4 : エピローグ ~Real Word~
最終話です。
最後までお付き合いいただければ、幸いです。
快晴で迎えた、翌朝。
前夜から辺り一面に雪が降り積もり、見渡す限りの景色を真っ白に彩っている。
一片の曇りもない銀世界。
まるで、純白の雪によって一夜のうちに新しい世界が創られたかのような、そんな錯覚を覚えてしまうほど美しく彩られている。
外気は相変わらず氷点下ではないかと思われるほどに、凍るような寒さだ。
道行く人を全く見掛けることがないので確証はないが、恐らく吐く息は一瞬にして白く色付くだろう。
そんな外気と殆ど変らない寒さを保ったままの、一軒の家。
家の中は誰も住んで居ないかのようにがらんとしていて、玄関口には靴の一足も存在していない。
ただっ広いだけのリビングにある家具らしきものは、壁際に放置されているみたいに置いてある薄汚れた大きなソファと、長い間使用した形跡が一切見られないほど埃の積もった4人掛けのダイニングテーブルのみ。
生活感など、微塵も感じることができない。
誰が見ても、1年前までこの家にごく普通の幸せな家族が暮らしていたとは思わないだろう。
それほど、人の匂いを感じさせない只の建物と化してしまった家。
1年前、全てを失ったアイ。
両親と弟の葬儀を終えたアイの元に残ったのは、それまでの『ツマラナイ毎日』こそが、アイにとっての『幸せ』の全てだったのだと云う事実と、その『幸せの記憶』が詰まった家。
そして――両親が残してくれた莫大な保険金。
もう、アイ以外の家族なんて、誰ひとり存在しないと云うのに――。
数ヶ月前、アイはインターネットであるモノを手に入れた。
『幸せになれる』と銘打たれたそれは、最近ティーンエイジャーの間で流行りつつある合法ドラッグの一種だった。
全てを無くして以来、学校にも行かず、何もかもがどうでも良くなっていたアイにとって、その誘い文句は実に魅惑的な言葉だった。
いや――アイにとっては、現実を忘れる事が出来るのであれば、ただそれだけで良かったのだ。
アイは手に入れたそれを毎日のように使用して、幸せだった頃の楽しい夢を見続けた。
繰り返し、繰り返し。何カ月も、何カ月も――。
そうして、漸く現実と夢との境目が判らなくなって来た頃……アイにとって一番辛い想い出の季節がやって来た。
クリスマス・イブ。
アイが幸せの全てを一度に失った日――。
だから、アイはクリスマスが嫌いだった。
煌びやかなネオンで溢れる町並みも、楽しそうに歩く人たちの笑顔も。
降り積もった雪が跡形もなく融けてなくなるように、全て消え去ってしまえば良い……そう、望むほどに。
冷え切った家の2階の一室で、アイは横になっていた。
大好きだった弟、アオの部屋だったベッドの上。
アオのダウンジャケットと一緒に楽しかった頃の想い出に包まるように。
既に冷たくなったアイの体は、手足が力なく弛緩している。
アイの唇は薄く微笑んでいた。まるで、幸せだった頃の夢を見ているかのように――。
ベッド脇には、小瓶が数個転げている。
アイは銘約通り幸せを手に入れ、終わることのない夢の世界へと旅立って行ったのだ。
12月25日。
快晴で迎えた、クリスマスの早朝――。
これでもう、アイはクリスマスを嫌いで居なくても良くなったのだ。
これで完結です。最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。
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