2 : 2nd Wish
「おっはよ〜、アイ」
「はよーっす!」
「おっ。アイ、はよ〜」
教室に入ると同時に、クラスメイト達から声を掛けられた。
彼らのテンションは、いつもムダに高い。
半面、小さく「おはよう」と返すアイは年中低く均一だった。
朝っぱらから酔っ払いみたいなノリには付いて行ける筈もなく、眉間に軽く手を当てて薄く寄った皺を隠す。
思春期という名の酔っ払い達の群を適当にあしらいながら自分の席へ着くと、通学用に使っているショルダーバッグを少し乱暴に机へ置いた。
「ねぇねぇ。今日さぁ、アタシ。グラマーあたるんだけど、見してくんない?アイ、やってるでしょ?」
途端に、クラスメイトの一人がアイの席に近付いて来て、猫撫で声で言う。
彼女の言葉を合図に、まだアイが「YES」とも「NO」とも言っていないのに、オレも私もと周りに人集りができる。
その様子に、魚か雛の餌付けを連想して、アイは思わず噴き出してしまった。
集まって来ていたクラスメイト達が一斉にキョトンとした顔になる。
アイは彼らの反応がが可笑しくて、また笑った。
「はいはい、わかったよ」
アイはまだ引かない笑いを堪えながら、
「ほい。これで好いんでしょ?」と、声を掛けてきたクラスメイトに予習済みのグラマーのノートを手渡す。
「やった〜。ありがと〜、アイ!助かったぁ。やっぱ、持つべきモノは秀才の友達だよね〜。アタシ、今日やってなかったら居残りだったんだぁ〜」
彼女はノートを持ったままの手を顔の前でパンッと勢いよく合わせて、アイを拝んだ。
「その代わり、今日帰りにパウンド・ハウスのスペシャルチーズケーキセットね。」
「え〜〜〜!?アイちゃ〜〜〜〜ん、それは勘弁~~~!!」
悲壮な顔をして必死で訴えてくる。
彼女の悲鳴はもっともで、アイのリクエストは高校生の懐にはとっても痛いほどのイイお値段がするのだ。
彼女のこの世の終わりかのような形相に、
「ん〜〜……」と考えて、声を張り上げた。
「ね〜、みんな〜。グラマーのノートコピりたいよね?」
コクコクと赤べこの様に頷き続けるクラスメイト一同。
全員壊れたおもちゃみたいだ。
「じゃあ、これコピった人全員で私に奢るって言うのは、どう?」
「それ好いね!一人ならイタイ金額だけど、みんなでなら……えっと……幾らになるんだ?」
アイの左隣の席の男子生徒が指を折りながら数えて始めたけれど、途中で解らなくなってしまったらしく間抜けな顔でアイを見遣った。
彼のあまりの馬鹿さ加減に、教室中がドッと爆笑の渦に巻き込まれる。
「取り敢えず、早くグラマーの答えを写さないと授業が始まっちゃうよ」
アイの一言で、クラスメイト達は蜘蛛の子を散らすかのように、我先にとノートを求めて自分の席へと向かったのだった。
この後、いつもは煩いほどににぎやがな教室で、期末試験中よりも真剣な表情でシャーペンを走らせる生徒たちの姿と云う珍景が目撃されたという。
勿論、その生徒達の中にアイが含まれていないのは当然のこと。
学校でのアイは『優等生でみんなに好かれるアイの仮面を被ったアイ』だ。
決して、本心を見せることのない、アイ。
それでも、『学校』は好きだった。
たくさんの笑顔で居られる場所だったから――。




