序───其れは唐突、或いは継続中。
それは唐突だった。いつもの様に起き、朝食を食べ、学校に向かい、バイトを終えて帰って来たらそれは居た。
「あら、おかえりなさい。今日は早いのね」
真っ白なワンピースに黒く長い絹糸の様な綺麗な髪。そして何より整った顔立ち。……ああ、綺麗だな。それが俺の第一印象だった。
言葉を発し、一度は目を背けた彼女だが、玄関に立ち尽くしたまま動かない俺を見て不振そうに目を細めた。そして、ふわりと"浮いて"近づいてくる。
「……あら、まさか、貴方。…視えてる?」
俺の目の前を上下左右に行ったり来たり、そして顔の前で手を振ってみたり。
「……視えてるわね。視えてるのね。…ふぅん」
くるり、と俺の周りを回った後、彼女はワンルームの部屋にある畳んだ布団の上に座る。もちろん、"浮いたまま移動して"だ。
それで俺は納得した。───ああ、この人は生きてる人間じゃないんだな。
不思議と恐怖感は無かった。生まれてこの方20年、幽霊はもちろん怪奇現象にも遭遇した事がなかった。
ただただ、綺麗な人だなって。
それと、不思議な雰囲気があった。
そこで俺は我に帰る。黙ったままなのも何なので、こんばんは、と告げてみた。
「……………」
そうすると彼女は怪訝とした表情でこちらを見つけた後、ぷっ、と吹き出した。
「──ふふ、あはははは!
…あ、貴方。怖くないの?私が」
笑い倒す彼女に怖くはない、と返事をする。本当に恐怖感を感じないのだ。彼女は悪い幽霊じゃない……何故かそんな気がした。
「……ふふ、変な人ね、貴方。よく言われない?お友達とかに。ほら、たまに一緒に帰ってる男の子とか」
……この人は一体いつから俺を見ていたんだろうか。いや、そもそも一体いつから俺に憑いているんだろうか。
「さあ、いつからだったかしら。忘れちゃったわ。それよりほら、いつまでも玄関に立ちっぱなしじゃなくてこっちに来て座ったら?」
私は幽霊だからお茶を淹れたり出来ないけど、と告げる。布団に座っている……ように見て取れるのだが、触れたりは出来ないのか。
「出来ないわ。貴方に触れる事も物に触れる事も。でも歩いたりは出来るわよ? もちろん、飛んだり、すり抜けたりも───あ。待って」
すっ、と今度は立ち上がって歩いて俺に近づいてきた彼女はそっと俺の腕に"触れる"。
感覚はどうだろう……温かくはない。でも氷みたいに冷たくもない。不思議な感じだった。何とも形容し難い。
「あ、やっぱり。今までは触れなかったけど、貴方が私を視えるようになったからかしら。触れるみたい」
ぺたぺたと俺の身体を一通り触ったあと、彼女は口許を緩めた。そして目線を俺の手に持つ袋に落とした。
「今夜もコンビニ弁当? 貴方、自炊はしないものね。身体に悪いわよ? たまには自炊もしなさいな。野菜を食べなさい、野菜」
……本当、いつから居るんだろう、この人。