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第207話 形勢逆転。ヒーローはいつも遅れてやって来て……

 ”静かな爆発”で消失し、AEWで再構築したNOSAの五人のトーカー。マリー、ヴィオ、グエン キャメロン、ユリス。



 彼女らは再構築で得た能力によって、NOSA、JOXAがAEWで行ってきた地質調査任務において、活動拠点の迅速な設営と移動を可能にし、敵性生物モンスター蔓延ばっこする自然豊かな環境に戦闘力を持たない学者たちを滞在させ、さらに月の砂が産出された丘陵地帯、ムーン・グラード発見という大きな功績を残した。



 国籍も人種も異なる彼女らの能力を一つに掛け合わせることによって、その力は、”最強の盾”となる。


 僕は、彼女らの能力が威力を発揮している様を、上空から眺めていた。


 文字でしか知ることができなかったその力は、僕と花太郎の”魔法を無力化する”能力とは、まるで次元が違っていた。


 各シェルターの天井部分を占領していたドルイド達が、強烈な力に押され、上空へ跳ね上がる。


 同心円上に僕たちを見下ろす護衛機”エイ”たちは、バランスを崩しながら街を離れてゆく。まるで、膨らみ続ける風船の表面に張り付いているゴミカスを、内側から眺めているような感じだった。


 マルグリッド …… ユリハたちから”マリー”と慕われる彼女は仏国と米国のハーフだ。

 彼女の能力は見つめている対象物の周囲に、不可侵の見えない壁をつくること。対象物以外は難なく通り抜けることができるが、対象物がそれに触れると、反対方向へと吹き飛ばされる。

 マルグリッドはその不可侵の壁を、奴らの足下に設置したのだ。……これじゃぁ不可侵の床だ。



 ドルイド達は空中でバランスを崩しながらも、地表に向けてレールガンを放った。護衛機”エイ”たちの中で、運良く砲塔を下に向けることができた機体も魔導砲マジック・キャノンを放った。

 しかし、それらの砲弾は地表に到達する前に180度方向を転換し、自身のもとへと戻って行く。


 ドルイドの軍団は自分で放った弾に貫かれ、護衛機エイたちは、小惑星帯を押し広げて母艦を航行させるための装備に、自らが標的となってさらに上空へと押しやられていた。


 ヴィオ ……仏国人、本名はヴィオレット。彼女は月面クレーターでも観測された”空間湾曲”を再現できる。見つめた対象物の進行方向に鏡面世界を形成し、侵入してきた物体の力の方向を真逆に変換する。



 マリーとヴィオの能力があれば、拠点の制圧、防衛が行える。だけど、それはあくまで、二人が見つめることの出来るエリアに限られる。二人にとって対象となる物体やエリアが、”良く見える”状態でなければ、能力を使えない。その短所を、残る三人が補う。


 ベトナム出身のグエンは、毛髪などの自分の身体の一部に特殊な魔石をくっつけることで、彼女だけが使える発信機ができる。その発信機を設置した場所の周囲で”動く物体”を、彼女は知覚する。


 その発信機は、ムーン・グラードで拠点を造るときにも使っていて、花太郎たちとムーン・グラードに到着した初日に悠里に教えてもらったものだ。飾りのついた杭の形をしていた。

 以前、効果範囲は何処までかという実験を行った際に、リッケンブロウムの街の境界線にあたるエリアと空中神殿に杭を打ち込んで、そのままにしていたらしい。それが今回、効果を発揮したのだ。


 発信機を複数打ち込んだエリアの内側にグエンが立つと、発信機の周囲だけでなく、発信機同士が繋がり合い、発信機の内側のエリアで動く物体の全てを知覚できる。


 さらに範囲は立体的になり、発信機と、彼女を結ぶ距離の分だけ地下、上空の様子もわかるようになるという。


 僕も花太郎血液ブラッドを介すれば似たような事ができるけど、効果範囲はそんなものの比じゃない。


 そのかわり、僕は花太郎血液ブラッドを介することで周囲全体の情景を眺める事ができるが、グエンの能力は”動く物体”しか知覚出来ないというのが短所だった。

 だけど、この短所こそが、マリーとヴィオの能力を最大限に引き出すことのできる利点らしい。


 対象物を”見つめている”状態でなければ能力を発揮できないマリーとヴィオにとって、無駄な情報を一切与えずに、”全てのターゲットを常に注目できる”という環境を創るのだ。


