白雪姫の真実
静かな静かな森の奥……
自分を狙う猟師から、命からがら逃げ出した白雪姫は、
7人の小人達と共に、平和で楽しい日々を過ごしていました。
そこへ魔女が老婆の姿でやって来ました。
手のカゴに、たっぷりと毒を仕込んだリンゴを隠して……
魔女は白雪姫の暮らす、小さな小屋の小さなドアをノックしました。
ほんの少し開いたドアの隙間から、それはそれは美しい、白雪姫が
顔をのぞかせました。
「これはこれは美しいお嬢さん!美味しいリンゴはいかがじゃね?」
白雪姫の顔がみるみる曇っていきます。
幼い時の事……
白雪姫の大好きなお母様は、病床でリンゴを食べたいと
言いました。
天蓋付きの大きなベッドの中で、
小さく切られたリンゴを、嬉しそうに頬ばる お母様。
それを見つめる白雪姫も、幸福感に浸っていました。
ところが、お母様は、リンゴを喉に詰まらせ、亡くなってしまったのです。
白雪姫の悲しみは、どんな海よりも、どんな谷よりも深く、
それ以来、リンゴを食べるどころか、見るのも嫌になってしまったのです。
白雪姫は悩みました。
『リンゴは見るのも嫌だけど、こんなお年寄りを傷つけるのはもっと嫌。
寒いなかをこんな、森の奥深くまで来てくださったんだもの。何か良い考えはないかしら?』
白雪姫は思い切って言いました。
「おばあさん、中でお茶でもいかが?そのリンゴ、私が剥いて差し上げますわ」
魔女は面食らいました。
それでも、白雪姫に怪しまれてはならないと、必死に笑顔をつくろい、
「じゃあ、少しだけ……」
そう言いつつ小さなドアをくぐり、魔女は小屋の中へ招き入れられました。
「どうぞここへ掛けてください。お疲れでしょう?」
白雪姫は笑顔で魔女に話しかけました。
魔女は勧められるまま、小さなテーブルの前に行き、
これまた小さな椅子に腰掛けました。
約束通り、白雪姫は小さな暖炉でお湯を沸かし、熱々の紅茶を
淹れて魔女の前に置きました。
「どうぞ、冷めないうちに」
白雪姫の温かな笑顔と、温かな紅茶で、魔女は自分の目的を忘れそうになっていました。
誰かにこんなに親切にもてなされたのは、
本当に久しぶりだったのです。
その時です。白雪姫は言いました。
「リンゴ、出してくださいな。剥いて差し上げますから」
白雪姫にとって見るのも嫌でしたが、このおばあさんのためになるならと、
意を決して切り出しました。
魔女は“リンゴ”と聞いて思い出しました。
そう。自分は白雪姫を殺めるためにここへやって来たのだと……
魔女は真っ赤に輝くリンゴを、白雪姫の真っ白な手に渡しました。
白雪姫はリンゴを受け取ると、震える手で必死に皮を剥き、食べやすく切り分けました。
リンゴの乗った皿を手に、振り向いた白雪姫の顔は涙で濡れていました。
それでも笑顔で
「どうぞ」と、魔女の前にリンゴを差し出しました。
魔女は状況が理解できず、呆然としていましたが、やがて
「いえいえ、あなたのために準備したリンゴだよ。
たんとお食べ」と言いました。
白雪姫は、何度も首を横に振り、
「いいえ……いいえ……」
そう言いながら泣き崩れてしまいました。
魔女は少し面倒だと思いながらも、白雪姫に声をかけました。
「どうして泣いているんだい?よかったら理由を話しておくれ」
白雪姫は、ヒック ヒックとしゃくり上げながら、魔女の顔を見つめました。
その透き通るような瞳に見つめられ、魔女の胸はぎゅっと締め付けられるようでした。
白雪姫は、少しづつ少しづつ、自分の幼い頃の体験を、魔女に語り始めました。
すっかり話を聞いた魔女は、この姫に心を奪われていました。
姿だけではなく、心まで透き通るように美しい、この姫に……
魔女は自分の醜い心が、つくづく嫌になりました。
醜い姿以上に醜かったのは、心だったと気付きました。
「えいっ‼︎」
魔女は皿のリンゴを一切れ掴むと、自分の口に放り込みました。
途端に、床に転げ回って苦しみ始めました。
驚いた白雪姫は、慌てて魔女のそばへ駆け寄りました。
「どうしたの?おばあさん‼︎」
魔女は苦しみもがきながら言いました。
「ごめんよ……私は魔女だ。あんたの美しさに嫉妬して、
この毒リンゴで殺してやろうと思ってたのさ……」
