表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

206/229

第206話 箱の中身


「ならば、平塚局長殿。取引に応じて頂けますか?」

「その前に一つ。話をさせて頂きたい」

「時間を稼いだところで、状況が好くなることはありませんよ?」


 真中が威嚇射撃を行う。


「い、いや。話というのは、あなたに関することなのだ。今後の為になるとも思う」

「……手短にお願いします」

「わかった。手短にな。……ええと、……ええと」


 再び威嚇射撃を行う真中。


「私は平塚殿の返事が聞ければそれでいい。イエスか、ノーです」

「わ、わかった。わかった。後生だから、て、手短にな! ……見ての通り、武器は持っていない。手を降ろしてもよろしいか?」

「どうぞ」


 局長は、うやうやしくゆっくりとした面もちで手をおろし、後ろで組んだ。


「今後は毅然きぜんとした態度で全く意に介さないことが、大事だ。こういった話題は嵐のようなものだからね。むやみに対抗せず、通り過ぎるまで、やり過ごすに限る」

「なんのお話をされているのですか?」

「先ほど君が、からかわれた件だ」


 真中、威嚇射撃。


「あ、あなたの為を思っていったのだよぉ!!! 私も経験あるから!! そうやって、ヤケになればなるほど、陰でささやかれるんだよぉ!!」


 真中、撃とうにも撃てない。


「私が伝えたかったのは、それだけだ。真偽はいつも二の次、三の次なのだ。レッテル張りはやり過ごすに限る」

「……それで、返答は?」


 ブツッという音がすると、ユリハの無線機からターさんの声が聞こえた。


『こちら官制室。こちら官制室。”箱の鍵”は、すでに解かれておりますぞ』


 局長が大きく息を吸った。


「ア・キ・ラ、くーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!」

「きえぇぇぇぇぇいあいあいあいあいあいあいあいおぉぉぉぅ!!!!」


 ヤマビコの代わりにアキラの雄叫びがかえってきた。


「何をした貴様ァ!」


 二階堂の繰るドルイドが、四本足で跳躍し、局長の身体にのしかかりって、手足の自由を奪った。


「神殿のバリアが……外れています!」

「何だと!!」


 真中に報告を行いながら、二階堂が局長の腕を締めあげる。


「ぐぅぅ!!」

「未次飼さん、そこにいるんですね! 出てきてください! さもなくば!!」

「ぐあぁぁぁぁ! ギブ! ギブアップだ! ギブアップですぅ!!」

「出てきなさい!!」

「む、無理です! きっと彼には聞こえてません! 失神している。彼は今ので失神してるから!!」

「ごまかしを!」

「だれかぁ! 彼を起こしに行ってくれぇ!」


 駆け出そうとする悠里の足下を、真中の弾丸がかすめた。


「あなたは動かないでください! ドサクサに紛れて逃亡されては困ります。二階堂君、無人機に潜入させなさい」


「罠かもしれません」

「それならば街の住人の命を奪うまでだ。行かせろ」

「はい!」


「その必要は、ないみたいね」

「何?」


 ユリハの呼びかけで、真中たちは神殿の奥をみた。

 奥からJOXAの職員たちが諸手をあげてこちらに向かってくる。


 彼らはまるでカツオブシのように堅くなって気を失っているアキラを頭上に掲げて運んでいた。


 みんな、震えていた。


 無数のロボットたちに銃口を突きつけられながらも、震える足取りで一歩一歩と、こちらに近づいてきていた。


「そこで止まれ。彼を降ろせ」


 二階堂の指示通りにアキラを降ろす職員たち。アキラは、ムーン・グラードでの任務で使用していたマナをため込める酸素ボンベを装着していた。


「キエッ!!! オボゥ!!」


 アキラが覚醒して雄叫びをあげた直後に二階堂は発砲し、弾丸がアキラのそばを掠めた。 


「質問に答えてください。先ほどは、一体何をしたのですか」

「ん? その声は二階堂はんか?」

「質問しているのはこちらです。何をしたのです?」

「なにって……」


 アキラは酸素ボンベをはずしながら、神殿の方をみた。


「おはんらのセンサーでも反応しとるやろ? 神殿の結界を解除したんや」

「……目的は? ”箱の鍵”とはなんですか?」

「それ、俺が答えるのは……おごぉ!」


 二階堂が再び発砲し、アキラの足下で跳弾した。。

「答えなさい」

「ゆ、ゆ、ユリハは~ん」

「……ただのコードネームよ。オペレーション”パンドラの箱”」


 アキラに促され、ユリハが代弁した。


「神の妻となったパンドラが、夫の留守中に絶対に開けるなと言われた箱を開けてしまったお話。箱の中にはこの世の”災厄”が入っていて、彼女が箱を開けた瞬間、そのすべてが飛び出し、世に蔓延してしまった。ただ一つの災厄を残して……」


