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第208話 反撃開始


 この事態は、支部園庭に設置されたシェルターの様子を、いち早く観測できなかった僕に責任がある。


 僕は上昇して、くまなく策敵を行った。


 どうやらシェルターの天井にとりついていたロボット軍団は、どこかから監視されているのを警戒してか、友軍が上空へ飛ばされた直後に園庭に降りて、家屋の影に身を潜めていたみたいだ。

 さして離れてもいない神殿広場からJOXA支部園庭へと続く大通りに、ロボットたちが集結している様子を観測した。


 やつらの背後に延びる道の先には、天井が穴だらけになったシェルター。その中には顔なじみの住人達。そしてJOXA支部の内部には、ターさんと柿崎さんがいる。



 未来人たちは、最初の交渉で技術提供を条件に提示していたから支部を破壊するつもりはなかっただろうが、こうなった以上、何をしでかすかわからない。急がなければならなかった。


 NOSAの五人は、能力を維持し続けながら、素早く移動を行うことはできない。グエンが所持している発信機を、僕たちJOXAのメンバーが支部の建物の背後まで持って行ってグエンの知覚エリアを拡張。NOSAの五人が、エリア内にいるドルイド達を一掃する。


 発信機は全部で三つある。どれか一つでも到達できればいい。


「部隊を編成するわ」


 ユリハの采配で担当が割り振られた。


 発信機は、悠里、咲良、そして花太郎が預かった。これはトーカーにのみ精神感応できるキャメロンの能力とユリスの予知能力を駆使して、ターゲットであるトーカー達の危機を察知し、回避を促すためだ。


 部隊は二つに分かれた。


 からめめ手は、花太郎、咲良、アキラ、シンベエの四人。別働隊として機能を果たす少数編成だが、機動力を重視した作戦の要だ。


 花太郎とマナの入った酸素ボンベを背負ったアキラが、シンベエに跨がり、咲良と共に低空飛行で支部を目指す。


 地表にマナが戻ってきているとはいえ、未だに本調子を出せないシンベエが背中に人を乗せて高速移動を行うには、二人までが限界だった。こちらも本調子ではないが、咲良のFUと、マナの燃費が良いアキラの幻影魔法で援護しながら、ドルイド達のレールガンの射線に入らぬよう、家屋を盾にしながら進む。


 残るメンバーは本隊として、支部へと続く道を占領しているドルイド達と対峙する。


 カイドとシドのサポートで最前線を担うのは、僕と、悠里だ。


 僕がドルイドたちの魔法鞭マジック・ウィップから悠里を守り、発信機を持つ悠里は”透過”を駆使して、ただひたすら一直線にドルイドたちの陣形を突っ切る。悠里の後方に流れたドルイドたちは、必然的にグエンの知覚エリアに入ることになるから、その後はマリーとヴィオが処理してくれる。


 ドルイド達を蹴散らした後も悠里と僕は引き続き、支部の背面を目指す。後方ではアズラに乗った香夜さんが追随して、悠里か花太郎たちが発信機の設置場所に到達するまでの間に攻撃を受けないよう、謎生物の虹色オーラで、破壊されたシェルターの補修と、JOXA支部の出入り口を封鎖する。

 

 香夜さんが謎生物ストラップの虹色オーラを放つと、魔法使い達の目の前に、おもちゃのような長盾がいくつも出現した。

 一見チープな塗装のせいで、モロそうな印象をうけるが、中身は重厚な金属でできてるようだ。ニモ先生が香夜さんに感謝しながらも、その重さに苦言を呈していた。


 地表のマナがある程度満たされている今なら、この重い長盾も魔法使い達は持ち上げることができる。彼らは、道の端から端までを塞ぐように、盾による外壁をつくった。


「ワタシの予知は万能ではありません。定位置に止まっての迎撃であれば、予知を絞り込むことができますが、移動していると、可能性の因子が多岐に分かれてしまい、”ブレ”が生じます。気をつけて」


 ユリスの手短な忠告を受け、僕たちは配置についた。

 準備は整った。



 支部と神殿広場を結ぶ大通りで、僕たちは集結したドルイドの軍団と対峙した。



「いくぞ ヤロウ共ぉ!!」

 カイドが得物を振りあげる。


「ウォォォォォォォォ!」

 シドや、魔法使い達がそれに呼応して鬨の声をあげながら、一斉に駆けだした。


 

「もう、容赦はいたしません!!」

 先頭に立つ無人の一機から、真中の声がすると、ドルイド達は一斉に射撃を始めた。


 リズたちの詠唱で、水の防壁が出現する。


 戦闘域が狭いおかげで、少ないマナでも十分な厚さの防壁が展開できていた。


 部隊が防壁に守られて接近をしている中、唯一僕だけが、防壁の外側で矢面に立たされていた。下手に触れてしまって魔法が解除されたらひとたまりも無いから。

 熱を帯びたレールガンの弾丸が、僕の体をすり抜ける。


「エアっち、いっさましい~!」

[大丈夫なのはわかっていても、怖いものは怖いよ]


 防壁を隔てた向こうで悠里が笑う。


「だよねぇ! どこまでもツイてくよエアっちぃ! ちゃんと守ってよね!」

[うれしいねぇ! がんばっちゃうよボク!!]



