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第4話 ドワーフのカイドとエリートのユリハ。 2

「アマダハナタロウ宅にて、新たな友人ハナタロウに送る酒飲み前口上の詩歌


 友情は

 過ごした刻の 永さより

 交わした酒で 深まりや

 飲めや歌えや さあ友よ

 杯をかかげろ さあ飲むぞ!」


「フーッ!」


 そしてグラスを打ちつけあい、各々がその中身を飲み干した。

 カイドは物量的な部分で飲み干すのに一番時間がかかったけど、それでもやってのけた。


「プファウオゥ!」

 酒を飲み干したカイドがカン高い奇妙な発声でお唸り遊ばされていたのが印象的だった。あの量を飲んでも平然としていられる彼をみて人類の限界を悟った。


 詩歌については、まず冒頭部分ですね。


”友情は”


 親睦会での吟詠ということで冒頭にこの言葉を持ってくるのはベターな選択です。変化球をねらっても良かったと思いますが、聴く人は文章として詩歌の内容を見ることができないので、奇をてらい過ぎて意味が伝わらなくなる恐れがありますから、これはこれで良かったのではないでしょうか。


 続いてですね。


”過ごした刻の 永さより

 交わした酒で 深まりや”


 ですね。カイドさんは酒飲みに関しては確固たる哲学をお持ちのようですね。彼はこの後、大ジョッキで酒を一気飲みしていましたが、詩を読むかぎりこの行為は彼なりの友人に対する最上級の敬意、と判断しても間違いではないと思います。彼のジョッキだとそうですね、あと一杯半も飲もうものなら日本人の場合は急性アル中の症状が現れ始めると思われますがドワーフはどうなんでしょう? 気になります。


 最後ですね。


”飲めや歌えや さあ友よ

 杯をかかげろ さあ飲むぞ!”


 ”さあ”を2つ使っているところはマイナスですね。”飲めや”と”飲むぞ”ももうちょっと言葉を選ぶべきだとは思います。きっとめんどくさかったんでしょうね、「ごたくはいいからとっとと飲むぞ!」みたいな強い意志がひしひしと伝わってきます。

 酒飲みの哲学を詠いあげた後の結びとしては、粗野ですがそれでいて素朴でストレートってあたりが対比になってこれはこれで味がありますよね。例えるならば、世界の真理を追究して悩み続ける哲学者が朝起きて「まずは朝食だ!これが真理だ!!」と言っているような感じですかね。


 総評


 つまりは単純にうれしかったのだ、詩歌を吟じるってところでも堅くなることはなかったし、即興で彼が僕に歌を送ってくれたのだから。


 この詩歌を忘れないようにメモしてたらカイドがそれをみて「こういうのは残らねえからいいんだろ、紙に書いてどうするんだ?」となんだか少し照れているようだった、面白かった。


 つまみの揚げパスタがなくなった、宅配ピザはまだ来ていない。


 ほとんどカイドが食べていたんだけど、それにしても熱に強い男だ。


 ドワーフは種族全体で生活必需品や宝飾品など鋳物類の生産を生業にしている。先祖代々熱い鍛冶場で過ごしている者達ばかりだから寒がりらしいけど熱には慣れっこなので、まだ冷めやらぬアツアツの揚げパスタを「うまい、うまい」と手づかみでバリボリと食べ尽くすことができたみたいだ。


 鋳物の原料である鉱石採掘はもっとも重要な仕事だ。カイドや親友のシドはこれを担当していて、効率よく作業を行うために山岳地帯に住んでいるという。寒いから山中に穴を掘って地熱で暖められた過ごしやすい場所に集落をつくる、髪や髭を伸ばすのは暖をとるためでもあるらしい。


 フライパンの油がまだ十分に熱を持っていたので、追加でパスタを揚げるのにさほど時間はかからなかった。カイドの食べっぷりがなかなか小気味良かったので、買いだめしていた手持ちのパスタ(約1.5キログラム)すべてを油の中に投入した。


 僕が持っているどの皿にも入りきらなかったから使ってないフライパンの上に盛った。


「貴様にこの山(揚げパスタ)が掘れるかな?」

 フライパンの上に山盛りにした揚げパスタをちゃぶ台に置きながら僕は言った、我ながら絡みづらい発言だったと思う。


 しかしカイドは「ガハハ」と豪快に笑うと凄まじい勢いで捕食をはじめてくれた。この時まだ2人の酒は二杯目だった。シラフのユリハはどんな気持ちで僕たちを眺めていたのだろうか。


