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1 : 1st Wish

「アイー、起きてるの~?ママもう出掛けるわよ~?」


階下から、母親らしき女性の声が響く。

アイと呼ばれた少女は、ゆっくりとベッドから起き上がり、まだ開ききっていない目を軽くこすった。



午前7時。


彼女が通っている都立高校までは電車で2駅程の距離しか離れていないため、十分に余裕がある時間だった。

もっとも、彼女は自転車で通学しているので電車の時間など全く気にする必要はないし、実際気にした事もないのだけれど。



「アイ~。私はもう出なくちゃいけないから、後はお願いね~」

再び階下から声が響いて、今度はバタンと大きな音がする。玄関の扉が閉まった音らしい。

母親が慌ただしく出勤して行ったのだろう。



別に無理して私を起こしてから行かなくても好いのに……。

体を起こしてベッドに座ったアイは、小さくため息を吐いた。




アイの家は、父親が外資系企業で働くエリートサラリーマン、母親はそこそこ人気のあるアパレルメーカーの支店長をしている。そのため、日本の一般的家庭よりは経済的に裕福な部類に入るだろう。

けれども、多感な年頃の子供としては、多忙を極める両親をに対する心中は複雑だ。

アイには二つ年下の弟が居る。

口には出さないけれど、彼もまたこの家庭環境には不満を抱いているようだった。


唯一の救いは、両親の不在が多かったせいか2人とも思春期真っ只中にもかかわらず姉弟仲がすこぶるい、という事。

文字通り、2人っきりの姉弟はお互いが助け合って支え合って生きてきたのだ。

勿論、金銭的な面においては両親の援助を受けていた訳だけれど、それだけでは足りなかった。

常に両親が不在がちである寂しさが彼女ら姉弟へもたらす心の歪みは大きくなる一方で、姉は弟を溺愛し可愛がり、弟は幼い頃から親代わりだった姉を尊敬し執着することで、両親からの足りない『愛情』を何とか埋めていたのだ。




また、何も変わり映えのしない、いつも通りの『ツマラナイ一日』が始まろうとしている――。




再び小さくため息を吐いて、クローゼットを開けるとゆっくりとハンガーラックに手を伸ばす。

高校の制服が掛けられたハンガーを手に取ると、アイは3度目の溜息を吐いて着替え始めた。




『ツマラナクテ、タイクツナ日々』の繰り返し。

それでもまだ、両親への期待を捨て切れない自分。



これが、アイの『日常』――だった。







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