第41話 エア太郎の日記 アキラの功績について
西暦 二○三二年 九月二十日(日曜日)
AEW歴二十年 ウノウジュの四日(気候は五月~六月に近いらしい)
ここでの西暦表記はワームホール”さくら”を通った先にある旧地球の時間のこと。その数億年後の世界がこっちの地球なわけで、こっちの世界はAEW歴って呼び方で区分けしている。
AEW歴っていうのは、アッチとコッチがつながって、最初にコンタクトをとった年を元年としていて、ウノウジュってのはドワーフの月の数え方(正確には太陽歴だから 陽の数え方だと言われた)だ。
AEWでは月が創造神(女神)ってことになっていて、収穫とか災害なんかは月がもたらすと考えられている。だけど、月の女神様は気まぐれで結構時間にアバウトらしく(太陰暦だと潤月が出てくることに起因するのでは? ってのがJOXAの見解)正確な刻を計らせるために太陽を創って十二人の見張り番をつけて、一月ごとに見張らせてるそうだ。
ウノウジュっていうのはその見張り番の一人の名前。
で、それでも日にちがずれるから(閏年ね)、元日と定めた時にしか太陽が差し込まない場所に巨大な陽時計を造ったそうな。こんど観光で連れてってもらおうと思う。でも元日じゃないと光が射し込まないなら、なんでもない日に行ってもつまらなさそうだな。かといって元日は絶対人だかりできてるだろうしな。ちょっと悩むところだけど、覚えてたらお願いしてみよう。
さて、こうして再び備忘録兼、日記を暦の上では数億年ぶりに再開できたのだけど、記念すべき再開第一回目の日記ということで、今回はその功労者たる未次飼 彬の一連の騒動の顛末として、アキラの功績と処遇について記そうと思う。
功績については
・僕、エア太郎が日記を書けるようになった事。
・花太郎の欠損した右手を再生させた事。
の二つだ。
一つ目。日記を書けるようになったこと。
「共鳴石を粉末状にして、インクと混ぜてみぃ。筆談くらいならできるんとちゃう?」
と言われてユリハに手伝ってもらって試してみた。そしてらできた。 さらに紙の縁の部分にも共鳴石を混ぜたインクを付けると、ページをめくることもできた。一ページをめくるのに五分くらいかかったけど。
五分かかっても、みんなが寝静まってから”ボケら~”とするよりかは時間がつぶせるからいいかな、なんて思ってた。だけど、ページめくる為だけに五分もかけてると、なにもかもバカバカしくなってイライラしてきたので、なるべくページを使わないように、文字を小さく書くことにした。
新しく暇つぶしができたのでうれしい。
二つ目。 花太郎の右手を再生させたこと。
この話は、後述しようと思っているアキラの処遇についてとちょっとかぶるんだけど、花太郎の手が”生えてきた”話。
最初、花太郎の手は、村を出た後、大きな街に住んでいるサイアの師匠に頼んで、高度な魔法でつなげてもらおうとしていた。
だけど、宿に着いてからしばらくして、花太郎の右手が消滅した。
で、目を覚ました(正確には半殺し状態から蘇生させた)アキラを囲んで尋問している時に、アキラが右手が消滅した理由について知っている事がわかった。
「アルターホールから再構築された人間っちゅーのは、魔導集石で集められたマナが皮膚やら内蔵やらに変質してできとる。その皮膚やら内蔵やらの設計図は、アルターホールにとけ込んだトーカーの意識や。【自分はこんな身体だった】って無意識下にあったアイデンティティが今のハナの身体の形を造っとる。右手が消えたっちゅーことは、切り離された右手が、魔導集石の支配力を失って、マナに拡散したってことやと思う」
この仕組みは魔法を使うときと同じようなメカニズムらしい。術者の意識にマナ(マイナシウム)が反応して火とか水とかに変質したり、物質を操ったりしているそうだ。
「ハナが【自分には右手がある!】て思いこめば、生えてくるんとちゃうかな?」
「生えてこなかったら、てめぇを殴るぜ?」
あんまりに調子に乗って物申すアキラの様子をみて、カイドが揺すりをかけたら、ビビってた、おもしろかった。
で、みんなで”花太郎の右手復活思いこみ作戦”を決行した。
”無意識下で右手があることを意識する”ってことで、より自然体に近い状態で右手を使用する必要がある為、みんな知恵を巡らせていた。
一人目 アズラ。
「これ食べな」とリンゴのような果物をさしだした。
花太郎が左手で受け取って食べた。「意味ねぇだろ!」と全員からのツッコミで、あらためて右手で果実を掴もうとしたけれど、ダメだった。
二人目 シド
花太郎と対面して
「【せーの】で両手を使って顔の左右を同時に叩くから、顔前で左右の手首を掴んで受けろ」
「わかった」
「いくぞ。せーのっ!」
パシンッ!