 ちょうど揚げパスタを(主にカイドが)平らげた頃にピザが到着した、お金はユリハが払ってくれた。


「ありがとう、ユリハ」

「いえいえ、別に私のお金じゃないしね。ところで花太郎、私の言葉わかる?」


 玄関でピザの箱を抱えている僕に、支払いを終えたユリハが振り返りざま尋ねてきた。


「うん、一応義務教育受けてるし」

「私、さっきから日本語で話してないのよ」

「意味がわからないよ、ピザ屋のあんちゃんにも通じてたじゃん」

「あの時だけは日本語で話してたから」

 このあたりでユリハの口の動きに違和感を覚えた。


「私、”リスナー”って呼ばれてるの」


 カイドからピザの宅配要請を受けたので、玄関からちゃぶ台へユリハと移動し、カイドに所望の品を届けた。

 ピザをかじりながらカイドも交えて話をしたけれど、よくよくカイドの口元を見ているとこれにも違和感があった。


 僕や香夜さんは”トーカー”と呼ばれる体質らしい。トーカーとリスナーは映画にたとえると”吹き替え音声”か”字幕付き音声”の違いで、僕はアズラやカイドの使っている言語が母語に変換されて聞こえているのに対して、ユリハにはカイド達の言語が変換されずに聞こえてくるけれど言葉の意味が無学習でもわかる、ということらしい。


 それと、トーカーは母語で話すだけでアッチ界のどの種族にも言葉が通じるけれど、リスナーはアッチ界の言葉を使わないと伝わらない。


 リスナーはトーカーよりも人数が多く(それでも女性しかいない)、ユリハは語学修得の適正が高かったので、ドワーフの言語をテキスト化する仕事を担当していると言っていた。


 これにも例外があって、リスナーがドワーフ語を話せばトーカーは母語に変換されて聞こえるけれど、リスナーでないものがドワーフ語を話すとそのまんまの音しか聞こえない。原因は現在も研究中とのこと。


 この話を聞いたら二人の口パクが妙に気になってしまった。口の動きにあわせて無理矢理アテレコしようと試みる自分がいた。


 アテレコ例


”ねぇ、俺この髪縮毛(矯正)かけようかと思うんだけど”

”ええぇ~ストパァー? カイドのクシュクシュ似合ってんのにぃ”

”マンネリなんだよなぁ、イメチェンしたくて”

”するんだったらお髭もしないとね”

”髭もだよなぁ、アフターケアもしっかりしないと”etc……。


 こんな下らねぇ事を考えていた自分は酒におぼれていたんだと思う。


 カイドが8枚のうち1人で7枚のピザを平らげている間にも酒はどんどん減り続け、6本の1升瓶はすべて空になっていた。

 カイドは話好きで、僕から問いを投げて、カイドが答えて膨らませてはいろんなところに話が脱線して……本当にお互いがものすごく酔っぱらってたんだと思う、ユリハはほとんど聞き役に徹していたかな。


 僕はベロベロに酔ってたし、終わりの方ではボロボロになっていたから話したことはほとんど忘れてしまった。「残らねえからいいんだろ、紙に書いてどうするんだ?」というカイドの声が脳裏をよぎる。

 それでも今後の自分の肥やしになるかはわからないけど、メモったやつとか覚えている話題は極力細かく書こうと思う。


 酔っているときの僕の文字は普段以上に汚い、難読だ。自分でも読めない箇所があるけどフィーリングでなんとかしよう。


 音楽について。


 2つの世界が行き来できるようになってから、最初に人間とコンタクトをとったのはドワーフだったそうだ。交易(といっても、こっちからアッチ界にもっていくのがほとんど)が始まり、最初にドワーフたちが興味を示したのは楽器だった。


 もともと打楽器や弦楽器、ピアノに似た鍵盤楽器もあったし、ドワーフたちは馬鹿さわぎが大好きで、楽器は生活に欠かせないものだった。手先が器用な種族だから、鋳物業の兼業で楽器職人も結構いたみたいだ。


 で、ドワーフ達がこっちの世界で目をつけたのは電子楽器だった。アッチ界には魔法があるけれど電気が存在しないので、こっちの世界でのシンセサイザー、エレキギターから、マイクやスピーカーといったオーディオ機器の存在が衝撃的だったという。


 魔法についてユリハが言うには、未だ研究中だけど電気より汎用性の高いエネルギーのようなものらしい。だから電子楽器以外の電化製品にはドワーフ達はあまり興味を示さなかった、魔法の方が便利だからだ。


 ただ電子楽器となると話は別で、ドワーフ達の熱狂ぶりはかなりのものだった。カイドと彼の同胞たち数人が猛勉強して人間から電気の仕組みを教わると、電子楽器各種と変圧器やカーバッテリーをアッチ界に持ち込んで、魔力で作った電気でカーバッテリーを充電する装置を開発した。


 で、その電力を使って電子楽器を動かして宴を催したそうだ。はじめてアッチ界で電子楽器の初披露ではユリハ達JOXAの職員も招待されて、盛り上がりは相当なものだったという。


 こっからカイドのノロケ話が始まる。


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