に背高い物量が、前面を覆い、頭上から降り注いでくる。
その向こう側から、感情の無い声が。
『やッぱ、せこせこと会話で時間稼ぎは、儂の性に合わねェ』
「なん、で」
驚いたのは、グァーラに敵意がなかったから、ではない。
敵意はあった。彼からわたしへの警戒も、隙を突いて揚げ足を取ってやろうという油断の無さも、感じ取れていた。
けれど、わたしを使うと言ったのは、わたしが有用だと思っているのは、きっと本当で。
その上で、こんな強硬手段に出るなんて、
なんで、なんでッ!
「グァーラ!」
『ズカズカ聞き過ぎだぜェ。……いや、違うかァ』
容赦も遠慮も微塵もなく、冗談などである筈もなく。
『――聞く相手を間違えたなァ、嬢ちャん』
迫り来る攻撃を前に、
――わたしは。