花太郎ノックアウト。シドのはたきが速すぎて、両側とも防げなかった。
シドは「すまんな」といいながら、心なしか笑ってた。そしてチラッとサイアの方を見ているのを僕は見逃さなかった。
三人目 カイド
「酒でも飲もうじゃねぇか」
カイドがグラスと呼んでいる大ジョッキと酒を二つずつ用意した。
「まぁ、持てよ」
グラスという名の大ジョッキを持たせて花太郎の左手をふさぎ、そこに一本分(五合くらい)の酒をなみなみと注いで瓶を空にした。
「俺の分を頼むぜ」
カイドがもう一本の酒の栓を抜くと花太郎に差し出した。
「入れてくれ」
花太郎が右手で酒を掴むそぶりをするけれど、もちろん掴めない。
「乾杯だ! ハナタロウ」
苛立ったカイドが酒瓶を掴んで花太郎のグラスに「コツン」とぶつけると、そのままラッパ飲みした。飲み干して「プファウオオゥ」とお唸り遊ばせながら酒瓶をテーブルに叩きつけた。
「街にもどりゃぁ きっと治せるぜ。金の事ならまかせろ、ハナタロウ」
「そうだな」
カイドの発言にシドも同意していた。そしてチラっとサイアの方をみてた。
四人目 ユリハ
「サイア、今から言う薬を調合して頂戴」
幻覚が”ちょっとだけ”視える薬だと聞いた、花太郎がコレを拒否。
五人目 サイア
「手…… 握ってみようかな」
サイアが花太郎と対面して、右手を差し出す。
花太郎が左手で握る。
サイア赤面。
「じゃ、じゃぁ、こっちも……」
サイアが左手を差し出す。
花太郎が右手をのばすが、やはりだめだった。
しばしの沈黙。
「…………!!」
無言の状態が続く中、サイアが意を決したように手を伸ばして花太郎の右手首を掴んだ。二人の輪っかができる。
「……で、この後は、どう、すれば、いいの?」
花太郎が当然の疑問を投げかける。
サイアは無言のまま視線を落として頬を赤らめている。
なにも言わないサイアをみて花太郎が話しかける。
「……UFOでも呼んでみようか? それともフォークダンス的なやつとかがいいかな?」
「……もういい」
サイアが茹で蛸みたいに赤くなったので終了。シドは遠い目をしていた。
「あとは俺やな」
「「「「「お前はするな!」」」」」
アキラの発言をみんなが全否定する。信頼回復はほど遠い。
「これでやっと殴れるなぁ」といいながらカイドがポキポキと指をならす様をみて「ちょ、ちょっと待ってや」とアキラが面白かわいそうなリアクションをしているとき、花太郎の左肩に蠅のような虫がとまった。
花太郎が右手でそれを払った。
振り払った右手首の先にうっすらと青白い空気が集まるのが見えてきて、「今や、お嬢!治癒魔法や!」とアキラが言って、サイアが「治癒」と呪文を唱えた。
青白い空気がちょっとだけ濃くなった。「続けて、続けて」とアキラが急かすように言うと、サイアが呪文ではなく詠唱を始めた。
サイアがしばらく詠唱していると、青白い空気が質感を帯びてきて、やがて皮膚となって、花太郎の身体の一部となり、それが花太郎の意志で動かせるようになって、元通りの右手になった。
「命拾いしたな」とカイドが言って、アキラが心底ほっとしているように見えた。
花太郎がみんなにお礼を言うと、サイアの方を向いて改めて彼女に「ありがとう」と伝えた。
サイアは「べ、別に自分の役目を果たしただけだから……」と目を反らして赤面した。 てっきり、はにかんだ笑顔が観られるかなって期待したけれど、これはこれでよかった。そしてこんなことを書き記している僕は気持ち悪いと思った。
余談だけど、この理屈は僕にも作用していて、なんと”思いこむ”だけで服を着ることが可能であると判明した。
今まで下半身は僕の羞恥心で、僕にも見えない状態だったけど、ズボンを着用する事で全身が見えるようになった。花太郎が苦戦したような事態にはならず、すごい簡単に衣装を身にまとえた。 してやったりだ、花太郎!
でも、普段は自分の姿が僕自身にも見えないのは相変わらずだ。花太郎が老廃物(認めたくはないけど)を出すことで花太郎と僕だけには姿が見えるようになる。
みんなから花太郎の幽魔だと勘違いされたときは、僕は花太郎の血液で顕現していた。
そして花太郎の血液には、マナで生成したものを再びマナに戻して拡散させる能力があるみたいだ。サイアが花太郎の血の一滴をつかって、魔法で水を血液に精製できなかったのは、このためらしい。「支部に帰ったら早速実験ね」とユリハが息巻いていてちょっと怖かった。
そしてユリハは一つの矛盾を見つけた。
マナで生成した物質を花太郎の血が元に戻してしまうと言うなら、花太郎を形成しているのも変質したマナなわけだから、本来なら目も当てられない状況になるんじゃないか? と。
これにはユリハもアキラも結論が出せなかった。一番考えられることで今のところ有力なのは、魔導集石のマナを集める支配力の方が、花太郎の血液の力より勝っている、ということ。
ただマナに分解する血液を造っているのも魔導集石なわけで、「なんでそんな燃費の悪そうなことやってんの?」みたいな疑問があるらしい。どの辺が疑問かはよくわからないけど、それだけアルタ―ホールと魔導集石というのは特異なものだということはわかった。
さて、ここからはアキラの処遇について記録しようかな、と思う。




