表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

84/229

第84話 咲良たちの成果

「ユリっち、アタシだってそのくらいの事は考えてたよ。消失したトーカーは八人。長老会とJOXAの調査で発見したアルターホールは七つ。ハナザブロウがアキノシンのアルターホールを見つけたけれど、香夜ポコのアルターホールはドコを探しても手がかりすら掴めなかった。本部がアキノシンの情報を信じたとしても、絶対に進入できない場所だからって、断念する気はないんだよね?」

「もちろんです、センパイ」

「アキノシン、引き揚げ(サルベージ)技術の知識は? 月に進入する未来の技術はしってるの?」

「残念ながら、それはわかりまへん」

「君の脳味噌から、まだ引き出せていないだけかもしれないよね?!」

[悠里!!]

 僕の声はもちろん届かない。僕はしんいに震える悠里の肩を強く抑えて、彼女を見つめた。


「……ごめん。ちょっち取り乱した」

 涙目になった悠里は、目を伏せた。

「ごめん、ユリっち、みんな。アタシ、多分勘違いしたんだよね?」


「すいません、センパイ。結論から伝えるべきでした」

「謝るなら僕ですよ。ユリハに解説を希望したのは僕ですから。すいません」

[ごめん、悠里]


 ペティとリズが目標をサイアから悠里に変更して、シリアスな空気をぶち壊した。悠里は透過しないで、二人のエルフの温もりを噛みしめていた。……僕を巻き込んで。


「エア太郎、どこ触ってんだ!」

[いや、悠里の肩なんだけど、ペティの背中から胸をすり抜けて]


 悠里の首に腕を絡めるペティにはもちろん僕の口パクは伝わってない。

「変質者ですわ。変質者がいますわ!」


 リズは僕の下腹部のあたりをすり抜けて悠里の腰に抱きついている。

 僕が悠里から手を放そうとすると。

「エアっちはこのまま待機すべし」

 と、両腕だけペティの身体を透過して僕の両腕を「グワシッ」とつかんで悠里が止めた。



 自由になったサイアが、みんなに茶のおかわりを煎れてくれた。

 ペティとリズのカップにサイアが茶を注ぐと、エルフの二人は席へと戻った。


 サイアは新たにカップを持ってきて、悠里のカップに茶を注ぐのと同時に、なぜか僕の分まで煎れてくれた。……さっきのやりとりの労いだろうか。

「サイっちゃん。エアっちが”ありがとう”だって」

「いや、そんな」


 サイアがはにかむ。シラフの時では花太郎にはほとんど見せたことのない表情だ。……間近で見ても、やっぱりかわいいな。

 ……まぁ、そんな表情を目の当たりにした悠里がほっとく訳ないよね。

 サイアは覚悟していたのだろう、悠里の抱擁を抵抗することなく受け入れ、彼女の膝の上にチョコンと座った。


「時間かけさせてごめんね、ユリっち。仕切直し、お願い」

「はい、センパイ。では伝えたいことの結論から言います」


 そしてユリハは言った。

 【月に行く手がかりをみつけた】、と。


 ”静かな爆発”が起きてから、三つの変化が起きた。


 ・マナコンドリアを保有する新生児の割合が増加したこと。

 ・地球上でマイナシウムが自然発生するようになったこと。


 ・そして、地球の質量が僅かに”重くなった”こと。



 ユリハは、先の二つを”月のアルターホールの影響”とし。最後の地球の質量増加に関しては、アキラが説明した”不可解な現象、その一”に関連するものと推察した。


「アルターホールの特性は、実際に観測して調査しなければわからないわ。大分根拠のない推察が入ってしまうけど、アルターホールの特性を踏まえて、ここでは、地球の質量増加について説明するわね」


 不可解な現象、その一。ワームホールをぶつけて対消滅しない限りは半永久的に稼働し続けるはずのワームホールが、勝手に縮小し、消滅した謎について。


「騙されとるんや、俺たちは」

 アキラは魔石を取り出して、光らせた。


「おお、こんなこともできるのか」

 花太郎が素直に感心している。 

「当たり前や。俺は”ロステク”の結界を騙した男やぞ?」


 アキラが幻影魔法を使って、テーブルの上にプラネタリウム……いやそれ以上に質感を感じさせる地球と月、その間の宙域の映像を映した。


「……綺麗」

 サイアが目を輝かせて見とれている。


「これはすげえな、おい」

「ここまで幻影を使いこなせるなんて……」

 魔法のエキスパートであるペティとリズも素直に感心していた。


「はっはぁ、ええやろええやろ? すごいやろ?」

 アキラは調子に乗って、幻影魔法の範囲を部屋いっぱいに広げて見せた。サイアの目の前を人工衛星が通り、サイアが手を伸ばすと、アキラはサービス心をこじらせて、人工衛星をサイアの手のひらに乗せた。悠里がサイアの横顔に自分のほっぺたをくっつけて、目を輝かせて見つめている。


