第39話 カイド達の逆襲
アキラが花太郎に走りより、握りしめた魔石で回復魔法を施そうとしている。
すっかり小さくなった魔石が光り出すと、布越しだけれど花太郎の患部が輝いているのがわかった。
「嘘やろ……」
アキラに焦りの表情が見えている。
最初は無言で魔法をかけていたアキラだけれど、詠唱らしい単語をつぶやき始め、治癒魔法を連発しだした。
患部は確かに輝いてはいるけれど、ぐるぐる巻きにした衣服に血糊は広がり続けていて、止血できている様子はない。
「あかん、あかんぞ」
遠くを見やるアキラ。方角はワームホールの出口の方だ。
アキラは何かを念じるように一瞬だけ目を閉じ、開けた。
「……手、右手は?」
多分独り言なのだろうけど、とりあえず僕は花太郎の右手が落ちている方角を指さした。
アキラは訝しげな表情を見せたけど、指さした方角に右手を見つけると駆け寄って行った。
連続した鈍い音がする。…………アズラだ! アズラの足音だ。
巨大化したアズラがカイド達四人を抱えてこっちに向かっている、驚異的なスピードで。
アキラはアズラ達を見つけると両手を振って近づいた。
「屈みな!」
アズラはカイド達を乱雑に地面に置くのと一緒に、先端に石の重りを付けたロープを自身の足下に落とした。
アズラが重りの部分を拾うと、振りかぶって遠投した。カイド達は地べたに突っ伏したままだ。
次にアズラはロープを拾うと両腕でしっかりと握り、まるでハンマー投げの選手が助走をつけるような姿勢で身体を回転させた。
アズラがコンパスの針となって、重りとロープが直径百数十メートルほどの円を描いた。
「うぉ、おお!!」
ロープの一部がアキラの身体に触れ、巻き付いた。
「あいつは幻影じゃないね。出番だよサイア!」
アズラの呼びかけで真っ先にサイアが立ちあがると、アズラの持つロープに触れた。カイド達も立ち上がる。
「ストリング・バインド!」
「ふほぅ!!」
アキラが振りほどこうと手をかけていたロープが、さらに両腕を巻き込んできつく締まる。これは対幻影魔法用の戦術だ。
止めないとまずい。もうアキラに戦意はないし、ロクに魔法も使えないんだ。
全速力でアズラ達の所に向かう。
「ハナタさんっ!」
[いや、エア太郎の方だけど]
姿が見えていても声は届いていない。
「魔が察してるぞ!」
ん? シド今何言った?
「アズ! サイアを連れて先に行けぇ!」
「わかってるよっ!」
言いながらアズラはロープを勢いよく引っ張りあげた。
ロープの先に括りつけられたアキラが弓なりの軌道を描いて向かってくる。
「後は頼んだよ!」
「「引き受けたぁ!」」
二人のドワーフの返答を聞き終わる前にアズラはサイアの身体を掴むと、花太郎の元へ跳躍した。
カイドが飛んでくるアキラに向かって走り出す。シドがその場で身構えて、傍にいるユリハはハンドガンを構えた。
カイドが飛びかかるように小さく跳ねて、右腕でラリアットをかます。アキラが「うぼぅ!」と呻く。
「どりゃぁ!」と言いながらカイドは左足で着地すると、反動を利用して、片足立ちでくるりと身体を半回転させた。
「シィドォォ!」
「応ぅッ!」
慣性の力でアキラの身体は掴まれてもいないのに、カイドに密着したままだ。
カイドは宙に浮いた右足をシドのいる方へ大きく踏み込み、上半身を目一杯捻った。
そしてアキラをブン投げた。”投げた”ではなく、”射出した”という言い方が正確だ。カイドの一連の動作は全身をバネにしてその反動を物体に送り込む、カタパルトのようだった。
全ては一瞬の出来事だったけれど、ひどく時間がゆっくりと流れているように感じた。どうしてこんなにスローなんだろう。アキラがキリモミしながらシドに向かって、まるでミサイルのように頭からまっすぐ飛んでいく様子も、「うぼうぼぼぉ!」と喚く声もゆっくりで、もどかしかった。
ああ、そうか。やけに遅く感じるのは、アキラを助けられなかった罪悪感のせいだ。
ごめん、アキラ。ええと。……とりあえず死ぬなよ。
シドが身を屈めた。
アキラの身体がシドの頭上を通過する刹那、シドがまるで栄光を勝ち取ったかのように勇ましく右拳を真上に突き上げると、アキラの首根っこを掴んだ。
アキラの飛び行く軌道がほんの一瞬、僅かに上昇した。
そして床に叩きつけられた。垂直に、頭からだった。
シドはカイドの投げた勢いを殺すことなく、さらに力を上乗せしながら軌道を真下に変えていた。歴戦の戦士二人の華麗な連携だった。
「やりすぎよ! 死んでしまうわ!」
僕の言いたかったことはシドの傍にいたユリハが代弁してくれた。アキラは肉体強化もされていない”ただの人”なのだ。
アキラは縛られたままで全身がピンと伸びていて、首だけが左の方向にカクンと曲がっている。
意識はあるようだ。でも変な痙攣をしている。
ユリハは仰向けになっているアキラの肩のあたりを跨ぐように仁王立ちし、アキラの顔を見据えながら銃口を向けた。
アキラの意識が徐々に覚醒していくのがわかった。……これは命に別状ないと判断していいのだろうか。
「死んでしまうわ!」
どうしてユリハはこのタイミングで同じことを二度言ったのだろうか。
「気付けしなくちゃ」
ユリハの目つきが怖かった。
そしてハンドガンを連射した。
一発目の弾丸がアキラの顔の右側面をかすめると、二発目の弾丸は左側面をかすめた。三発目は右、次は左とユリハは弾丸を撃ち続けた。
「ヒギッ! ヒギッ! ヒギュ! フギュゥッ!」
腕を胴体ごと縛られ、ドワーフの連携攻撃を受けたのだから、まともに動くことも出来ないのだろう。叫びとも呻きとも反射とも判別出来ない奇妙な音が、ユリハの放つ弾丸が床を削り取るたびにアキラの声帯から発せられていた。
ユリハが弾倉一個分、十五発の弾丸を撃ち尽くすと、素早い動作で新しい弾倉を装填し、再び構えた。
アキラは既に失神していた。失禁もしていた。
…………失神だよな? 生きてるよな? 花太郎の返り血で顔中が真っ赤になっているから、余計不安になる。
ユリハが構えを解くと、右手に銃を持ちながら左手の指先でアキラの首の付け根あたりを押さえた。そして言った。
「よかった、生きてる」
やりすぎだよ、ユリハ。
「でも、気を失っているわ。気付けしなくちゃ」
「「やり過ぎだ!」」
二人のドワーフがユリハを止めた。
アキラ、ごめんな。