「そんな……」
白雪姫はひどく驚きました。
「だけど、美しいのは顔だけじゃないと知って、自分の愚かさが
馬鹿らしくなったのさ。安心おし。これでもう終わり……」
とうとう魔女の呼吸が止まりました。
「嫌っ‼︎」
白雪姫は、魔女に人工呼吸と、心臓マッサージを施しました。
「もう誰も死なせない!死なせるもんですか‼︎」
そう叫びながら、必死に人工呼吸とマッサージを続けました。
ポロッ……
魔女の口からリンゴが転げ出ました。
魔女の目がそっと開きました。
と同時に、若く美しい少女の姿に変わりました。
少女は白雪姫を見つめ、「どうして助けたの?」
と言いました。
「もう誰も、私の目の前で死んでほしくなかったの。それより、
あなたのその姿……」
白雪姫は、少女に手鏡を渡しました。
少女は、鏡を受け取り覗き込みました。
「え?これ、わたし……?」
少女は、過去の記憶を呼び起こしていました。
村でも評判の美少女だった彼女は、嫉妬に狂った悪い魔女に捕まり、
呪いをかけられ、醜い老婆の姿に変えられていたのです。
「本当の自分の姿を奪われて、この姿で生きているうちに、
心まで汚れてしまっていたわ。もう少しであなたを……
助けてくれて、ありがとう」
少女は大粒の涙をこぼしながら、お礼を言いました。
「本当の自分を取り戻せて、良かった!今度は私の番ね」
そう言うと、白雪姫は寝室へ入って行きました。
少し間があって、出て来た白雪姫は、なんと、
素敵な美青年に変わっていました。
「本当に?本当に白雪姫なの?」
少女は両手で頬を覆って驚きました。
白雪姫は笑顔で頷きました。
****
白雪姫の生まれたお城では、悪い魔女が、王子の誕生を今か今かと
狙っていました。
生まれたばかりの王子の心臓を食べれば、永遠の若さが手に入ると言われていたからです。
王様とお妃様は、生まれてくるのが王女であるよう祈っていました。
しかし、願いも虚しく誕生したのは王子でした。
王様とお妃様は、生まれたての王子に、女の子の衣を着せました。
王子の命を守るため、皆で協力し王子は王女として育てられたのです。
魔女は王子の心臓を、渋々諦めました。
ところが その後、お妃様が亡くなり、継母としてお城へやって来た、
別の魔女に、その美しい容貌のため、再び命を狙われるようになったのでした。
****
「どうやら、僕達は同じ魔女に付け狙われていたようですね」
白雪姫……いや、王子は笑顔で少女に言いました。
「ええ。信じられないけれど……
魔女ってどこまでも若さや、美しさに固執するものなのね。
でも、また魔女がやって来て私達を呪ったりしないかしら?」
少女は不安気に言いました。
「大丈夫!僕はもう赤ん坊じゃあない。あなたを守ります!」
王子は少女の手を取りました。
「私、あなたを殺そうとしてたのよ!それでもいいの?」
少女が言いました。
「君は悪い夢を見せられていたんだ。魔女の手先にされてただけさ。もう忘れよう!」
王子は優しく言いました。
そこへ、7人の小人達が楽しげに歌を歌いながら帰って来ました。
2人を見て7人はびっくり。
『え?君達は誰だい?』
「白雪姫はどこ?」
王子と少女は目を合わせて笑いました。
「これから説明するから、ここに座って」
王子の声と共に小人達は着席しました。
王子はこれまでの事を、小人達に残らず話しました。
小人達は、時折「へえ……」と驚きながら、真剣に耳を
傾けました。
小人の1人が言いました。
「君たちは、ここから出て行ってしまうの?」
王子が言いました。
「君達さえ良ければ、今まで通りここで暮らしたいけど……」
「君、料理は得意?」
小人が少女に向かって言いました。
「もちろん!呪いにかかる前はちゃんと家事をやっていたのよ」
少女が胸を反って答えました。
「じゃあ、決まりだ」
『そうだね。今まで通り一緒に暮らそう。でも、ここじゃ狭いよね』
小人達の声に、
「よし!この隣に、もう少し大きな家を建てよう!」
王子の声に、
『そうしよう!』
「いいねー‼︎」
みんなが賛成しました。
「そうと決まれば、材料集めだ」
みんなで助け合って、今日からまた、森での楽しい生活が始まります。
*おしまい*