 ……ロマンティックだけど、ほどほどにすべきだったな、アキラ。

 幻影の一部が僕の身体に触れると、一気にマナに変換されて 部屋いっぱいに広がっていた幻が消えた。


「こらこら空気バナ! 何してくれとんねん?!」

「いや、アキラが悪いだろ、今のは」

 花太郎が僕のかわりにツッコンだ。


 仕切なおして、アキラが部屋いっぱいに幻影を展開する。僕には幻影が触れないように僕のところだけバリアーが張られてるみたいに空間が切り取られていた。

 アキラは幻影の中に浮かぶ地球、月とその間を漂う観測用の人工衛生や月面ローバーを映し、太陽光や電波望遠鏡が放つ電波を矢印で視覚化して、ユリハが説明する推察を、わかりやすく図解した。


 ローバーのカメラは、しっかりとクレーターの表面を映し、この映像はローバーを遠隔操作しながら月面写真を撮影している観測衛生や、電波望遠鏡が観測した、クレーター表面の起伏と一致しいて誤差がなく。ローバーの眼前には間違いなくクレーターが存在していることがわかる。


 ……これがそもそも間違いなのだ、と。


「三カ所以上の観測地点から、同じエリアを撮影して、観測結果に誤差がほとんど出ないのは、あまりにも不自然なのよ」

「空間湾曲起こして、物体の進入妨げとるクレーターやで? 光や電波だけ素通りできるなんて、そんな現実は、ポジティブすぎるやろ?」


「いや、ポジティブかどうか問われてもさ」

 懸命に話しに追いつこうとしている最中に、アキラが訳のわからない同意を求めてきて、花太郎が狼狽(うろた)える。

「これは魔法の一種じゃないかって、推察したわ」


 ユリハが説明を続行すると、アキラはクレーターの表面に”ナスカの地上絵”みたいなイラストや、一面の花畑、妙にリアルで巨大なウサギがピョンピョン跳ね回っている幻影をめまぐるしく映し始めた。


 アキラの幻影魔法が創り出した月は、まるで本物のようだった。ナスカの地上絵も、絶対に育まれることのない花畑も、巨大なウサギも、そこに存在しているかのように見えた。


 ……アキラ、これで商売始めたら繁盛しそうだな。


「みての通りよ。彼の幻影魔法は、ここまでリアルに私達の目を騙せるわ」

 アキラはフフンっと鼻を鳴らして調子に乗っている。だけどそれ、千恵美さんの魔石の力だよな? 情けなくはないのか、アキラよ。


「しかも魔石は、未次飼みじかい千恵美ちえみさんの能力の一部よ。本来のアルターホールの力なら、この巨大なクレーターを覆いつくせる程の影響力を持っていてもおかしくはないわ」


 アキラの表情が一瞬だけ曇った。多分思い出したのだろう。ユリハも悠里も花太郎もそれに気づいたみたいだけど、触れなかった。放っておく方がいい、こいつの安っぽい誇りを尊重するならば。 

「話はわかったけどさ、ユリっち。それでも幻影魔法は光を操る魔法でしょ? それじゃ、電波はだませないんじゃないの?」


「だませるんやな、これが」

 再びアキラは調子にのって再び鼻を「フフン」と鳴らした。


 結界を騙した後、ユリハは、アキラの幻影魔法について、様々な検証を行った。もともと気がかりな部分ではあったそうだ。

 幻影魔法の特徴であり、弱点であるのは”光を操って虚像を創造”することである。また、多少の空気を操って、音も作ることが可能だ。


 しかし、アキラが初めてカイド達と対峙したとき。アキラはアズラの嗅覚を騙した。この時サイアは「幻影魔法は匂いまでは作れない」と主張していた。


 脳情報データベースのレポート作成を優先していたため、ユリハは検証を後回しにせざる得ない状況だったけど、件の結界を騙したことをきっかけに、実家に帰る前の間、休暇扱いになっているアキラに”協力してもらう”と言う形で、アキラの魔石が見せる幻影魔法の検証を実施していたらしい。……ユリハ、ブラック企業の上司みたいだな。


 アキラが魔法で、炎や氷の壁などをつくり、策敵機器による観測実験。


 結果、アキラの魔石が見せる幻影は熱感知、電波、反響音等々、JOXAの科学技術で使用可能な策敵系統の機械すべてを騙せることがわかったそうだ。


 それを聞いた悠里は、素直なコメントを残した。

「幻影よりも、実際に魔法で作った方が簡単なんじゃない?」

 炎と水魔法のエキスパート、ペティとリズもこれに同意した。


 それができないのがアキラなんだよ。妙な所で小器用なのがアキラらしいじゃないか!