「”希望”などありませんよ。この状況で、何を企んでいるのか答えてください」


「災厄を閉じこめる箱の中に、どうして”希望”が入っていたのか。これには諸説あるけど、この物語で示す”希望”については、私は”二極性”を示していると思うわ。ほら、この世界って”グレーゾーン”で成り立ってる部分が多いじゃない? もし、善と悪を完全に二分できるようになったら。もしも希望……未来を見通す力がこの世界に飛び出して、あいまいな予測の概念が消え、自分の死ぬまでの運命が全てわかってしまったなら。確率が100と0しか存在しない世界……これほどの絶望はないわ」


 二階堂のドルイドがレールガンを放った。


 彼に続いて、他の無人機たちのレールガンが一斉に火を噴いた。


 防壁を貫き、二機のマイナシウム発生機は完全に破壊され、氷だけになった壁も粉々に砕かれて、メンバーの姿がむき出しなる。


「自分がこの手で、運命の白黒をはっきりとつけてさしあげましょうか?」

「君、上司の彼より人を脅すのがうまいわね」

「応えなさい。どうしてバリアを外したのか」

「”希望”を世界に解き放つためよ」


 ユリハの傍を弾丸がかすめるが、ユリハは動じない。


「同じ星の配列であっても、占い師によってはそれが吉兆か凶兆かはっきり分かれることがある。それはそうよね? みんながみんな同じ星を見ているのに、みんな良いことがあるなんて考えられない。ことに、こういった白黒つけなきゃいけない戦闘においてはなお、そう。古来、戦の日取りは占い師の意見も取り入れていたらしいけれど、彼らが占っていたのは、おそらく”変化”。吉凶は、観測者に立たされた状況によって異なるのよ」


「目的を言いなさい」

「……うちの部下、アキラ君ね。彼に限らずだけど結界を解除するとき、必ず叫ばなきゃいけないみたいなの。オペレーション”パンドラの箱”は、その為に名付けたコードネーム」

「なんだと?」

「本当に苦肉の策だったわ。彼が叫んだ後、発動までどうやって悟られないように時間を稼ごうかって。そのために、ちょっとした小話ができる作戦名にしたの」

「チィッ!!」


 二階堂が操作する無人機から舌打ちが聞こえると同時に、魔法鞭マジック・ウィップがユリハに向かって放たれた。


 が、彼女には到達しなかった。


 二階堂が放った魔法鞭は、ユリハの目の前まで伸びたかと思うと、次の瞬間には、二階堂自身の身体に巻き付いていた。


「二階堂!」

 動揺する真中を見て、ユリハは不適に微笑んだ。


「箱の中身は解き放たれた。これから訪れる”変化”は、あなたたちにとっては絶望かもしれない。けれど、私たちにとっては、まごうことなき”希望”よ」


 神殿広場を制圧した数十機のドルイドたちが、一斉に浮かび上がり、天井へ向かって突き進んでいく。


「ま、真中さん。我々の答えはNOだ」


 余裕の微笑みを浮かべてかっこよく決めたつもりで真中ロボを見上げる局長の顔には、冷や汗がそこら中に噴き出していた。

 

「己ぇぇぇ!」


 それでも真中には堪えたらしく、叫ぶ声音は悔しさに満ちていた。


 天井に激突したロボット軍団が粉々に砕け散り、甲高い金属音がドームに鳴り響いた。


「香夜ちゃん!!」


 謎生物ストラップの放つ虹色オーラの下に、みんな避難した。


 貴族の中庭にありそうな、おしゃれな屋根付きのテラスが天井から落ちてくる機体の破片からメンバーを守ってくれた。


 香夜さんが、”存在の定義”でわずかにドームを動かして、天井を消滅させる。


 視界が開けた。僕は上昇する。


 見渡すと、リッケンブロウムを占領していたロボット軍団が、空高く放り投げられていた。


 データでしか知らなかった光景を、初めて観た。


 僕たちの綱渡りのような時間稼ぎが功をそうしたのだ。


 間に合った。旧地球から駆けつけてくれた。


 僕たちの希望、NOSAの五人が。

挿入歌: 『5th Acceleration』 

甘田花太郎のポエム・あ~んど・ソング集にアップします。


次回は2月16日 投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