 そして、この環境を二人に提供するのが、米国人のキャメロンだ。


 彼女は、トーカーに限り精神感応、……”テレパシー”の送受信ができる。しかし、送受信できるのは、言葉でなく、”映像ビジョン”だ。彼女は、意識をつないでいる人物の誰かが知覚している世界を送受信する。


 彼女が五人の意識をつなげ、有視界範囲でしか効果を発揮できなかったマリーとヴィオの能力を、グエンの能力によって発信機を設置したエリアである、街全体にまで広げることができるらしい。


 不測の事態には、カナダ人のユリスが対応する。彼女には予知能力があった。


 予知というよりも、”超正確な行動予測”というのが正しいらしい。事前に予知を行った彼女が対処することによって、その予知を回避できるからだ。


 彼女が”見つめている”物体の、約二秒後に起こる出来事を彼女は知ることができる。


 ユリスもマリーやヴィオと同様、グエンの能力によって予知できるエリアが拡張し、マリーやヴィオが追いきれない銃砲弾の軌道や、エリア外からの不意打ち、発信機の破損を予知すると、キャメロンの精神感応によって即座にマリーとヴィオに伝わり、タイムロスを起こすことなく対処することができる。




 形成は一気に逆転した。 




 僕たちや、シェルターを囲んでいたロボット軍団は、マリーが操る不可侵の床によって上空に打ち上げられ、地上にはもういない。あとに残る未来人達の軍勢は、活動を停止し、ぴくりとも動かなくなった降下用ポッド”リモア”だけである。こいつらも遠隔操作で少しでも挙動しようものなら、たちまち空に打ち上げられるだろう。


 地表に向けてレールガンを放ったドルイドたちは、ヴィオの能力で弾丸を跳ね返されて自身の銃弾が着弾し、空中で分解した。粉々になった破片すら知覚できているのか、ヴィオが起こす空間歪曲が落ちてくる破片を何度も跳ね返し、街に被害が及ばぬよう、まるでピンボールがピンに当たって跳ねながら落ちていくように、徐々に高度をさげていった。


 ヴィオの能力の法則に気づいたのか、発砲を行ったのは最初に空中に投げ出された一団だけで、あとは、マリーの能力のされるがままになっていた。彼女が展開する不可侵の壁が、ロボット軍団をガンガン上へと打ち上げ、家屋のない広場や、街の外の方へと押しやって行く。


 あれだけの高度から落ちてくれば、粉々になるだろう。 マリーはドルイドたちを、グエンが知覚しているリッケンブロウムのエリア外まで押し出すつもりのようだ。


 護衛機”エイ”たちにも、容赦はなかった。


 不可侵の壁に阻まれながらも、フラフラとシルヴァホエールに帰投していくエイたちにその能力を重点的に行使して、母艦に叩きつけ、母艦にダメージを与えながら、エイたちを撃墜させていく。


 エイたちすぐさま、母艦から距離をとりはじめた。すると、今度は不可侵の壁で無理矢理に護衛機を母艦の近くまで運びだし、激突させていた。

 未来人たちは対抗策として、シルヴァホエールを上昇させながら、”エイ”同士を魔導砲で水平に打ちあい、遠くへと追いやった。


 その内一機のエイが、グエンの知覚できるエリアを超えたのだろう、エリア外に出たことで攻撃の手が止んだことに気づいたらしく、エイの一団が離脱に成功した一機の護衛機に向かって動き始めた。シルヴァホエールの巨体は遠く彼方にある空中神殿と同じようなゴマ粒みたいな点と化していたが、未だマリーの不可侵の壁が効果を発揮しているらしく、挙動がおぼついていなかった。