 イメージを巡らせた。


 いつの間にか居候を始めた、彼女の住まいの入り口にある扉を。


JOXA社宅(アルティメット)悠里部屋の扉(シールド)、展開!」

 僕が半透明の扉を顕現させた直後に、ペティがドルイド達に向けて、業火の魔法を放った。


 熱を帯びて一時的に射撃不能となった隙をついて、僕と悠里は突撃した。


「リズゥ!!」


 悠里が叫びながら、透過を使って水の防壁を抜けると、彼女の目の前に、薄い水の壁が出現する。ペティの魔法で熱くなったドルイドのボディを冷却するためだ。単独で壁の形を維持しながらそれを高速で移動させる魔法は、リズにしかできない高等なものだった。


 視覚がおかしい。


 まるで目眩におそわれたかのように、ドルイド達のボディが二つに分かれた。片方は実体がしっかりとあって、もう一つは、まるで残像のように……。


 そして僕の前方には、扉を持ちながら、敵陣に突っ込んでいく僕の身体があった。

 ……ユリスの未来予知だ! キャメロンの精神感応は、僕にも効果があるらしい。


 ドルイド達は、半透明の自分の虚像を寸分違わずなぞりながら、両腕の魔法鞭マジック・ウィップを放ってきた。


 見切った! ……ユリスが。


 僕と悠里は陣中を突き進んだ。

 当たらない攻撃には目もくれず、悠里をねらう魔法鞭だけに触れて無力化させた。近接して0距離から放ってくる機体には、悠里の後ろを追随するカイドとシドがその斧で切り捨て、ユリハが防壁から銃だけを突き出し、サイアは山なりに矢を放って、援護していた。


 悠里に追い越された機体は、上空へと飛ばされたり、機体同士が激突して、機能停止した。マリーとヴィオの能力発動には、4、5秒程のタイムラグがあるみたいだ。


 後方にいたドルイドたちが、一斉に退却を始めた。


 いや、違う。後退だ。四つ足になってドルイドは後退しながらも、身体はこっちを向いて、レールガンを放ち始めた。


 奴らは支部に向かってる。悠里の足では引き離されるばかりだ。


「アズゥ!!」


 カイドが叫ぶと、香夜さんを乗せたアズラが向かってきた。

 後退しているドルイドたちの陣形は、すでに崩れていて、射撃はまばらだった。


「リズ! あたしの足にあわせるんだよぉ!」

 遠くへ叫びながらアズラは、悠里を両腕で抱きかかえ、さらに加速した。


「あんたも来なぁ!」


 僕は、背後から迫ってくるリズの水の防壁を打ち消さぬよう、ちょっとだけ上昇して、アズラの頭上あたりで”ぼけら~”モードに切り替え、追随した。


「アズアズこっち! つぎ反対!!」


 悠里は両手をアズラの首にあてがって舵をきり、ドルイドたちの攻撃を回避する。悠里も僕と同じように、ユリスの予知を共有しているのだろう。


 防御しながらの進軍から、強行突破へと作戦が切り替わると、ニモ先生達が、水の防壁を解除し、香夜さんが顕現させた長盾だけで身を守りながら、散回するドルイドたちに攻撃魔法を放ちはじめた。


 アズラは背中に香夜さん、両腕で悠里、頭上に僕を乗せながら、ただひたすら、前だけを見て突き進んでいた。


 園庭のシェルターが見えた。


「香夜ぁ! やりなぁ!!」

「はい!!」


 香夜さんの謎生物ストラップが、虹色オーラを放ってシェルターを覆った。


 シェルターにお菓子の家のビスケットのような模様の屋根が被さった。ここからではよく見えないが、穴だらけの天井に無事に蓋をすることができたみたいだ。


 

 僕たちの目の前にいたドルイドがレールガンを放った瞬間、自身の弾丸に貫かれて後方に吹き飛んだ。


 前方にいるドルイド軍団が、NOSAのテリトリーに入ったらしい。


「花太郎さんたちだ!」


 香夜さんが歓喜の声をあげた。

 通りの右方向から、シンベエと咲良が、低空飛行で目標地点に接近していく姿が見えた。

 ペティの業火の魔法を合図に、別ルートで出発した花太郎たちが、僕たちを追い越したのだ。


 陽動はうまくいったが、ここからは花太郎達が狙い撃ちされる。


「行ってやんな!」

「ちゃんとお勤めしてきなよ、エアっち!!」


 アズラと悠里に促され、僕は花太郎が持つ”エアっちボール”に向かって瞬間移動テレポートを行った。

次回は2月22日、投稿予定です!

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