魂は永遠に
事故から数週間後。
事故で亡くなったかわぞえひかり幼稚園の子どもたちと先生の合同葬儀が終わると、幼稚園はそのまま夏休みになった。
いつもなら夏休みの始めの一週間は、午前中だけプールを開放するのだが、今年は一度も門は開けられなかった。
進藤達也の妹・里奈は、夏休み中毎日のように東公園のブランコに座っていた。幼稚園が終わるといつも遊んでいた公園のブランコだ。達也がいるときは、背中をぐんぐん押してもらって、里奈もワイワイ言いながら乗っていた。
でも、今は全く動かない。
年少組の里奈はまだ四歳。達也の死もまだ実感はなかった。いつか笑顔で戻ってきてくれることを祈った。でも沈黙が続き哀しみが覆い尽くす自宅にいるのが辛かった、両親の涙が里奈を悲しい気持ちにした。
だから、達也と遊んで楽しかった思い出の公園にいたかった。
今日は公園では誰も遊んでいない。
砂場も滑り台もジャングルジムも達也が逆上がりを練習した鉄棒も、木陰のベンチにもシーソーも誰もいなかった。そんな中、長い一本足の丸時計が一秒づつ時を刻んでいた。
今は三時十二分を指している、幼稚園帰りに遊んだ時間とほぼ同じだ。
里奈は達也を思って空を見た。
そこにはどこまでも高い真っ青な空が広がっていた。大きい大きい空だった。里奈は吸い込まれて浮かんでしまいそうだった。
そして思った『お兄ちゃんに会いたい』
と、そこに昼だというのに幾つもの星の瞬きが現れた。
なんだろう。
不思議に思っていると、星が徐々に大きくなってくる。そして公園に近づいてくる。里奈は目を離せない。もっともっとよく見よう。ものすごい勢いで星が降ってくる。
あれ、違う、星じゃない。
里奈は思った──光るボールみたいだ。
里奈が星だと思ったのはソフトボールくらいの光の玉だった。
幾つもの光の玉は、里奈の視線くらいの高さまで落ちてくると、止まってふわふわ浮かんだ。
次の瞬間、信じられない光景を目にした。一つの光の玉がゆうくんに姿を変えた。驚く里奈をよそに、浮かんでいる光の玉は次々に子どもに姿を変えていく。
みんな見たことがある子どもだ──かわぞえひかり幼稚園のすみれ組の子どもたちだ。
子どもたちは砂場に行ったり、滑り台を滑ったり、勢いよくジャングルジムに登り早さを競い合っている子どももいる。女の子たちは追いかけっこを始めた。みんな楽しそうだ。里奈は一生懸命達也を探すが見当たらない。どこにもいない。
笑顔で遊ぶ子どもたちを見ていても、お兄ちゃんがいないと余計寂しい。
その時、里奈が乗っているブランコが揺れだした。背中もなんだか暖かい。
驚きとともに振り返る里奈。
里奈の後ろには達也の笑顔があった。
「お兄ちゃん」里奈は嬉しくて泣きだした。
達也はゆっくりと背中を押しながら声をかけた。
「里奈、泣かないで、元気に笑って」
「お兄ちゃん、大好きなんだよ、いないと寂しいよ! 」
大きな声で泣き叫んだ。小さな体に一生懸命溜め込んでいた思いを口にした。
「ありがとう、ほら、ブランコ押すから前を見て、危ないから」
「うん」里奈は前を見た。
「いつも一緒にいるからね」
「うん」涙を流しながら元気に返事をした。
そして、ブランコは大きく揺れ始めた。
子どもたちは肉体を持たずに戻ってきた。
現世に残された者たちを見守り、
一緒に学び、
成長するために…。
了