 上空を上り詰めた黒い点たちがグエンの知覚エリアを超えた。エイの一軍が離脱した方角へと移動を始めた。



 ヴィオの鏡面世界を創り出す能力があれば、一度出てしまった未来人たちの兵器は、リッケンブロウムに進入することはできない。


 母艦の撃墜は出来なかったが、目的は街から追い払うことだ。彼女らは目的を完遂した。



「ユリィ!! 大丈夫!?」


 高度を上げたシルヴァホエールが、ここから見える空中神殿と同じ大きさくらいのゴマ粒みたいになりながら、リッケンブロウムの上空から去っていった後、地上神殿の奥から五人のトーカーが姿を現した。


 五人は船外活動用の宇宙服の下に着るNOSAのロゴが入った、全身タイツのパッツリしたコスチュームを着ていた。腕部に刻まれた氏名と、それぞれ色が違っていた。フルフェイスヘルメットを装着していたら、子ども番組で大活躍する、戦隊もののヒーローさながらの出で立ちだった。


 素顔のヒーローたちを、ユリハはショットガン片手に腰に手を当てて、ややふっくれっ面で出迎えた。


「ちょっと遅いわマリー! 絶体絶命の危機一髪だったのよ!」


 ユリハはちょっとだけ不機嫌な態度をみせる。


「宇宙ケーブルの先っちょからシャトルをトばしてキたんだよ!? 秒速3キロのスピードで!」


 言ってはいるが、マリーの表情はにやけていて、冗談半分で言い返しているのがわかる。


「だったら、33秒でつくじゃないの!」

「そりゃ、通信入るまで宇宙空間で作業してたし? シャトルで移動中も加減速しなきゃだし? 秒速三キロは、最高速度ってダケだけドさ……」

「……本当に、助かったわ」


 言いながらユリハがマリーを抱きしめた。


「ありがとう。来てくれて」

「ドウイタシマシテ」


 マリーもユリハを抱き返した。


 ヴィオ、グエン、キャメロン、ユリスは、サイアを抱きしめていた。サイアが苦しそうだった。



「ユリィ、ミスタータダカ(ターさん)は?」

 グエンが真後ろからサイアを抱きしめながらユリハに問うた。


「ターさん、柿崎さん、聞こえる?」

『こちら管制室。みなさんご無事でなによりです』


 無線機で話しかけると、元気な声が帰ってきた。


「グエンが二人の居場所を知覚できてないみたい。ちょっと、動いてみてくれるかしら?」

『……いま、柿崎さんと手を振っておりますぞ』


 グエンの表情が変わった。


「いない。二人とも、どこにもいないよ!」

「あ……」


 局長が”しまった”という表情になる。


「すまないユリハ君。君達がムーン・グラードに行っている間に、支部のちょっとした補修と改修工事をしてね。その時に、もしかしたら外してしまったかもしれない。……グエンの発信機を」


 ……なんてことだ。


「グエン、発信機は持ってる?」

「三つあるよ」


 ユリハの問いでグエンは発信機を取り出した。 杭の形状ではなかったが、平べったい”エアっちボール”みたいなケースだった。


「NOSAのメンバーは、素早い移動を行うと能力が維持できなくなるわ。私たちで対応しましょう。支部の園庭にもシェルターがある。急がないと」


 ……おかしい。


[悠里]

「ん?」


 僕は、近くにいた悠里に唇を読んでもらい、言づてを頼んだ。


「ユリっち。エアっちが、空から見たところによると。園庭のシェルターに、ロボット達はいないって」


「……確かにおかしいわね。だけど、敵の母艦が高所にいる今がチャンスであることにかわりないわ。もう一度マナ・ドレインを発動される前にカタをつけましょう!」 


 地表ではマナが戻りつつあった。僕たちは街を守るため、最後の仕上げにとりかかった。


次回は2月19日 投稿予定です。

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