「とにかく、彼の魔法から、月面のクレーターはアルターホールが見せる魔法の一種じゃないかって部分は納得してくれたわね」

 みんなうなずいた。僕もうなずいた。

 ここでようやくユリハは、アキラが説明した”不可解な現象、その一”について、一つの結論を出した。


「アルターホールが見せている月面のクレーターには、”静かな爆発”で生成されたワームホールが隠れているわ。そして……」


 そのワームホールの出口が、AEWにある。と。 


 地球の質量が若干”重く”なったのは、月の砂がワームホールを通じて、地球へ流れ込んだから。


 しかし、”静かな爆発”でJOXAが観測したワームホールの大きさから算出した、削り取られた月の砂の量と、増えた分の地球の重さは、桁違いにズレていた。


 もし、失った分の月の砂が地球に全て流れ込んでいたら、地球の引力が大きく変わり、天変地異が起こるはずなのだ。


 天才ユリハは、ここで独自の仮説を立てていた。


 地球には、失われた月の物質が、全て送られてきた。殆どがマイナシウムとなって。


 月面のワームホールの出口の先はおそらく、地球上の地表の中。マントル部分でも天変地異が起こるため、浅いところ。


 高密度のマイナシウムは自分の周囲に発生している引力と拮抗する。

 地表に隠れていてマイナシウムを観測できなければ、正確な質量を算出できない。JOXAは、マイナシウムに変換されずに送られてきた、月の砂の一部分だけを測定したのではないか。と、ユリハは以前から主張していたらしい。


 しかし、それを裏付ける成果が未だに得られていなかった。つい昨日までは。


「咲良ちゃんが本部に提出したサンプルの解析結果から、確証に通じる手がかり……月に行く方法の手がかりがつかめたの」


 みんなが固唾を飲んでいるのがわかった。


「今回、地質調査チームは、付近の地形とは一風変わった堆積岩の丘を見つけたわ。咲良ちゃんはシンベエと一緒に、その堆積岩の一部と、付近の石をサンプルとして本部に持ち帰って、放射年代測定を行ったの」


 それを聞いた悠里が目を爛々(らんらん)と輝かせ始めた。

「測定の結果、二種類のサンプルの間で物体化した年代に、約20億年以上の差があることがわかったの。サンプルの片方は47億年前の石だったわ」


「サイっちゃ~ん!!!」

 満面の笑顔で悠里がサイアをきつく抱きしめた。


「カ、ガ、リ、さん……クルシイ……」

「やったよぉ! やったよぉ!!」

 

……喜びを分かちあいたい! だけど、何がうれしいのかさっぱりわかってない僕がいる!!


 アキラも、どうやら理解したらしい。

 なんのことなんだよ!


「ええか、ハナ&ハナ。石ってのは、マグマが冷えて固まってできたものやろ? 放射年代測定てのはなぁ、色々種類はあるけど、簡単にいうと”マグマが固まって石になった年代”を調べることなんや。ここまではわかるか?」


「わかる!!」

 続けろ!!


「47億年前っちゅーことは、AEWの相対時間さっ引いて、旧地球だと、44億年前の石ってことやな。地球は46億歳や。つまり、その石は、最初固まって石になってから、一度も溶かされてないってことや、これがどういうことかわかるか?」


「…わからん! 鼻で笑うな! ムカつくぞ!!」

 ため息をついたのは見逃してやるから、続けてくれよ。


「不自然なんや。地球はな、恐竜がいた時代の42億歳とか、そこらまで、至る所で火山活動繰り返してたんや。地球の石ころは、火山が噴火する度に、何度もマグマに溶かされて固まる。旧地球で発見されている最古の石ですら、四十億年に到達しとらん。三十億年前の石が見つかるだけでも激レアなんや! それが今回、四十億年前の石がゴロゴロ見つかる場所を見つけたんやで、火山活動を続けているこの惑星ほしで。不自然やろ?」


「うん、不自然や」

 不自然や。アキラのエセ関西弁が感染うつってもうた。


[……どういうことかわかったか?]

「……わかんねえよ」

 ……僕もだ。首を横に振った。


「鈍い男だなぁ! 君たちは!!」

 悠里がサイアのホッペにチュウしながらバカにしてきた。


 二人のエルフが「なんて、うらやましい! いや、うらめしい!」「アタイにもやってくれよ、アネゴ!」などと喚きたてるのを無視して、悠里が教えてくれた。



「咲リン達が見つけたはね、”月の石”だよ!!」と。



  

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